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第20石 葛藤の朝

 ──熱い、気持ち悪い、痛い、苦しい。

 不愉快な感覚だけが体を、脳を埋め尽くす。それでも、前に感じた苦しみより随分マシだ。


「お前が無意識に力を制限していたということだ。生意気にも我の誘惑を振り切ってな。まったく、これでは満足できるほど苦痛を搾取できん」


 前から言ってるけど、お前誰だ。力を貸すとか苦痛の搾取とか、何を言ってる。


「前から言っているが、我が何者かなど些末な問題だ。……しかし、ここで教えておいても面白いことになりそうだ」


 いいから早く教えろ。痛みやら吐き気やらで頭がおかしくなりそうだ。


「ふふっ、笑わせる。お前の頭はとうに狂っているよ。では、久々に自己紹介するとしよう。我は……」


 痛い、痛い痛い痛い痛い。感覚が増していく。こんな痛みを感じ続けたら感覚が麻痺してもよさそうなものだが、痛覚はどんどん研ぎ澄まされていく。苦しみも、熱さも、どんどん強くなる。

 内臓を全て吐き出してしまいたい。首を切り落とせば、この熱さも痛みも、少しは和らぐだろうか。消えろ、消えろ、消えろ。


「"夜"の精霊。名は無い。好きに呼べ。我はお前の苦痛と引き換えに力を貸す。これからもよろしく、立花秋人」



 ──体が跳ね、目を覚ます。休日だってのに、早くに起きちまった……またあの夢だ。気分が悪い。偶然じゃない。あの夢は、俺が"夜の石"を使った後の夜、眠ると必ず見る。そして夢に出てくるあいつ。


『"夜"の精霊。名は無い』


 "夜"の精霊。太古に生きた存在。古文書(アーカイブ)を遺した者達。本当にあいつが? いろいろな疑問が渦を巻き、混乱する。


「……頭いて…………」


 たかが夢だというのに、現実にまで影響与えやがって。頭を掻いて台所を見る。いつもなら朝食の準備が始まっている時間。そこには誰もいなかった。


「……はあ…………」


 寝室に向かう。扉を開けて中に入ると、布団にくるまった物体がある。すぐそばまで近づき、声をかける。


「おはよ」


「…………」


「いつもは挨拶しろってうるせえくせに……」


「…………」


 徹底してんな。微動だにせず、綺麗に布団にくるまっている。そのまま話し続ける。


「飯、食おうぜ」


「…………」


「……そうしてて何になる」


「…………私に、もっと力が、あれば……」


 声が震えている。いつ起きたのかは知らないが、ずっと泣いていたんだろう。


「違うっつったろ。お前が力を使う前に、ベルは……死んでた。責任があるってんなら俺の方だ。俺がもっと早く行動してりゃ」


「違う! 違うよ! 秋人のせいじゃない! 秋人は、皆のために戦ってくれた! だから……」


「だったらお前もだろ」


 タイヨウが布団を押し退け、立ち上がる。俺の手を握り、心配そうに見上げてくる。頬に涙の跡がくっきりだ。

 またこいつは……他人に感情移入しすぎだ。こいつが責任を感じてるのだって、セルペントに負い目を感じてだ。どんだけ他人の心配するんだ。


「お前だって人のために力を尽くした。それを誰が責められる」


「でも、セルペントさん、泣いてた……」


「……そのセルペントから伝言だ。そのまま言うぞ。

『君は局長の、ベルのために力を尽くし、私より涙を流していた。本当に、ありがとう』

だってさ。……お前はセルペントの命を救った。そいつが感謝してんだ。素直に受け取っとけ」


「……セルペントさん、良い人だね…………」


「無理にでもなんでも、笑ってたよ、あいつ」


「そっか……うん、ごめんね、心配かけて。ごはん作んないと、学校遅れちゃうよね」


「今日は土曜。学校は休みだ」


「ああそっか……えへへ、忘れてた」


 ようやく、タイヨウに笑顔が戻った。まだいつも通りに騒げはしないだろうが、そんなの少しずつ戻っていけばいい。今はただ、こいつの心を少しでも明るくすることだけを考えよう。


 ピンポーン


 朝食を済ませ、家事をしている最中。こんな朝っぱらから誰だ? タイヨウが玄関に行き、扉を開ける音がする。


「はーい。わっ、夕ちゃん!? どうしたの? 今日学校お休みだよ?」


 雲川……もう警戒する必要無いのか。タイヨウはもうWARO(ワロー)の人質じゃない。玄関に行くと、確かに雲川がそこにいた。休日だから当たり前なのだが、珍しく私服を着ていて、意外にも女子らしい格好をしている。


「おはようございます、タイヨウちゃん。あ、立花先輩もおはようございます。さて立花先輩、ものは相談なのですが……」


 雲川がバッグから何かを出している。また面倒事じゃないだろうな……


「デートしましょう」


 その手には、テレビの中だけの存在だと思っていた『ユウエンチノチケット』が握られていた。

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