第97話
合コンが行われている酒場では、カーチスたちのテーブルにいた、女性一人が中座し、人ごみから離れ、隠れるように裏口から外に出ていった。
誰にも、気づかれないようだ。
入口とは違い、裏口に人影がない。
静かなものだった。
そして、突然、人影が、女性の前に姿を現す。
どこにでも、いそうな顔をした男性だ。
繋ぎを取るため、事前に決めておいたのだった。
「どうだ?」
男が、進展具合を確かめてきた。
店内にいるリュートたちを警戒し、外で待機していたのである。
慎重に、事を運ぼうとしていたのだ。
「順調に、進んでいる」
ニンマリと、女が微笑んでいた。
だが、男に、油断したところがみえない。
「気を引こうと、必死になっている」
喋りの勢いが、激しいブラークたちだ。
彼らの滑稽な姿を、思い返していた。
先ほどまで、熱心に話しかけていたのだった。
そのため、なかなか中座できなかった。
頃合いを見て、ようやく、ここに姿を見せることができたのである。何度、離れようとしても、弾丸のように話しかけてきて、話を折ることができずにいた。
「そんなに、必死なのか?」
嘲笑の声音だ。
ようやく、男の顔が崩れたのだった。
「ああ。酷いものだ」
うんざりとした顔を、女が滲ませていた。
「……若いな」
男は、すでに三十前半だった。
今回の仕事で、リーダーと務めている訳ではなかったが、それに近い立ち位置にいたのだ。
「後、どれぐらいで、連れ出せそうだ?」
仕事の内容としては、六人全員、捕獲するのではなく、一人か、二人を誘き出し、そして、捕まえ、情報を聞き出そうとしていたのである。
手堅く、事を進めようと画策していた。
女たちの役目は、一人か二人、もしくは数名を、外に誘き出すことだった。
誘き出した者を捕まえる算段が、しっかりとでき上がっていた。
「もう少し、掛かるだろうな。しつこいからな」
「そうか」
どこか、思案する男。
そんな彼の様子が気になる。
「何か、問題でもあるのか?」
「近くに、別な諜報員と、警備の者たちがいる」
男の話に、眉を潜めている。
手にする情報は、自分たちだけのものに、したかったのだ。
他の諜報員に知られれば、争うか、手を組む方法しかない。
せっかくの旨みは、独り占めしたかったのである。
胡乱げな顔を、女が窺っていた。
そして、女が男を視界に捉える。
「捕まえるのか?」
「いや。怪しまれ、増員されても、困るからな」
最もな意見に、頷くしかない。
「放置は、難しいんじゃないのか?」
「……」
「生徒たちが、ここにいると言うのは、時間の問題だろう?」
その通りなので、男は何も言えない。
だが、自分たちが動くことにより、知られる可能性もあったのだ。
その際、情報の一部を、開放する可能性もあったのだった。
「警戒しつつ、放置するしかない」
「私たちは、どうする?」
「引き伸ばせ」
意外な行動に、眉間のしわが濃くなる。
急かされるのかと、巡らせていたのだ。
「引き伸ばして、大丈夫なのか?」
思わず、不安が顔に出てしまう。
「その間に、やつらを、別なところへ、誘導しておく」
逡巡し、女の口の端が上がっている。
目の前の男を、双眸に捉えていた。
「……わかった」
その後、細かい段取りを決め、女がリュートたちの席に戻っていった。
男も、仲間と段取りを決めるべく、仲間たちの元へ、帰っていったのである。
その間も、近くにいる、自分たちとは違う諜報員や、警備している者たちを、窺うことは忘れない。
念入りに、自分たちとは違う、諜報員たちの背格好や、特徴、何人体制でいるのかを、咄嗟に、頭に叩き込んでいったのだった。
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