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第54石 革命軍

 ──「じゃあ大混乱って訳じゃないんですね」


「ああ、私が見た限りだが、この施設以外で暴動のようなことは起こっていない」


 私の情報……と言っても、話せることはほんの僅かだったが、こちらの知りうる限りは話した。

 私が通った道で何かが起こっているということは無かった筈だ。


「まあ、何かあったとして、如月先輩がそこを素通りってのは考えにくいですし。信用しますよ」


「あ、ああ。なんだかこそばゆいな……」


 雲川さんは、私を過大評価する節がある。私は聖人君子ではない。どうしようもなくなって逃げ出すことの方が多い。


「それで、WARO(ワロー)では何か分かったか?」


「犯人が言っていた石ですが、効力は本物みたいです。1つ我々で回収して、現在調査中です。奇妙なのは、古文書(アーカイブ)研究の最先端である筈のWAROがあの技術を持っていないということです」


「……どういうことだ?」


「不可能なんですよ。接続者をこんなに正確に、誰にでも分かる形で探し出すなんて芸当。古文書に関して、WAROができないことは誰にもできない」


 ある筈の無い技術。それが堂々と日本中にばらまかれた。


「あの石を作り出せる者が、外部にいる……?」


「考えにくいですが、そうとしか思えません。WAROで秘密裏に行われた研究の可能性も考慮して各国で調査が行われましたが、成果無しですね」


 WARO以外に、WAROを凌ぐ古文書研究技術を持つ者がいる。

 何か、重大な見落としがある気がしてならない。私は何か、この件について重要な情報を持っている。何だ? 何を忘れている?

 私が1人頭を捻っていると、雲川さんがため息をつく。


「とにかく、今はあのテロリスト共をどうにかするのが先決です。石をなんとかしても、奴等を止めないことには」



「お話中失礼」



 全員が入り口に視線を注ぐ。

 黒い服で身を固めた、老いた男性がそこに居た。片方の目には傷が走り、閉じられている。柔和な笑みを浮かべてはいるが、その顔にこびりついた血が逆に邪悪さを強調する。

 入り口の見張りは、音も無く地面に倒れ伏していた。


「どなたですか」



「申し遅れました。(わたくし)は、革命軍で幹部を務めさせて頂いております」



 男性は恭しく胸に手を当て、お辞儀をしながら自己紹介をする。どこまでも穏やかで上品な声。



「ラグナル・フォン・アレキサンダーと申します」



 地の底から響いてくる、氷のように冷たい声。

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