漠徒記(バクトキ)
えー、乱暴ですけど最後まで読んでいただけたら幸いです。
よろしければご感想など、くださればとてもとてもよろこびます
漠徒記
俺の名前はジョージ・ハーゲン。運び屋だ。運ぶ荷物に特に規定はないし、余計な詮索もしない。それが俺達の暗黙のルールだ。...というのも、そういうふうにしなければ仕事なんて来ないからだ。こんな砂漠だらけになってもおかしなことを考えるやつは減らないみたいだしな。
この星は20年前、強力な太陽フレアに襲われ、突如として砂漠化が始まってしまった。今ではかつての「蒼い星」の面影などないくらい砂漠化が進み、おそらく「茶色い星」とでもなっているだろう。植物が残るところなんてごく僅かな地域しかない。そこはかつて氷の大地だったところだが覆っていた氷が地表を守ったらしく今ではこの死の星で唯一植物が生い茂っている場所となっている。この星の食料はそこが頼りとなっているが、ユニオンがそこを完全掌握しているため一般人はそこから出荷されるお零れをもらうしかない。だから、生きるためにはかつてよりもっと働くしかないのだ。
今回の依頼はなにやら怪しい匂いがした。場所を指定され、そこにある“モノ”を指定の場所まで運んでくれ、という単純なものだったが、男の様子を見るにただ事ではない様子だった。
打ち合わせ通りの場所へ行くと、なにやら木箱が置いてあった。木箱には貼り紙が...
「ハーゲンさん、くれぐれも頼みました。丁重に扱ってくださいね。ドルチェ」
依頼人の名前が記してある。この木箱で間違いなさそうだ...
怪しげな木箱を叩いてみると、軽い音がした。めいっぱい詰まっている訳では無いようだ。多少訝しみながらも荷物を積む。持ち上げてみると音の割に重量があり、なにやらバランスも取りにくい。いつも運んでいる物でバランスのとりやすい物など滅多にないので慣れてはいるが、やはり精神的に疲れるので喜ばしくはない。
荷物を積み、しっかり固定したことを確認し、目的地へ出発した。ここから目的地まではかなりの距離だ。飛ばしても一週間はかかる。幸い期日は指定がなかったので〝それなりに〟善処することにした。
出発から1時間ほど経ったとき、奇妙な音を聞いた。
「はくしょんっ」
…は?今クシャミが聞こえなかったか?ここには俺しかいねぇ…でも確かに…いや、気の所為か…何かの聞きまち
「はくちっ」
…がいではなさそうだ。
バイクを止め、すぐさま〝荷物〟を確認する。
案の定、木箱の中から人が出てきた。しかも子ども。5歳くらいだろうか、そんなに大きくはない。「なぁ、お前…」
「お前じゃない!私はエリーゼ・マクウェイン。運び屋さん、目的地までよろしくねっ」
とびっきりのウィンクをされたが、あいにく俺は子どもに興味はない。襟首を掴み箱に戻す。蓋は開けたままにして。
しばらくバイクを走らせる。初めはギャンギャンうるさかったガキだったが小一時間ほど経つと流石に諦めたのか静かになった。
やがて休憩ポイントが見えてくる。
やれやれ、やっと休める。いつもよりなんだか疲れた気がするな。
「おじちゃん止まって!!!」
急な叫び声に思わずバイクを止める。あまりに急だったので少しバランスを崩した。
「な、なんなんだよっ!!急に首つかむんじゃねぇ!あぶねぇだろ!そして俺は...」
まだおじちゃんじゃねぇと続けようとしたところを右手て遮られる。
「みて、あそこ」
「あぁん?」
ガキが指を指す方を見る。そこは休憩ポイントだ。
「なんだよ、今からあそこで休憩すんだぞ?」
「いいから、みてて」
先程までとは違う真剣な雰囲気に思わず言葉を呑んだ。そして指を指す方に目をやる。
しかし、相変わらず休憩ポイントが見えるばかりだ。
なんなんだよ、
そう言いかけた時ことは起こった。
突如として休憩ポイントが大爆発を起こした。大きな地響きが数キロ離れたこちらまで届く。
張り詰めた空気の振動が骨を揺らすほどの爆発だった。
「おい...一体なんだってんだよ...」
「わからない、けど、あそこに行っちゃダメ」
物々しい雰囲気のガキのいうとおりにその休憩ポイントを迂回する形で外れるルートを通った。休憩はパアだった。
先ほどの休憩ポイントから少し離れた頃にはガキは箱の中でおねんねしていた。
けっ、いい気なもんだぜ...しかしまあ、こいつがいなかったら俺は死んでいたのかもしれないな...あの爆発の正体は...だめだ、いくら考えてもわかるわけがねぇ。こういう時は考えない方が得策だな。
そうこうしているうちに次の休憩ポイントに到着した。
ここにつく1時間ほど前にガキは起きたが何も喋らなかった。俺も特に話す必要を感じなかったから話しかけることもしなかった。
「ねぇ、おじちゃん」
「お兄さんだ」
「どっちだっていいじゃない...それよりさ、ここにはどのくらいいるの?」
「食料と燃料を補給したらすぐ出るさ」
「...そう、わかった」
それ以降は何もしゃべらなかったが、何か安堵のような色が見えた。
30分ほどでいろいろ済ませ、もう少しここに留まろうかなど考えていたところ急にガキが騒ぎ出した。
「おじちゃん!今すぐ出ようっ!」
「あぁ?なんだよ急に。どうしたってんだ」
「ここは...ここは危険なのっ!早くここから離れなきゃっ!!」
「はぁ?言ってることの意味が...」
わからねぇ、そう言いかけた時だった。
この休憩ポイントの市場コーナーで大きな爆発が起こった。
たくさんの悲鳴が上がる。逃げ惑う人々、ぶつかりあい、怒号も飛び交う。
ガキはその場にうずくまってしまった。俺はガキを抱えるとバイクまでダッシュした。
途中、逃げ惑う人にぶつかり何度か転倒しそうになったが、なんとかたどり着いた。
爆発は区画ごとにだんだんこちらへ近づいてきていた。
俺は焦りのあまりうまくエンジンをかけられなかった。
というか、こういう時に限ってエンジンがかからない。
「くそったれ!!頼む!かかってくれ!!」
爆発は一区画向こうまで迫っていた。
もうダメだ、と、半ば諦めかけた時、ついにエンジンに灯がついた。
「助かった!」
スロットル全開ですぐさまそこを離れる。
その時、先程までいた区画が爆音とともに火に包まれた。
あと少し遅ければ...
ぞっとしないでもない妄想を頭から振り払った。
一体何人の犠牲が出たのだろう...
そして、アレを察知したこのガキは一体...
頭の整理もつかないままバイクを走らせる。
ガキとは一切の会話もない。
なんとも気持ちの悪い沈黙だった。
休憩ポイントからだいぶ離れたあたりでバイクを止める。
なんだか手元が定かではないような気がしたからだ。
バイクを降りて近くの岩に腰を落とす。
すると、ガキも降りてきて俺の横に座った。
俺は何も言わない。
言えなかった。なにも。
しばらくの沈黙のあと、ガキが声を発した。
「おじちゃん、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ、こんなもん」
「でも、震えてるよ?」
ガキに言われて気付く。確かに震えていた。
恐怖しているのか?得体の知れない奴らに、俺は恐怖しているのか...?
黙ったままの俺を見て、ガキはうつむいて同じように黙った。
恐怖という感情と向き合おうかという時、なにか、気持ちの中に違和感を覚えた。
本当に恐怖だけなのか?
俺が今感じているのは、本当に恐怖だけなのか?
他に、なにか見落としているものがあるんじゃないのか?
己に問いかける。
このもやもやとした雲を晴らすべく、己に、ただ問いかける。
自問自答していると、隣から微かなすすり泣く声が聞こえた。
そして、その声の主を、確かめるまでもない声の主を見た瞬間、やっと理解した。
このモヤモヤとした違和感。その正体に。
なんて馬鹿だろう、そう思った。
年端の行かない女の子が、見に余るほどの体験をしたというのに、そんなに仲良くもない男の心配をしたんだぞ?
なのに俺はどうだ?自分のことばかり考えて、この子のことなんて一つも考えなかった。ただの荷物程度にしか考えていなかった。
だから、心配してあげることも出来ず、このざまだ。
普通逆だろ?大人が子どもを慰めるんだろ?
大の大人があんなに怖かったんだ、子どもだったらもっと怖かったろう。
今ここには俺しかいない。こいつを慰めてやれるのは俺しかいないんだ。
俺は無言でガキの頭に手を置いた。
ガキは俺を驚いたような顔で見た。その顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。
少し、少しだけ、苦手な笑顔を作ってやる。
ポカーンとしてやがる...。
何が起きたかわからないみたいな顔をしたかと思えばすぐに笑い出しやがった。
人の努力の笑顔を見て。
「何笑ってやがる」
「ごめんなさい、だっておじちゃんの笑顔変なんだもん、すっごい可笑しかった」
お腹を抱えるそぶりを見せながら涙を拭き、冗談を言ってくる。
俺はもう片方の涙を拭ってやり、優しく抱き寄せた。
「ごめんな、無理させて。お前が一番怖かっただろうに...」
「...ううん...いいの..」
「......」
「...でも、」
「あぁ?」
「...もう少し...もう少しこのまま...いさせて?」
初めてのガキの甘えに、俺は無言のまま返した。
ガキは俺の胸の中で再び泣いていた。
ひとしきり泣いた後はいつの間にか眠っていた。ガキをそっと寝かし、俺は出立の用意と、バイクの整備、進路の練り直しを行った。これまでの事件について考えながら。
一通りの支度が終わり、進路も四パターン程は考えた。万が一のイレギュラーに対応できるようにだ。
ちょうどルートを決めた頃、ガキが目を覚ました。
「...あたし、眠っちゃったの?」
まだまどろみの中にいるような声で呟いた。
「あぁ、そうだ」
肯定を返してやるとガキは少し驚いたような顔をした後、嬉しそうな顔になって、
「変なことしてないでしょうね?」
って言いやがった。
「する訳ねぇだろ、ませガキが」
と、返してやる
するとふくれっ面をしたかと思うとすぐ笑いだした。
「変なガキめ...」
精一杯の悪態をついてみたが、なんだかそんなに悪い気はしなかった。
支度を整え、目的地に向かう。
はじめの頃のアクシデントが嘘のように穏やかな旅だった。
もうすぐ目的地につこうかという頃、最後の休憩ポイントでガキは哀しそうな顔をした。
「んな顔すんな。飯がまずくなる」
「...なによぅ...おじさんは寂しくないの?こんなに楽しい旅だったのに...」
「楽しいって...お前、馬鹿なのか?」
「ば、バカって何よ!あ、私はただ...」
「いいから食え、冷めちまう」
苦い言葉を遮り、飯を食うことに集中する。
ガキも諦めたのか大人しく飯を続けた。
この時の飯はなんだか味気なかった。
飯の後からなんだか気まずい雰囲気が流れ休憩ポイントを出てしばらくも2人は沈黙を保った。
そんな沈黙を破ったのは、目の前に広がる光景だった。
一目見た瞬間、何が起きているのか理解出来なかった。
俺だけじゃない、ガキも多分そうだろう。
目の前に広がる...これは、なんだ...?
「...おかぁ...さん...」
それだけ言うとガキは膝から崩れた。
俺達の前に広がってきたのは廃墟とかした国のような跡地だった。
依頼の指定場所だ。間違いない。
そこはまるでつい最近まで争っていたかのような面影があり、所々からは黒煙がほそぼそと登っているのが見える。
硝煙の臭が風に乗ってここまで流れてくる。
硝煙に混ざり何かの焼けたような匂いが鼻をつく。
目の前の状況を理解しないまま、崩れ込んだままのガキを抱え、目的地に進んだ。
近づけば近づくほど異様さは増してゆく。
ゲートをくぐる時は門番などいなく、国を囲んでいたらしい壁はところどころ崩壊しており外部からの侵入はいとも容易いだろう。
国の中を進むとあちこち焼け爛れた様なあとが見られ、完全に焼け崩れている建物もあった。
なんだ、何があったんだ……
崩れた建物を見るとただ焼けたわけではなさそだった。
内側から爆発したようなもの、壁に残る無数の穴。
これだけでここで戦闘があったことは明白だった。
国の中心、城のある場所へ向かう。
国の中心に近づけば近づくほど死体が増えていった。
装備を見るとどうやら国民らしく、無抵抗のまま殺されたことが伺えた。
ガキは最初の亡骸を見た時からずっと泣きっぱなしだ。
正直うるさくてかなわない。
「おい、いい加減泣きやめ。お前がいくら泣いたところでこいつらは生き返らない」
「...うっ...ぐすっ...わかってる...ぐすっ...わかってるけど...ひっく...」
全く泣き止む気配はなかった。
少し進むと向こうの方から悲鳴が聞こえた。
泣き続けるガキの口を抑え声を殺した。
「...泣くな、向こうに誰かいる」
泣き止んだのを確認して手を離す。
苦しかったらしくむせている。
「すまない、許してくれ」
「けほっ、けほっ、だ、大丈夫...けほっ」
答えを聞きながら備え付けのミニポシェットから銃を取り出す。
「おじさん、それ...」
「向こうで悲鳴が聞こえた。ここを襲った奴らがまだいるかもしれん。今から確かめに行く」
「えっ、行くって...その銃でいくの?」
「ん?あぁ、そうだ、こいつが一番使い慣れてる」
残弾を確認しセーフティーを外す。
「...私も...」
「いや、ダメだ、お前はここに残ってろ。そうだ、あの小屋にしよう」
小屋の戸を静かに開け、中を確認する。
その中には老夫婦の亡骸が転がっていた。
「ひっ...」
明らかに怯える様に流石に心苦しくはあったが一刻を争う。
寝室と思しき部屋から布団を持ってきて亡骸に被せた。
「すぐ戻る。だから、誰にも見つかるんじゃない。いいな?俺との約束だ」
ガキは首を縦に振った。
「...わかった」
ガキとバイクを小屋に隠し、悲鳴の聞こえた方え向かう。
向かう途中何人かの悲鳴が同じ方から聞こえてきた。
しかし、一つとして同じ声はしなかった。
やがて広場が見える。
俺は屋根に登り上から状況を確認した。
黒服の人間が十数人、広場の中央には生きてる人々が集められていた。
その横では死体の山が出来ていた。
「...女、子どもにも容赦はなしか。ひでぇな」
広場に1箇所、血溜まりが出来ている場所があった。
少し観察していると、生きた人の中から老人が引っ張り出され、血溜まりの上に跪かされた。
黒服は老人に何か聞いているようだったが、なにも聞き出せなかったらしく、なにもためらうことなく首を落とした。
落とされる寸前、老人の断末魔が響いた。
次に選ばれたのはまだ年端もいかない女の子だった。
ちょうど、あのガキと同じくらいの女の子だった。
女の子はただ泣きじゃくるばかり。
黒服はすぐさま剣を振り上げた。
次の瞬間、剣を掲げた黒服が後ろに倒れる。
他の黒服は明らかに動揺していた。
「撃っちまった…くっそ」
もう後には引けない。
捕らえられた人々の近くに立つ黒服を優先的にうちころす先ずは五人。
そしてリロード。
すかさず撃ち込む。銃弾は全て脳天にヒットした。
このわずかな時間で9人。
まだこの広場だけで10はいる。
位置もばれた。
10人を5秒で沈黙。
黒服の援軍が銃声を聞きやってきた。
手には自動小銃が握られている。
屋根から飛び降り、黒服を撃ち抜いていく。
地をかけ、壁をかけ、高い跳躍、下から、横から、上から。
付近の黒服は全て片付けたらしい。
残弾は残り3。
囚われていた人々に早く逃げるように指示をだす。手枷を外しナイフを渡す。
さっきの女の子を立たせ、頭を撫でてやる。
「生きろ、ぜったいしぬな!諦めるんじゃない!」
らしくない。実に俺らしくない。
女の子は走っていった。
俺はさっきの黒服の小銃を拾い、増援のきた城の方へ向かう。
戦闘は極力避けたいところだが、やつ等がさっきの人たちに追いついたら話にならない。
敵は殲滅。しかし、正面からは殺りあう事はしない。
流石にそこまで自信過剰ではない。
一人一人消してゆく。
やがて小銃も弾がつき、黒服達の剣で殺り合う羽目にまでなった。
何人殺したかわからない。
体力は限界だった。
くっ、囲まれたっ…万事休すか…
屋根に2人、間合いに3人…しかも丁寧に、屋根の2人は小銃を構えている。
呼吸を整え、神経を研ぎ澄ます。
一発勝負だ…
目を閉じ、狙いを定める。
筋肉に血液を充血させ、飛ぶ。
しかし、俺の体は地面に叩きつけられた。
左足を撃ち抜かれバランスを崩した。
「ぐぁぁぁぁぁ!!」
思わずさけび声がでる。
黒服に捕まった俺は手厚い歓迎を受けた。
手足を後ろで縛られ、広場に連れて行かれ殴る蹴るの三昧だった。殺す事はせず、1人、2人が殴るけるを続け、疲れたら交代。これを繰り返す。
もうどの骨が折れていないのかわからない。
全身に激痛が走りっぱなしだ。
意識を失うと水に沈められ、強制的に戻される。
もうどれくらいこうされているのかわからなかった。
日は高い。気温も、湿度も低くない。
辺りには死臭が漂っていた。
死臭でむせたのか、肺を蹴られてむせたのか、もうわからないが生きた心地はもうしていない。
俺の視線の向こうには死体の山が無造作に積まれている。
俺も、そのうち仲間入りか…
そんな事をぼんやり考え始めた頃、歌が聞こえてきた。
哀しい歌だ。涙も出てきた。
このままこの哀しみに身を委ねるとしよう…
俺は目を瞑る。歌はどんどん強くなり、哀しみが少しずつ虚無に変わり始めた頃、違和感を覚えた。
さっきまで繰り返されていた暴力の雨が止んでいるのだ。
何が起こったのか…
目をゆっくり開けると、先ほどまで目の前にあった死体の山がない。
変わりに、エリーゼが立っていた。
「…………」
おまえ、なんでここに
と言おうとしたが言葉が出ない。
「それはね、貴方が死にかけたから、よ」
心を読まれたのか?
「読まれた...と言うより、聞こえた、って言った方が近いわよ」
なんだか大人っぽくなったような変な感覚だ。
あえて言うなら容姿、年齢と不釣り合いな雰囲気が出ていた。
妙に艶めかしく、大人の女性を思わせるような、そんな感じ。
しかし、そこに立っているのは間違いなく、あのガキだった。
そして、ガキの周りには...
「...ぞ...び...?」
「あぁ、この人たちのこと?違うわ。ゾンビではないの。まあ、死んでから生き返ってるのは確かにゾンビみたいだけど...でも生き返ってるわけでもないし...」
などとわけのわからないことを呟き出した。
その間にもゾンビ達は黒服達を次々襲い、あっという間に占拠してしまった。
目にも止まらぬ速さで動き、凄まじいパワーで敵を圧倒する。
しかも、昔の映画のように頭を撃たれても死なないのだった。
太陽にも強く、一体何が弱点なのだろうか。
城の攻略にはそんなに時間がかからなかった。
「みなさん、ありがとう...」
ガキは屍体に向け礼を言うと、屍体は糸が切れたようにその場に倒れた。
しばらく休んでいた俺は、話せるくらいまでは回復した。
「……お前、あれは一体...」
「...黙ってごめんなさい...私はこの国の王家の一族なの...」
「なに?...王家の一族だと?それが何であんな辺境の地にいたんだ...」
「...隠すつもりはなかったの……私も記憶が曖昧で...でも、この手紙を見つけて...いいえ、あの時入った小屋で、思い出したの...」
「...小屋?手紙?一体...」
どういうことか、この先はガキの差し出した手紙によって遮られた。
「...これは?」
「王宮の、お父様の部屋にあったの」
俺はその手紙に目を通した。
我が愛しのエリーゼよ
私はこの国に危機が迫ることを予知したことは覚えているね?
その危機からお前を守ろうと思い、アイネの力でお前を遠くに飛ばしてもらったんだ。
お前を、守るためにね。
その頃の予知では、ちょうどお前の帰ってくる頃には危機を脱しているはずだったのだが、事態は変わってしまった。
お前が帰ってくるちょうどの頃に不穏な輩が来るらしいことが分かった。
そ奴らからお前を守るため、気を引くことにした。
我々王家が国を捨て、他国へ逃亡した、と言う体でな...
上手くいってくれればいいのだが...
もし、この手紙を読んだのなら、東へ1000キロのところまで来て欲しい、我々はそこへ向かう。
無事、落ち合えることを祈っている...
手紙はそこで終わっている。
「なんだ?お前を守るため?なんでお前を守るために王家全部が動かなきゃならないんだ?そもそもアイネって何者なんだ?お前を飛ばすって、どういう事だ?」
「...……」
ガキは俯いたまま何も喋らない。
少し言いすぎたか?しかし、俺にも聞くくらいの権利はあるはずだ。
「...私の……私の一族は……」
もやもやしていると突然ガキが口を開いた。
「...私の一族は、特別な力を引いてるの。初代のご先祖さまは、黒魔術を用いて力を手に入れた、と伝えられてるの。よくわかんないんだけど。その力は姿形を変え、血を継ぐ者にそれぞれに力を与えてきた。私のお父様は、未来を見る力。私のお姉さまは物を移動させるテレポートと、超共感覚、テレパシー。そして私は...屍人遣い...ネクロ……マンサー...」
「……はっ?えっ?」
夢でも見ているのだろうか、目の前でつらつらと喋るこの子どもは一体何を喋っているのだろうか。
一応筋は通るが...素っ頓狂すぎる……。
ネクロマンサー?屍人を遣う?
もう訳が分からない……
「...そして、言い伝えにはこうあるの、屍人遣いし子あらはれしとき、大いなる悪意その力ほっせんとあらん。その力奪はれし時世界は闇に覆はれるだろう。ってね、それでお父様は私を守ろうと...」
「ちょ、まって、まって、つまり?お前がその力を発揮しちゃったから?狙われちゃったから?お姉ちゃんに飛ばしてもらったんだけど?予想が外れてちょうど襲われ時だったと?」
「...う、うん、多分、それであってると思う……」
「はぁ...マジか...まじかよ...」
「ごめんなさい...本当に隠すつもりはなかったの...」
めっちゃ涙声。まるで俺がいじめてるみたい。
「...ぐすっ...私も思い出せなくて...ひっく...それに、生まれた時から...ひっく...街の方で育って...この前突然兵隊が来て...色々わかんなくなって...気がついたら箱の中で...」
「...もういい。もういいから、喋んな」
頭を撫でてやる。
ガキは俯いて泣いていた。
「っし、じゃあ、早いとこ東に進まないとな。追いつけなくなっちまう」
「...えっ」
「なに、依頼は最後までやり通す。これが俺のやり方だからな」
「おじさん...」
「延長分はしっかり貰うから、覚悟しとけよ?」
「...うんっ!」
太陽みたいに眩しい笑顔だ。
この笑顔の裏には計り知れない重荷がのしかかっているに違いない。
この小さな背中に、あって余るほどの重荷が。
体はボロボロ、とりあえず、この国で一晩休んでから出ることにした。
こんなヘトヘトで1000キロは、ねぇ?
俺もガキも死んだように眠った。
陽が登るまで全く目を覚まさなかった。
久々のベッドだった。
翌朝、まだ開けきらない朝のとばりの中、軽い朝食を済ませすぐに東へ向かった。
道中幾度か黒服達に襲われたが、力に目覚めたガキと、俺とが力を合わせればどうということの無い奴らだった。
にしても、ガキの力はとてつもないものだった。
屍人に限らず、生人をも遣う力があったようだ。
黒服達を操り仲間討ちをさせ、その隙に俺が殺す。
その死体を操り、そこからは一瞬だ。
黒服の襲撃を受けながらも1000キロの道は3日もかからなかった。
手紙に記されたポイントに行くと、簡易キャンプがあった。
辺りとキャンプを警戒しながら、ゆっくり近づく。
キャンプまで15mの所で中から人が出てきた。
「...お姉ちゃん?」
「...?エリー...ゼ?エリーゼ!!」
お姉ちゃんと呼ばれたアイネはガキに飛びつく。
2人は再開に浸り、喜びあった。
しかし、アイネはすぐ深刻な表情になり、
「お父様と、お母様が...攫われた...」
「えっ...そんな……」
明らかに動揺するガキ。
やるせない表情のアイネ。
自然と言葉が出た。
「なーに、取り返せばいいだけの話だろ?」
「「……」」
二人とも驚いたような顔をした。
「何アホみたいな面してんた。とっとと助けに行くぞ?」
「でっ、でも...」
アイネがなにか言おうとするがそんなのは関係ない。
「なぁに、俺とそいつがいりゃあ負けないって。な?そうだろ?」
戸惑いの表情をしていたガキはそれを振り払い、やる気満々の顔で
「あったりまえじゃない!」
と元気に放った。
翌日、陽が開け切る前に、アイネの力で黒服の潜伏先に飛ばしてもらった。
ピンポイントで王様と女王の囚われている部屋だった。
「...よく来てくれた、我が娘よ」
先読みしていたのかあんま驚かない。
にしてもアイネのテレポートは恐ろしいほどドンピシャだった。
「お父様、お母様、お久しぶりにございます。今は時間がありません故、急いでここから出ましょう」
そう言いながら拘束を外す。
「...すまない、エリーゼ...屍人遣いの力を継いだお前を守るにはこれしか...」
「いいのよ、お父様...」
感動の再会、というところだろうがそうそう奴らも甘くはなかった。
「積もる話は後にしてくれ、奴らのお出ましだ」
黒服たちの気配が近づいてくる。
「おい、ガキンチョ、ソッコーで終わらせんぞ」
「うん。お父様、お母様、私はこの旅でいろんなことを学んだわ。おじさんにも出会えて、むしろ感謝してるの。ありがとう。行ってくるわね」
王様も女王もなんとも言われない面持ちだ。
そうこうしているうちにドアが蹴破られる。
俺もガキも立ち向かう。
躊躇いなんかはじめから無い。
戦わなきゃ、守れない。
自分も、大切な人も。
この長い旅でそんな事に気がつけた気がする。
長いこと忘れていた、戦う理由。
この星が砂漠になる前は政府御用達の殺し屋だった。
ガキの頃から殺すことだけ。
ただ殺してた。
砂漠になって、国がなくなって、俺も宛を失って。
運び屋の道を選んだのは偶然だったが、なんとか食いつないで、殺しをするのも賊に襲われた時くらいしかなかった。
だが、この仕事で、人として、大切なことをしれた気がする。
孤独だったこれまでとは違う。
誰かのために、あの子のために...。
黒服との殺し合いは一瞬だった。
楽しかった。あのガキと一緒に戦ってる、あの感じが好きになっていた。
ボスみたいなのもいたような気がしたが手応えなんて感じなかった。
一緒に戦ってる、本当にそれだけで楽しかった。
決着がついた後、みんなを城まで護衛した。
ガキがどうしてもって、言ったんだよ。
俺は、お前がいたらいいじゃねぇかって言ったんだけどな。
残党に襲われることもなく国についた。
すっかり変わり果てた国の姿に、王も女王も泣き崩れてたよ。
「申し訳なかった」ってね
依頼を達成した俺は南に待つ次の依頼人のとこに向かうことにした。
「おじさん、行っちゃうの?」
「...あぁ」
「どうしても?」
「...そうだ」
「また...会えるよね?」
「それはわからんな」
「...……」
掴みにくい返答に会話を続けられず黙ってしまう。
「...じゃあ、俺はこれで」
「あぁ、運び屋さん、ありがとう。君のおかげで娘は救われた。そして、私達も。どうか、気をつけて」
王の言葉に軽く頭を下げバイクに向かう。
「はーげんのおじさん!!!」
「...……」
「この国はボロボロになっちゃったけど!またみんなでやり直すから!やり直してみせるから!」
「...……」
「そしたら、そしたら!おじさんに、いっぱいお仕事頼むから!絶対また会おうね!!」
振り返ると目にいっぱい涙を貯めたガキが、精一杯の笑顔で笑っていた。
「おう、そしたらまた来るからよ、エリーゼ、元気でな。楽しかったぜ」
「...!!うん!!!」
南に向かいバイクを走らせる。エリーゼは腕をちぎれんばかりに振っていた。
あれから7年が経った。
俺は今でも運び屋を続けている。
別に約束したからじゃない。この仕事が存外俺にあっていたからだ。
「っと、次の依頼場所は...ん?」
そこに記されていたのは見覚えのある名前だった。
「...はぁ、まったく、先が思いやられるぜ」
やれやれと思いながらも、バイクの速さは軽快だった。
完
最後までお目通しいただきましてオリゴ糖ございました(ふざけた)
改めましてありがとうございました
そこそこ長くて、話を増やして読みやすくしようかなとも思いましたけどそれはまた後日しようと思ってます
ありがとうございました☆