第一歩
煉耶は先程、川に行くまでに迷っては困るからとナイフで木の幹に行った方向に向かって矢印を彫っておいた。今はその矢印を頼りに先程と同じ道のりを進んでいく。煉耶の後ろは舞と2人の時とは違い、ペアを組んでいる人と話しをしたりしている。会話が無いのは谷口のグループの2人と平山のグループの1人だけだった。松本先生はたまに後ろから声をかけ、励ましたりしている。結界の外には魔物がいるというのに随分と気が抜けている。気張っているのは煉耶と野崎のグループの渡辺と日浦、村木、松本先生だった。30分程進んだ頃に
「おい不知火。川はまだなのか」
「2人の時は探しながらで片道40分だったから、この大人数だ。片道50分といったところだろう」
更に森の奥へと進んでいき、その頃には村木、佐藤、松本先生は少し苦しそうだ。他の面々は意外と大丈夫そうだ。運動部が主体とはいえ、なかなかの運動量だ。そして少しすると
「もうすぐ川に着く。近くに魔物がいる可能性がある。出来るだけ静かに行動しろ。俺が言った特徴のゴブリンはさぼど強くない。男子なら2人もいれば余裕な位だ。佐藤は先生と一緒にいろよ。それ以外の魔物とは交戦するな」
野崎達は静かに頷く。そこからは少しペースを落として行く。そしてようやく川が見えてきた。そこには煉耶が仕止めた魔物は残っていなかった。煉耶は魔物がいないか索敵のスキルも合わして確認する。魔物がいないのを確認した煉耶は
「よし、近くに魔物はいない。お前ら、ここが川だ。貴重な水源となる。全員ここまでの道をなんとなくでも把握しておけ。基本的には俺がつけた傷を見てここまで来てくれ。今回は魔物に遭わなかったが、魔物には注意するように」
煉耶はそう言い元来た道を戻っていく。他の生徒達も煉耶に釣られて続々と帰っていく。煉耶は行きよりも少し早いペースで下っていく。後半の人達はキツそうにしているが、無視して帰る。しかしそれは10分と続かなかった。急に煉耶が足を止めた。そこで渡辺が問いかける
「どうした不知火?」
「静かにしろ。向こうにいるのが見えるか。あれがゴブリンだ。今回は群れで行動しているな」
全員の視線が煉耶が見ている先に集まる。そこには6体が固まって行動しているのが視界に映る。
「どうするんだ?不知火君」
「別に殺ろうと思えば無理な数じゃない。しかし、ここで殺ると少なからず返り血を浴びるだろう。それは血の匂いに誘われる奴がいると困る。だから出来るだけ急いで帰ることになる。どうしますか先生」
「不知火、他の選択肢は無いのか」
「当然ありますよ。1、ここで待つ。2、石を投げて殺す。3、外傷を与えずに殺す。のどれか…ですかね」
その選択肢を聞いた松本先生は少し黙り込み考える。生徒達はそれを見守る。
「なら石をまず投げよう。ダメなら……不知火行ってくれるか?もちろん私も行こう」
「問題ありません。それじゃあ全員複数個拾っておけ」
「ちょっと待て。私も行こう」
みんなが石を拾おうとしようとすると渡辺が声を上げた。みんなは驚いた。特に野崎は一番驚いていた。渡辺がそんな事を言うとは思ってもいなかったのだろう。
「凛!それは本当に言っているのかい!!」
「ふっ。これからはこれが日常になるのたろう?ならば私はやるさ。それに竹刀でも十分に殺れるだろう。どうだろうか先生、不知火」
「俺は構わない。フォローは出来るだけしよう」
「認めよう。ただし渡辺、危なくなったら全力で戻るんだぞ」
ダメだった時の仕止め役に渡辺が追加されたことで準備は再開した。煉耶と松本先生、渡辺をゴブリンに近い所に配置する。他の人は少し下がった所に配置している。松本先生が全員が位置に着いた事を確認し、挙げた左腕を振りおろした。それを合図にし、全員がゴブリン目掛けて石を投げる。1人につき、2回か3回投げ終わった時には3体は既に地面に伏せていた。1体はふらついているが、2体はこっちに向かって走り出している。3人は石を投げ終わると同時に走り出していた。
渡辺はふらついているゴブリンに向かって行き、竹刀を中段に構えゴブリンの喉を突く。勢いがあったのでゴブリンの体が浮き木に叩きつれられる。竹刀はそのままゴブリンの喉を貫いた。
松本先生はゴブリンが棍棒を振るうより早く蹴りを入れた。ゴブリンは吹き飛び、衝撃で棍棒を落としていた。先生は棍棒を拾い、ゴブリンの頭へと全力で振り落とす。ゴブリンの頭はグチャッという音と共に潰れた。
煉耶は棍棒を振ってくるゴブリンを跳び越え後ろから足を払う。倒れたゴブリンを左足で抑え、ナイフを振るう。ゴブリンからは血が飛び散る。ゴブリンは暴れていたが、すぐに動かなくなっていった。立っていたゴブリン3体は全て仕止められた。煉耶達は持っている奴らのの元へ向かう。ガシッと煉耶の脚が掴まれた。煉耶は振り向くための体の捻りを利用して勢いのついた脚を振った。足に衝撃がくると何かは蹴飛ばされた。飛んでいったのは始めに倒れたゴブリンだった。煉耶は倒れたゴブリンを回り全てにナイフを差し込んでいった。煉耶達は本当に戻っていく。
「お、おい不知火君。君、大分腕に返り血が」
煉耶は制服を腕捲りしていたので、制服には着いていないが腕は血で染まっていた。
「そうだな。お前達は先に帰れ。俺は川に戻る。それと各グループ1本、棍棒が必要だと思うなら持って帰れ」
「ふむ。なら私も不知火についていこう。竹刀を拭きたい」
「そうか。わかった。お前達帰るぞ。棍棒はグループで1本だからな。じゃあ先生達は帰るからお前達も早くな」
「はい」 「わかってます」
先生は生徒達を引き連れて帰っていく。煉耶と渡辺はその場でみんなを見送っていた。そして先生達が見えなくなると
「では不知火。川へ戻ろう」
「先に行ってくれ。俺はやることがある」
「む?なんだ」
「ゴブリン達から魔石を採取する」
「魔石とはなんだ?」
「魔石は魔物にある魔力の籠った鉱石だ」
「何故それを採取する」
「スキルによっては利用できる奴がいるかもしれない。それに採っておいて損はない」
「では、何故お前はそんな事を知っている」
「初めて殺った時に胸部を刺した。そこで固いものがあったからだ。魔石についてはスキル、としか言えない」
「そうなのか。では私も待つことにする」
煉耶は渡辺と話しながらと切り裂いては魔石を取り出し、切り裂いては取り出すを繰返している。煉耶が6体から魔石を取り出すと魔石と棍棒を持ち渡辺の方へ行く。
「それで終わりか?その魔石の存在についてはどうしたらいい?」
「終わりだ。魔石は好きにして構わない。ばらすなら今回の分は分配する。どちらがいい?」
「では、ばらそう。その方が今度から不知火は採取がしやすくなるぞ」
「そうだな。では松本に招集をかけてもらって代表に渡す」
「それがいいだろう」
煉耶と渡辺は歩きながらも話していく。もちろんのこと魔物の警戒も怠らない。2人は今までほとんど話したことがなかったのだが意外と話しが合っていた。
「私としては君達の班が羨ましいよ」
「そうか?野崎や藤井なんて行動力があると思うが」
「いや、颯太はバカ正直なんだよ。正しい事しかしない。私と颯太は幼馴染みなんだが、人助けは当たり前。それはいいんだが、颯太は人を疑わないんだよ。あいつは人の上辺しか見てないんだよ」
「ああ。確かにみんなの勇者様だよ野崎は。あれは周りの環境も拍車を懸けている」
「そうなんだよ。それを思うと不知火や舞、高橋は好ましいよ」
「渡辺がそう思ってくれるなら、嬉しいものだな」
「なら、そういう顔をしたらどうだい。おっ、川に着いたな」
煉耶は荷物を置き、腕を洗い始める。腕の血を落とすとナイフ、魔石を洗っていく。渡辺は手拭いを濡らし竹刀を拭いていた。2人共拭き終わると煉耶は魔石をポケットにしまう。ナイフと棍棒を手に持つ。洗い終わった2人は道を引き返していく。
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煉耶がみんなを引き連れてから早2時間。先生は煉耶と渡辺以外と帰ってきていた。秀次が先生に煉耶は?と聞くとあらましを説明してくれた。秀次は瑠璃達の元へ戻る。そうして、ようやく今煉耶と渡辺が帰ってきた。煉耶は秀次達の所へ来た。
「ただいま。もう1体ゴブリン殺ったから、この棍棒は高橋、お前が使え」
「わかった~。ありがとう。僕も死にたくは無いからね」
そう言って煉耶は高橋に棍棒を渡す。煉耶はナイフをしまい、「松本の所行ってくる」と言い、松本先生の元へ向かう。すると松本先生は、代表に招集をかけた。
「不知火から話があるそうだ」
「ああ。渡しておく物がある」
そう言って煉耶は6人に魔石を渡した。
「これ何」
「それは便宜上魔石、と呼ぶけど魔物の体内にあった鉱物だ。これは魔物の心臓部にあるから殺さないと採れない。使い道は知らないが各グループに1個渡しておく」
「うんうん。不知火、これは魔石だよ。俺が保証するよ」
「何でわかんだよ谷口」
「僕のスキルに鑑定というのがあってね、これは物体の詳細が知れるスキルなんだ。だから名前が分かったのさ」
「なら他にこれについての詳細は」
「魔石は魔物にしか無い、ということだけだよ」
「なるほど。では不知火、話は以上か?」
煉耶は頷き返す。
「なら火が必要になったら私の所に来なさい。ライターで火を着けるから。夜は必ず誰かが火の番をするように。では解散!」
松本先生の言葉でみんな帰っていった。