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第13石 鉄拳

「如月……」


「一般人が何故ここに……いや、貴女は……」


 雲川が何やら呟いているが、よく聞き取れない。そんなことより、今は……


「なんで来た如月! 帰れって言ったろ!」


「帰るとは言っていない。それに、どういうわけか知らないが"夜の石"の力を使えないんだろう。だったら、私の出番だ」


 何言ってんだこいつ……そんなことを話している間に犬が起き上がり、突っ込んで来る。鉄パイプを構え、振り上げようとしたところで、如月が前に出る。声をかける暇も無く、犬が如月に襲いかかる。


「ハッ!!!」


「ギャッ!」


 如月の蹴りが風を切って飛び、犬の首に突き刺さる。比喩でなく、如月の足は犬の首を貫通していた。如月が足を引くと、犬がべちゃりと地面に落ちるが、首がほとんど取れかかった状態でもまだ起き上がろうとしている。


「な、なんだこいつらは……! 気味が悪い……」


「首を完全に切り離してしまえば止まるはずです」


「普通もう死んでるぞ……立花、それ貸してくれ」


 如月が犬から目を離さず、こちらに手を伸ばす。鉄パイプを投げて寄越すと、目もくれずにそれを受け取る。


「さあ、来い!」


 如月の言葉を皮切りに、犬3匹が襲って来る。鉄パイプが宙を舞い、犬を薙ぎ払う。ただがむしゃらにパイプが振るわれているわけではない。その1撃が、確実に犬の部位を破壊し、機動力を奪っていく。時に拳が、時に足が、時に鉄パイプが犬を打ち、事態を収束させる。2匹は既に動きを止めた。


「これで、決着だ……!」


 鉄パイプが残りの1匹の口に突き刺さり、頭頂部を貫いた。

 戦いは、終わった。


「如月……お前……化け物か……」


「失礼だな! 助けてやったのになんだその言い草は! ……両親が武道家でな。幼い頃から厳しく鍛えられていたんだ。どうやら才能があったみたいだ。既に母様の実力は超えていると自負している! 父様には……あと1歩及ばない、かな」


 少し悲しげに笑うが、すぐに真剣な表情に戻る。


「さて、立花と……」


「雲川夕です」


「雲川さん。包み隠さず話してもらうぞ。こいつらは一体何だ?」


「……如月、これは」


「立花先輩、私が話します。ここまで見られたら、もう隠せ通せる範囲を越えてしまっています」


 雲川は、本当に隠さずに話した。WARO(ワロー)のこと、接続者(コネクター)のこと、自身の能力のこと、タイヨウを人質にしているということ。


「……その話を聞いて、君達のやり方を許すほど私はお人好しにはなれないな」


「ですが、タイヨウちゃんが人質であるという状況に変わりはありません。今ここで私を締め上げたところで、我々の目的は揺らがない。

 いいじゃないですか。こちらは立花先輩の力を借りられる、先輩はお仕事を手伝えばある程度の自由を得られる。ギブアンドテイクですよ」


「調子に乗るなよ雲川。俺はいつかお前らを潰してやる」


「怖い怖い……でも先輩、そんな目も素敵ですよ」


「クズが……」


 本当に人の神経を逆撫でするのが得意だな。今すぐにでもぶん殴ってやりたい。静かに怒っていると、如月が口を出してきた。


「ならば、次から私も同行する」


 ……何を言い出すんだこいつ。失敗作を見て、あんな気色の悪い出来事を体験して、それに同行する?


「今日の様子を見る限り、2人共戦い慣れしているわけではないようだ。私がいて損は無いはずだ」


「……いいでしょう。正直、如月先輩の戦闘能力は相当のものです。かなり助かるかと」


「やめろ如月。良いことなんかひとつも無いぞ」


「私にとって得だとか損だとか、そんなことはどうだっていい。言っただろう、私は1人の友人として立花の力になりたいんだ」


 ……バカだ。本物のバカだ。人のために進んで危険を冒すなんて、普通じゃない。……頼っても良いのだろうか。確かに、俺だけで現状を打破する術は無い。少しでもタイヨウを守り抜く力が増えれば、それに越したことは無い。甘えて、しまおうか。


「……すまない……よろしく、頼む……」


「そう暗い顔をするな。私はタイヨウちゃんにも、返しきれないほどの恩があるんだ。絶対に守ろう」


 こんなにも他人のことを心強く感じたことがあったかな。人に何かを頼むって、こんなに簡単なのか。

 暗闇に、一筋の光が見えた気がした。

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