第98話
合コン相手の女たちとの、他愛もない会話も、だいぶ進行していった。
親しくなろうと、下心見え見えのブラークたち。
その口が、止まらない。
悪い間ができないように、必死に喋り続けている。
沈黙と言う名の間だ。
不意に、一人の女が、学院のことを、聞き始めたのである。
今まで、学院のことは、会話に上がっていなかった。
女たちも、露骨に出ないように、注意を払っていたのだった。
自分たちのがっつりが、見られないようにだ。
けれど、言葉の端々に出て、気づいている者もいた。
僅かに、女たちの目が変わっている。
女たちも、優秀な伴侶を、見つけようと必死だったのだ。
観光で、訪れる女たちの多くが、自分たちの伴侶探しと、自分たち身内の女の子たちの伴侶探しだったのである。
便乗するように、他の女たちも、根掘り葉掘りと聞き始めてきた。
冷めた双眸になりかかるのを、トリスとクラインが堪えている。
((出始めてきたな……))
「学院って、楽しいの?」
「楽しいよ」
「厳しいんでしょ?」
「まぁね」
「どんな授業とか、しているの?」
「普通だと、思うけど」
「優秀な人とかも、いるんでしょう? 勿論、あなたたちのように」
さらに、鋭くなっていく女たちの眼光。
見た目は、穏やかさを、装っていたのである。
その奥では、獲物を狙うハンターのごとく、狙っていたのだった。
「いるよ」
「例えば、どんな子?」
「どんなって、メチャクチャ強いやつとか」
「なんて言う子? それに、どんなふうに強いの?」
「えーと、なんて言ったっけ……」
「ま、とにかく、できるやつは、多くいるよ」
「……」
諦められない女たち。
確実に、何人かの名前を、ゲットしたかったのだった。
女たちも、事前にある程度、調査していたのである。
その内容が、確かか知りたかったのだ。
「私、噂で聞いたんだけど、法聖リーブ様の息子も、いるんでしょ?」
最も、興味深い質問を投げかけた。
喉から、手が出るほど、ほしかった情報の一つだ。
様々なところで、リュートの情報は、高く売れたのである。
「確かにいるね」
あっさりと認めた。
周知の事実だった。
だから、カーチスたちも、誤魔化さない。
そんなことで、嘘ついても、しょうがないからだ。
「やっぱり、凄いの?」
「凄いらしいよ」
「どんなふうに?」
「とにかく強いよ」
「半端ないよ」
競うように、女たちが口にしていた。
そんな彼女たちの質問攻撃に、にこやかに答えているカーチスたちだった。
女たちと、カーチスたちの押問答を、リュートやトリス、クラインが静観していたのだ。
「将来有望?」
「勿論」
「王宮でも、どこでも、就職できそう?」
「実力的には」
「魔法科でも、剣術科でも、他にも、強い人がいるんでしょう?」
「いるよ」
「その人たちも、有望よね。例えば、どんな性格しているのかな? 後、何て言う名前なの? 聞きたいな」
自分が知りたい情報を、手にしたい女たち。
貪欲さが、滲み出始めていた。
そんなことに、気づかないカーチスたち。
((ああ。露骨だな))
横の繋がりを、構築しなかったため、質問が噛み合っていない。
徐々に、彼女たちの中で、ばらつきが見え始めていたのである。
それぞれが、聞きたいことを、質問していったのだ。
そのせいもあり、彼女たちが、チラ、チラッと、互いに半眼し合う。
彼女たちの中は、険悪な雰囲気になりつつあった。
微かなズレが、大きくなり始めている。
「そういえば、これも、噂で聞いたんだけど、剣術科に移ったとか?」
「そういえば、そんな話も、あったような、なかったかのような」
「えっ。その話は、聞いたわよ」
「いろいろな噂が、飛び交っているからね」
自分の話を持ち出され、不満顔のリュート。
まさか、本人が、目の前にいるとは思わない。
容姿に関しても、様々な噂が流れていたのである。
そのため、目の前にいる人物が、リュートと気づかなかったのだ。
その間も、興味の対象であるリュートの話を、深く追求していったのだった。
カーチスたちは、リュートの機嫌も気にしつつ、話をやめようとはしない。
少しでも、目の前にいる女たちを、自分たちに、引き付けたかったのだ。
自分の話をするなと言えず、ただ、だんまりを決め込んでいる。
いらつきを感じつつも、放置するカーチスたちだ。
様々な質問が飛び交っている。
勿論、その多くが、リュートの性格や、どういった学院生活を送っているのかだ。
言葉を濁しつつ、答えていくカーチスたちだった。
この場にいる、不機嫌全開の、リュートの警戒も窺いつつだ。
余計なことを言って、リュート自身が、バラす恐れがあるからである。
盛り上がっている会話を、壊したくないため、カーチスたちの口も、酒が入っているせいもあり、いつもよりも、若干、滑らかだ。
それに、知られている情報を、誤魔化す必要がない。
ブスッとしている姿に、トリスとクラインが首を竦めている。
この手の話題になってから、二人の口が重い。
口数少なめで、静観し始めていたのである。
和気藹々と、話に花を咲かせているカーチスたちに、不機嫌な顔を隠すこともなかった。
リュートの機嫌も気になるが、女たちとのお喋りをやめようとはしない。
黙り込んだままのリュート。
(面白くない。帰るか……)
出掛かった言葉を、飲み込む。
カーチスたが、楽しい仲間と入られ、面白いと、話しているのを、耳にしたからだ。
(……もう少し、いてやるか)
噤んでいるリュートの口が、僅かに、上がっている。
会話を、途切れさせたくないカーチスたちのテンションが、上がっていった。
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