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第15石 WARO(ワロー)日本支部

 ──真っ白い、小綺麗な床。ガラス張りのだだっ広い部屋がいくつも並び、中には防護服を着た人達がいる。色んな花や草、犬や猫、ネズミからライオンまで、様々な動植物がカプセルや檻の中に入れられ、よくわからない装置に繋がれている。

 俺の前を雲川が、更に前をセルペントが歩く。そして俺の横に、タイヨウがいる。


「ねえ……どういうこと? 秋人……ここって……」


「黙って歩けクソガキ、本来なら貴様など」


「口を慎んでくださいセルペント。私の客人をぞんざいに扱うことは許しません。これは上官命令です」


「くっ……!」


 タイヨウに暴言を吐くセルペントを止める雲川。雲川が止めなきゃ俺が殴ってた。

 ここが、WARO(ワロー)日本支部。ここであらゆる古文書(アーカイブ)の研究が行われているらしい。俺達が、そこに。

 しばらく歩くと、『局長室』と書かれた部屋の前についた。セルペントが扉をノックすると、中から低い、男の声がした。


「入れ」


「失礼します」


 中に入ると、部屋の奥の机に初老の男が座っているのが真っ先に目に入る。優しげな細い目、顔は方々にシワが寄っていて風格がある。

 部屋を見回すと、随分と面白味の無い内装だった。これといって装飾は無く、あるとすれば観葉植物が1つくらいのものだ。あとは書類の入った棚に引き出しと、収納が目立つ。客人との対談ようだろう、ソファーとテーブルもある。

 初老の男が書類から目を離し、椅子から立ち上がる。


「そうか君達が……よく来てくれた。かけてくれ」


 ソファーを指して言う。失礼しますとだけ言い、腰かける。タイヨウも同じように座るが、セルペントと雲川は立ったままだ。


「私は、WARO日本支部局長の山本だ。早速だが、君達の処遇について話がしたい」


「処遇……? 何の話だ」


「貴様……局長に向かってその口の利き方はなんだ!」


「構わんよ。雲川君から話を聞いていないかね?」


 雲川を一瞥する。表情は無表情で固まったままだ。山本局長の方を向き直り、答える。


「知らないな。突然連れて来られた」


「ふむ……では、私から話そう。端的に言えば、我々は君達を保護したいんだよ」


「局長、ですが」


「口を慎め。発言を許可した覚えは無いぞ雲川君」


 山本局長の一言で雲川が押し黙る。


「……研究所って言うより、軍隊みたいだな」


「表向きは古文書の謎を解明するための研究機構だが、我々の本来の目的は別にあるということだ。

 君達のことは聞いているよ。"夜の石"を飲み込んだ少年と、リュースに"光の石"適合実験の検体にされ生き残った少女」


 全部知ってやがる。俺達が古文書の石(アーカイブ・ストーン)の適合者だってことも、タイヨウが捕らえられていた組織のことも。


「セルペントを返り討ちにしたんだろう? 大したものだ。フランス支部から派遣されたエリートの前歯をへし折るとは」


「興味無い。本題に入れ」


「貴様さっきから……!」


「黙れセルペント。……立花君。君も、立場をわきまえた方が良い。君達は今、我々に生かされているということを忘れるな」


 ……どういうことだ……? 仕事なら手伝ってる。やりたくもない猫探しを、犬退治を、つい先日終わらせた。これでいいんじゃないのか。


「雲川君に君達の処遇は任せていたが……あの成果では不十分だ。我々は君達2人に、研究対象や兵器運用以外の価値を見出だせないんだよ」


「ちょっと、待て……意味がわからない……何を言ってる……?」


「雲川君は君達の生活を守るため、君達をWAROの施設に収容せずに利用する方法を提示してきた。それが、接続者(コネクター)や古文書の石の回収だった。だが……猫1匹に犬の死体3つでは、満足できんよ」


「局長、猶予が1日だけというのはいくらなんでも」


「慎めと言ったはずだ、雲川副局長」


 施設、収容……話がわからない。雲川が、俺達の生活を守るために……? 猶予が1日……1日に2回もお仕事をねじ込んだのは、それしか時間が無かったから……?


「そこで我々は、君達をWAROの施設で保護することにした」


「……結構だ。帰ろう、タイヨウ」


「君達にその権利は無い」


 席を立って部屋を出ようとするが、扉が開き軍服を着た男が数人現れ、扉を塞ぐように立つ。隙間を縫って出ていこうとするが、男のひとりに腕を掴まれる。それだけでは終わらず、腕を捻り上げられる。


「いっ……! おい、一般人に手を上げるのか? あんたらに何の権限がある」


「言っただろう、我々の本来の目的は研究とは別にある。我々は古文書の力を使って、この世界からあらゆる抗争を消し去りたい。かつて核が抑止力であったように、次は古文書が世界の抑止力となる。そしてその古文書を管理するのは、我々だ。君達には、その礎となってもらう」


 山本局長の顔が醜悪な笑みを湛える。雲川の方を見る。


「立花先輩……」


 雲川の苦しそうな表情だけが、やたらと頭に残った。

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