ようやく始動
煉耶と舞は山頂に向かいつつ水がないか探していく。地面にはあまり水分はあまり含まれていないため、しっかりとした足取りだが足元には草が鬱蒼と生えている。そこを草を踏み潰しないら歩いていく。
「ねぇ煉耶。どうせなら草とか花を見てみなさいよ」
「俺もそう思うから見ているよ。けどな、あまり使えそうな物は無いからな」
「あら、そうなの。なら水を優先して探しましょう」
2人は木の間を通って行き、水を求めて進んでいく。目の前にあるのは木ばかり。開けた場所も見えない。上は葉で覆い尽くされているため、光源はわずかに差す木漏れ日だけ。そんな中2人は黙々と進む。そんな時
「煉耶!あそこに水溜まりがあるわよ」
「量は少ないが確かに水があったな」
煉耶の視線の先は少し濁っている水溜まりだった。煉耶はその水を鑑定を使って見てみる。
「舞。この水自体は極々微量に魔力が含まれている飲んでも問題ないらしい。けど、これは泥が混ざりすぎて飲み水としては無理だな」
「そうなの?けど他に水溜まりがないってことは、近くに水源があるかもしれないわ」
「ああ、このまま進んでみよう」
煉耶と舞は近くに水があるかもしれないと奥へ行く。2人の顔は先程より少しばかり明るい…かもしれない。10分もすれば今まで鳥の声と羽音しか聞こえなかったのが、新しい音が聞こえ始める。
「ねぇ煉耶!この音、川じゃない!早く行きましょ」
「そうだな。だが、そう急ぐな」
2人の足取りは見てわかる程に軽くなっている。長時間歩いたすえにやっと見つかるかもしれない。そんな思いが確実に体を浮わつかす。だんだん視界が明るくなっていく。木々の先には太陽の光を反射して輝く存在が。
「煉耶!!あそこにか「黙れ、舞!」何よ煉耶」
舞から不機嫌な視線を向けられている煉耶は静かに川の方を指で指している。その指の先には体長1m程度の全身緑色の生物がいた。そいつは近くに棍棒を置き、水を飲んでいた。
「な、何よあれ」
「おそらくゴブリン、という魔物だろう。どうする?近くに群れがいる気配は無いが、隠れてるか?それとも仕留めるか?」
「仕留めるってどうやってよ」
「身体強化で若干筋力は上がっている。まずは舞が石を顔目掛けて投げてから、俺がナイフでいく」
「そうね。どうせならやってみましょうか。川は発見したし、ダメなら結界まで全力で逃げましょう………そういえば、煉耶の鑑定で何か見えないの?」
「残念ながらゴブリン、という名前しか見えないな」
「鑑定で魔物の名前が見えるっていうのも収穫でしょ。得るものはあったわ。じゃあ、やりましょうか」
舞と煉耶は息をひそめる。舞は近くにあった手頃な石を持つ。煉耶は十徳ナイフからナイフを出し、少し前の木の陰に移動する。2人は見つめ、頷き合う。そして闘いの火蓋が切られる。舞が野球のピッチャーのごとく振りかぶり投げた。石はゴブリンの目の辺りに直撃し、ゴブリンは血を流し出す。石が投げられてすぐ煉耶はナイフ片手に走り出す。よろめいたゴブリンの顔に膝蹴りを入れ、左手でゴブリンの顔を掴み、喉に全力でナイフを刺し込み、喉をかっ切る。ゴブリンはそのまま力なく地面へ伏せるのだった。
「気分が良いものじゃないわね」
「そう、だな。これをやっていく、となるとキツイな」
「それ、どうするの」
「血の匂いで何かくるかもしれない。早く去りたいが、1つ確かめたいことがある」
「なによ。確かめたいことって?」
「ああ、小説なんかだと魔石ってのがあるらしい。だから解体して探そうかと」
「うげぇ絶対にグロいじゃない。慣れるために見るけど」
煉耶はうつ伏せに倒れたゴブリンを仰向けにし、心臓辺りにナイフを入れる。胸部をくり貫こうとするがナイフが止まる。煉耶はナイフを抜き、腕捲りをする。煉耶は右手を切り裂いた所に手を入れ引き抜く。その手には血みどろの石が握られてる。煉耶は川で石と手を洗う。
「煉耶、それがそうなの?」
「ああ鑑定でも小魔石と出ている。この魔石が魔物の心臓部にあるんだろう」
「そう、じゃあ帰りましょうよ」
「そうだな。あ、後ゴブリンの棍棒を持って帰っておこう」
「確かに使えそうではあるけど、煉耶が持ってよ」
「わかってるよ。さあ、帰ろうか」
煉耶はナイフを拭いてしまい、水筒と棍棒、魔石を持って舞の後を追いかける。2人は森の中に帰っていく。
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煉耶と舞が森の中に消えていってちょっとすると
「お前ら!そろそろ落ち着いたか!全員いるか出席とるぞ!」
そう言うのは煉耶達の担任の数学教師の松本だ。松本先生が全員の名前を順に呼んでいく。それで煉耶と舞が足りないのに気づき
「不知火と森崎はどこだ!いないのか!」
先生が全員に聞こえるように聞くと
「先生。煉耶と舞は少し出掛けて行きました」
「それは本当か、山田?」
「はい、俺達で話し合ってあの2人が行きましたから」
「話し合ったって何をだ?それに何故私に話さなかった!」
「いや、先生まだダウンしてましたから。で、内容は水の確保のためにあの2人は行きました」
「確かに水の確保も大事だが、知らない場所は危険だろう!だからこれからの行動を話し合うぞ。取り敢えず、6人か5人でグループを作れ。その中で仮の代表を決めろ!代表は私の所に来て、他は待機だ!」
そう松本先生が言うとクラスの中心人物達は自分のグループや使えそうな奴を我先にと引き込もうとする。秀次達は煉耶と舞を含めて5人のため誘ってくる奴は全員断っていた。その後、10分程して各グループ6人5組で決まった。秀次のグループにはいつも眠そうにし無気力な高橋仁がグループに入った。高橋は1人余っていたため、自動的に秀次達のグループに入ることが決まった。グループが決まったため各グループの仮のリーダーが決められ、松本先生の元へ5人が集まった。
「よし。では取り敢えずの代表は野崎、井上、山田、谷口、平山だな。ならこの中で一番落ち着くのが早かったであろう山田、知ってる情報はあるか」
「何もわかってる事はありません。俺達は自分のカバンを拾ってきて、水分が足らなくなると思い水の確保に行って貰いました」
「何故不知火と森崎なんだ?」
「あの2人が俺達の中で身軽だったからです。機動力として選びました」
秀次はこの時嘘を吐くことにした。他にもステータスのことが解っているが、どうやって解ったかと聞かれるとスキルについて話さなければいけなくなるし、他に鑑定のスキルを持っている者がいるか不明なため世迷い言として処理される可能性があったためだ。
「そうか。ならば各自カバンを取りに行かせ、不知火と森崎が帰って来て、水が見つかったならば人を選んで水源の確保するとしよう。後は………そうだな、近くから葉っぱと木の枝を集めよう。夜の時に焚き火をせねばなるまい。あまり深い所には行くなよ。」
そう言った松本先生の解散の合図でリーダー達は自分のグループに帰って行き、先程決まったことをグループのメンバーに伝え、行動に移るのだった。