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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第4章 ドッキドッキな野宿体験学習
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第102話

 意外過ぎるラジュールの登場に、リュートたちが瞠目していた。

 場の空気も気にせず、涼しい顔で、両陣営の顔を見比べる。

 何を考えているのか、わからない形相だ。


「過信しているのか?」

 低めの声音。

 目を細めている。

 相当、怒っていることが、一目同然だった。


 狼狽え気味のリュートたちを、見据えている。

 瞠目していたのは、僅かな時間で、その後は、普段の表情に、二人が戻っていたのだ。

 トリスとクラインが、テへと言う顔を覗かせている。

 だが、リューと一人だけが違っていた。

 微かに、身体を強張らせていたのだった。


(相変わらず、先生が苦手だな)


 チラリと、トリスが首を竦めていたのだ。

 そして、諜報員たちに、顔を巡らせた。

 諜報員のリーダーを務めている男が、ラジュールに対し、殺気がこもった双眸を、姿を見せてから、ずっと傾けていたのである。


 全然、リュートたちに、向けていたものとは、桁が違っていた。

 隠そうともしない。

 露骨に、醸し出していたのである。


 向けられている方は、表情一つ、曇らせることもない。

 ただ、教え子である、リュートたちを、窘めていたのだった。

 ラジュールからの叱責を受けながら、煌々と、殺気を燃やす男に、リュートたちの双眸が注がれていたのである。


(((何、仕出かしたんだ? 先生は?)))


「ザック様……」

 諜報員の一人が、痛ましそうに、自分たちのリーダーを視界に捉えていた。

 その手は、ザックの肩に、手をかけるか、どうか、宙を彷徨っている。


 ザック自身、聞く耳を持たない。

 一途に、ラジュールに、眼光を向けたままだ。


 部下の諜報員たちも、場違いに注意しているラジュールや、いつもとは違っているリーダーであるザックを、怪訝そうに窺っている。

「……ラジュール・キューザックか?」

 急に、不敵な顔で、ザックが笑っている。

 突如、名前を言われ、胡乱げな眼光を漂わせていた。


「……そうだ」

 さらに、悦を深めていくザック。

 部下の諜報員たちも、様々な表情だ。

 憐れむ者、気遣う者、眉を潜めている者、困惑している者、それぞれだった。

 そんな部下たちを放置したまま、当惑しているラジュールだけを、凝視している。

 情報を得ようと、捕まえようとしていたリュートたちの存在も、どこかへ行っている様子だ。


「俺と、勝負しろ!」

 勢いよく、ザックが叫んだ。

 突然の決闘の申し込みに、眉間のしわが増えていく。

 ただ、何なんだ? こいつはと言う眼差しで、ザックを見据えていた。


 周りは、パチパチと瞬きを繰り返してみるのみだ。

 何も、言わないラジュールの姿に、苛立ちが隠せない。


「決着をつけてやる」

「「「「「……」」」」」

 鼻息が荒いザックだ。

 勝手にやる気になっている、面倒臭いやつに、嘆息を吐いた。


(……見たことないぞ)


 ラジュール自身、決闘を申し込まれるような、真似をした憶えがない。

 それに、名を尋ねられた時点で、会ったことはないはずだと抱いていた。

 それにもかかわらず、決闘を申し込まれ、困惑と戸惑いしかない。


「……ラジュール。決闘を申し込まれたようだが、何かしたのか? こいつに」

 首を傾げつつ、指を指すリュート。

 その表情は、怪訝、そのものだった。

 すっかり、周りの状況を、忘れ去っていた。


「知らん」

「でも……」

「知らないものは、知らん」

 冷めた眼差しを巡らされ、リュートがあっさりと気圧された。

 しゅんと、黙り込む。

 胡乱げな眼光を、ザックに傾けるラジュールだ。


(会ったこともないやつに、勘違いされ、甚だ、迷惑でしかないな)


「誰かと、勘違いするな」

 鬱陶しいとばかりに、吐き捨てた。

 ムッとしているザックである。

「……勘違いなどではない。俺は、お前に、コケにされたまま、今まで来たんだぞ」

 噛み付くように、吐露されても、全然、コケにした記憶がない。


(誰だ? ホントに?)


 ますます、訝しげるしか、なかったのだった。

「した憶えがない。そもそも、貴様は、フォーレスト学院では、ないだろう?」

「当たり前だ」

 あっさりと、認めた。


 ラジュール自身、学院から、ほぼ外に出たことがない。

 卒業と共に、教師の職についたのだ。

 だから、恨まれることがないと、断言できたのだった。


「だったら、人違いだ」

「違わない。貴様のせいで、俺は……」

 拳を握り締め、ザックが、ワナワナと激昂している。

 顔を、苦痛に歪めていた。

 気遣うような眼差しを傾けた諜報員が、何人かいたのだ。


(あやつたちは、何か、事情を知っているようだな……)


 説明してほしいものだと、ラジュールが視線で、威圧しても、リーダーであるザックが気になるようで、誰も気づかない。


(役立たずどもが)


 徐々に、ラジュールは、人相が悪くなっていく。

 リュートたちが、憐れむような視線を注いでいた。


(使えないものたちだ)


(聞けば、いいのでは?)


(面倒だ。私に、そんな粗末なことを、させるのか)


(((……)))


 顔を伏せていたザック。

 唐突に、顔を上げ、大声で思いの丈を叫ぶ。

「二番扱い、されたんだぞ!」


 叫び終わると、獰猛で、鋭い眼光で、ラジュールを睨んでいた。

 ギラギラさせ、いつでも、やってやると言う意思が込められている。


 捉えられているラジュール。

 ただ、ただ、唖然としているのみだ。


 ザックの言っている意味が、全然、皆目見当も、つかなかった。

 首を傾げていた姿を、ザックは見逃さない。

「……忘れたと、言わせない」

 ますます、意味不明な発言に、眉を潜めていった。


(何を言っているんだ、こいつは?)


 ふふふと、ザックが、不気味に笑っている。

「……卒業後の進路を、我が名誉ある騎士団に、声をかけて貰っていながら、それをあっさりと捨て、学院の教師なんて、つきよって……」

 僅かに、潜めていた眉を解いた。

 何に、怒っていたのか、ようやく合点がいったのである。


「……私の自由だろう」

 平坦な顔で、ラジュールが突っ込んだ。

 対して、ザックの形相が、怒りに燃えたままだった。

 そして、ラジュールの言葉も、耳に入らないほど、自分の世界に、入り込んでいた。


 走馬灯のように、屈辱の日々を、蘇らせていたのである。

 さすがに、部下たちも気づき始め、誰もが、憐みを込めた眼光になっていたのだ。

 ただ、リュートたちは、ぽかんと口を開けている。


読んでいただき、ありがとうございます。

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