第8石 夢、学校、告白
──「また会ったな、立花秋人」
……は? また、って……何のことだ。誰だお前。
「そう警戒するな。我はずっとお前の中にいたぞ? それに、我が何者かなど些末な問題だ。お前の言葉を借りるのなら、そんなことは心底どうでもいい」
さっきから何を言ってる……何がしたいんだ。
「とぼけるな。もう我は待ちきれないぞ。あんなに我を求めたんだ。我も、お前を求めて良いだろう?」
なんで笑う。そんなに嬉しそうに。何が、何がそんなに楽しみなんだ。
「では、頂くとしよう」
何を……い、た、い。痛い。痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛いやめろやめろやめろやめろやめろヤメロ助けて嫌だ怖い嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だあああああああああああ
「ああ……もっと……足りない、求めてくれ、我を。期待しているぞ、立花秋人…………」
誰か、誰か誰か誰か誰か誰か、俺を、今すぐに
殺しt
──「秋人!」
「……ああっ!!! ……ハアッ! ……ハアッ、ハアッ」
……痛く、ない。苦しくもない。熱いのも気持ち悪いのも怖いのも、無い。
「秋人、どうしたの……? なんか変だよ。さっき、突然うめき始めて、それで私、どうしたらいいかわかんなくて、怖くて……」
タイヨウが俺の手を握り、泣き出しそうな顔をしている。震えているのは俺なのかタイヨウなのか。ゆっくりと目が覚めていくと、体中汗だくなのがわかった。気持ち悪い。
「悪い、タイヨウ……シャワー浴びてくる……」
そう言うと、タイヨウの手がほどけた。その感覚がなんだか恐ろしかった。ひとりになってしまうようで。
──シャワーを浴びて、制服に着替える。だいぶ頭が落ち着いたが、顔色はまだ悪い。鏡に映る自分の顔を見て、余計に不安になる。やめよう、所詮夢。あんなもん何でもない、何でもないと思ってなきゃ、やってられない。テーブルには、もう朝食が並べたられていた。
「秋人、大丈夫? 気分悪かったらごはん減らすよ?」
「いや……いい、もう大丈夫。ここんとこいろいろあったからな。疲れてんのかもな」
「……ねえ秋人、今日は学校休めないの? 絶対変だよ。病院で診てもらおうよ」
「大丈夫だっつうの。お前もさっさと食え」
沈黙。タイヨウも渋々朝食を食べ始めるが、時々俺の顔色をうかがっている。
あれは夢だったのか? あまりにもリアルで、凶悪な痛みや恐怖。俺に語りかけたあいつは何だ。夢だろうが何だろうがどうでもいいが、もう二度とあんなのはごめんだ。
朝食を切り上げ、立ち上がる。
「もう行くの? ……ごはん残してる。やっぱり休も? 無理しちゃだめだよ」
「いいから。……行ってくる」
無理にでも行く。如月との約束もあるし、何よりも、このままもう1度眠りにつくのが、怖かった。
──特に変わったことはない。いつも通りの学校。いつも通りであることにこれほど安心したのは始めてだ。
「おはよう。立花」
「如月……」
来たんだな、学校。正直1日くらいは休むかとも思ったが、元気そうだ。
「……良い顔してるよ、お前」
「いろいろ吹っ切れたからな。お前のおかげだ」
清々しいってこんな感じなのかな。今まで感じたことの無い感覚。悪くない。
「朝イチに話しかけられるのが一条じゃないってのも、悪くないな」
「それは、一条君に失礼だろう」
「そうだそうだ! それどういう意味だこの野郎!」
「いたのか」
「こ、こら立花! 流石にひどいぞ」
「わかったよ……悪かった、一条」
「お、おう……立花が無礼なのはいつものことだけど……謝られたのは初めてだ……はっ! まさかお前らそういう関係……!」
「「それは違う」」
「うわあ説得力無ーい」
自分でも驚くぐらいピッタリなハモりだった。如月が笑ってるから、まあいいか。
「立花君、呼ばれてるよ!」
俺……? 俺が学校で人に呼ばれるとしたら、委員会関連か、もしくは成績のことだけだ。できたら前者であってほしい。
ため息をつきながら席を立ち、ドアの前に行く。廊下には、見たことの無い"生徒"が立っていた。つまり、成績のことじゃないってことだ。良かった。
髪は肩より少し上辺りで揃えられていて、若干ボーイッシュな印象を受ける。
「何か用」
「好きです、私と付き合ってください」
…………ちょっと、待って。