第100話
祝100話目です。
これからも、頑張ります。
下で、窺っていた三人の男を、周囲に気づかれず、鮮やかな手さばきで、トリスとクラインが伸していった。
そして、見つからないように、隠蔽も施した。
むやみに、周囲が騒がれると、面倒だからだ。
「お疲れ」
「後は、中だけだな」
上機嫌に、頬を上げているトリスである。
「帰すだけだから」
穏やかな表情を、漂わせているクラインだった。
「だな」
普通の足取りで、酒場に戻っていく二人だ。
「ほら、起きろ」
「いつまで寝ているの。帰る時間だよ」
二人掛かりで、カーチス、ブラーク、キムを起こしている。
けれど、なかなか起き上がらない。
段々と、容赦しないで、起こしていくトリスとは違い、クラインは変わらず、揺すって起こしていく。
リュートは、起きているものの、呆然と座ったままだった。
飽きてしまっていたリュートは、先に眠ってしまっていたが、カーチスたち三人は、クラインが仕込んだ眠り薬により、眠らされていたのである。
クラインがしたことに、三人は気づいていない。
トリスとクラインに強く促され、重い頭を振りながら、ようやく起き上がるのだった。
ズキンと、痛みが走る。
頭を押さえながら、周囲を窺うカーチス。
随分と、店内にいた客たちが、少なくなかった。
先ほど、喋っていた女たちの姿もない。
「あれ? 他の子たちは?」
「帰ったよ」
眠らした三人を起こす前に、男たちの仲間の女たち三人を拘束し、空いている部屋に押し込んでいたのである。
勿論、店主に、自分たちが帰った後に、通報してほしいと頼んでいたのだ。
関係のない、残りの女たちも、優しく起こし、帰していった。
最後に、カーチスたちを起こしたのだった。
「マジか」
「マジだよ」
「何人か、いい子がいたのに……」
痛む頭を気にしながら、ブラークが悔しがっていた。
「そうだね」
顔を歪めながら、キムが頷いている。
三人とも、上手くいなかった現状に、落胆の色が浮かんでいた。
そんな姿に、トリスも、クラインも、呆れ顔を覗かせている。
((俺たちの、苦労も知らないで))
「別に、いいじゃないか。それぐらい」
五人が話し込んでいる間に、リュートが覚醒していた。
痛くも、痒くもないといった、涼しいリュートの顔。
ブラークとキムが、面白くないと言う顔を滲ませている。
カーチスだけが、あっさりと、そうだなと認めていたのだ。
裏切り者のカーチスを、睨んでいる二人。
けれど、そうした視線に気づかない。
「ところで、支払いは?」
トリスか、クラインが、先に、支払いをしたのかと巡らせ、カーチスが尋ねたのだった。
「彼女たちが、楽しい話が聞けたから、自分たちが払うって、払ってくれたよ」
「そうか」
それ以上、何も思わないブラーク。
実際は、自分たちを捕まえようとした男たちから、巻き上げた金で、トリスが支払っておいたのだった。残った金は、別な部屋で、拘束している女たちに、返しておいたのである。
「久しぶりに、合コンができた感想は、どう?」
酒の飲み過ぎで、顔を顰めているブラークたち。
そんな彼らに、にこやかな顔を滲ませながら、感想を聞くクラインだ。
「「……楽しかった」」
少しだけ、顔を和らげるブラークとキムである。
そして、クラインの顔も、少しだけ緩んでいた。
「俺も、みんなといられて、よかった」
口角を上げているカーチスだった。
「それは、よかったな」
満足している三人に、トリスが小さく笑っている。
最近、付き合いも悪かったと言う理由もあったが、カーチスたちの喜ぶ顔も、見たいと言うのも理由にあったのだ。
満足そうな三人の姿に、嬉しさが込み上がっていく。
「また、しようよ」
のほほんとしているキムが、再度することを提案した。
ブラークたちが、安易に賛同している。
「そうだな」
「いいかもな」
どこまでも、のん気な三人だ。
ひと仕事しているトリスとクラインが、疲れた顔を漂わせている。
((いつになったら、バカげた真似をやめるんだ?))
「パス」
「俺も」
「何で?」
冷めている二人に、口を尖らせるキム。
「どうしても」
言葉と、視線で、拒絶を滲ませているトリスだ。
(後始末が、大変なんだ。当分、いい)
ニコッと、いい顔をしているクライン。
だが、その目は、笑っていない。
「次の合コンよりも、精霊呪文を会得しようか」
容赦ないクラインの言葉。
三人が、不満げに黙り込む。
けれど、クラインも、意志が揺るがない。
「もう、手を貸さないぞ。俺も、トリスも」
強気なクラインの眼光。
咄嗟に、三人が傍観していたリュートに、視線を巡らす。
安易に、近場にいた者に、助けを求めたのであった。
「リュートにも、させない」
容赦しないトリスの言葉が、降りかかった。
「ズルいぞ、トリス」
二人がダメなら、リュートに頼もうとした、浅はかな三人を、押さえ込んだ。
逃げ場のない三人組だ。
その顔は、渋面している。
頼む人間を、頭の中で探すが、見つからない。
まさか、リュートがカレンたちを手ほどきし、ほぼ仕上がっているとは見当もつかなかったのだ。
「リュート。三人に精霊呪文を教えてって、懇願されても、教えちゃダメだからね」
いい顔をしているクラインに、リュートが釘を刺された。
二人からの視線。
わかったと、素直に応じるリュートだった。
「「「リュート!」」」
「悪いな、三人とも」
「「「……」」」
トリスたちと、睨み合っていたカーチスたちが、先に根負けしていった。
そして、盛大な溜息を漏らしたのである。
「「「……わかった。精霊呪文を会得します」」」
「よくできました」
にこやかな笑顔を、クラインが覗かせた。
しっかりと、確約を取ったからだ。
「頑張れ」
気軽に、エールをリュートが送っている。
それをジト目で、三人が窺っていた。
ほのぼのとする光景に、トリスが笑みを漏らしていたのだった。
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