第60石 再生
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「立……花…………」
声にならない声で、名前を呼ばれる。聞こえない筈なのに、俺はそれが如月の声だと分かった。
「如月、その脚…………タイヨウ」
如月の体は、どこもかしこも傷だらけだった。特に脚の怪我が酷い。出血も相当なものだ。治療させようとタイヨウを呼ぶが、返事が無いため少し語気を強める。
「…………タイヨウ!!」
「は、はいっ!」
「如月の治療。早く」
「~~~っ! はいっ!!!」
タイヨウが、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして、笑いながら返事をする。
すぐに如月の傍に行き、治療を始める。
「立、花……なん、で…………」
「分かんない!! 分かんないよ!! でも、生きてる…………! 秋人が……!」
泣き笑いながら如月の治療をするタイヨウ。その手の光は眩しくて、とても温かくて、とても、嬉しそうだった。
「あぁ~、感動のシーンっぽいとこ悪いんだが……無事に動いたところで早速死ね」
「死ぬのはお前だぞ?」
『夜』を刃にし、手を横に振る。男の喉笛から血が吹き出し、体がガクガクと震えるが、すぐに『生き返り』、俺の首を掴む。
「残念だったなクソガキィ!! 何度殺したって」
身動きはせず、『夜』で男の頭を潰す。
撒き散らされた肉片達は、しかしすぐに元の位置に戻って再生する。
「気を、つけろ、立花……『死の古文書』の力だ……」
「また古文書か……」
「そういう訳で、お前がいくら頑張っても……」
「うるせぇなほんと」
首を飛ばす。首は空中で動きを止め、体に戻っていく。気持ち悪い能力だな。
「あぁぁああああああ!! いい加減にしろよこのクソガキ!!!」
「こんだけ人様の平穏荒らしといて何様だ?」
男の首を掴む。振りほどこうともがいているが、非力だ。これなら片手で十分だ。
「ここじゃ狭いな……ちょっと出てくる」
「立花……」
「待ってろ。終わらせて来る」
男の背が高いせいで持ち上げられないため、首を持って引き摺る。苦しそうに暴れる男を見て気分を害する。
こいつがタイヨウ達を……。
外に出て、男を投げて地面に転がす。咳き込む男の腹に、蹴りを刺す。
「うおぇっ…………カハッ…………」
「防弾服ごと歪めたから、外さねえと苦痛が続くんだ」
蹴りを受けた腹を手で押さえ、俺の言葉を聞いて服を脱ごうとする。その腕を肩から蹴りで吹き飛ばす。
「ごあぁっ……あ、あ…………」
「汚ぇなあ……死んでも服は直らないよな。生き返った後も苦痛を楽しめよ」
顎を踏み砕き、生き返るのを待つ。
肉と骨が元の位置に戻り、人間を形作る様は、何度見ても気分が悪い。
「……っぶああ!! クソが……クソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがあああああああ!!!」
「元気だな。腹が苦しいだろ? ほーら、早くその服脱がないと」
男の腹を踏み、起き上がれないように力を籠める。男が足をどかそうとするが、その姿は、欲しい物が手に入らずに駄々をこねる子供の様で。
ひどく、滑稽だ。
「生き返れるってのは強みだよな。俺もそれはよく分かる」
「クソッ! どけっ! ゴホッ……! オエェッ……アアアア、アアアアアアア!!」
「でもな、精霊共は無償で力を寄越す程、優しくはないと思うぞ」
防弾服を更に内側に歪め、窒息する男を見る。
「そんなもんじゃねえぞ。『それ』の代償は」
頭を踏み潰す。
元に戻る。
踏み潰す。
元に戻る。
潰す。
戻る。
潰す。
戻る。
潰す戻る潰す戻る潰す戻る潰す戻る潰す戻る潰す戻る潰す戻る潰す戻る潰す戻る潰す戻る潰す戻る潰す戻る潰す戻る潰す戻る潰す戻る潰す戻る潰す戻る潰す戻る潰す戻る潰す戻る潰す戻る潰す戻る。
潰す。
「…………案外少なかったな」
再生が、止まった。




