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第50石 ざわめき

「きりーつ、礼、ちゃくせーき」


 テスト期間も終わり、今日はテスト返却日。勉強会も途中でお開きになってしまったし、雲川さんと一条君は大丈夫だろうか……。

 出席番号順に名前が呼ばれる。一条君は大分序盤に呼ばれ、緊張した面持ちで答案を受け取っている。


 いかん、私まで緊張してきた……。


「…………」


「…………」


 恐る恐る答案を覗き込む一条君。ゴクリと唾を飲み、その後を見守る。


「……!」


 あ、膝から崩れ落ちた。ダメだったか……おっと、私も呼ばれていた。

 先生から答案を受け取り、点数を見る。


「今回はイマイチだな……」


「如月さ~ん、何点だったぁ~」


「うおぉ、びっくりした」


 ゾンビのようにフラフラとした足取りで近寄って来る一条君。


「ううむ、人に見せる程の出来ではないんだが……」


「どれどれ…………うごぇ!? 英語が87点だあ!?」


「90点は取りたかったんだがな……」


「これが、格差か…………」


 再び膝から崩れ落ちる一条君。項垂れる一条君に聞き返す。


「一条君はどうだったんだ?」


「ギクッ」


「口で言うのか、それ……」


「…………笑わない?」


「笑うわけがないじゃないか。人の失敗を笑うことはいけないことだ!」


「…………こちらです」


 差し出された答案を見て、喉がヒュッと鳴った。


「……これは、笑えないぞ一条君…………」


「笑ってくれた方が良かったよおおおぉ!!」


 本当に人に言えない点のついた答案を一条君に返し、静かに自分の席に戻った。

 クラスの皆が、それぞれに騒いでいる。嘆く者、歓喜する者、色々だ。


 ここに、立花が居たらなあ。


 笑顔でいようと誓ったものの、やはり寂しいものは寂しいな。情けないなあ私は。……こうして、弱い私を認めてやれるようになったのも、タイヨウちゃんのお陰だな。

 ため息で陰鬱な空気を吐き出し、伸びをする。晴れやかな気分だ。早く戻って来いよ、立花。



 ターーーン……



 乾いた、それでもクラス全員が聞き取れる程大きな音が、教室に響き渡る。

 音の発生源は教室のドア。開け放たれたドアのすぐ近くに、190センチはあろうかという背丈の男が立っている。ただ、体は不気味な程に細い。黒服の上からでも分かる骨ばった体を屈ませ、ドアをくぐる。

 顔は、テレビドラマの特殊部隊が着ける様なヘルメットを着けており、見ることができない。静まり返った教室に、低く粘り気のある声が響く。



「雲川唯ってのはいるかぁ?」

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