風邪気味。
翌日、学校に行くと、のりがまた心配そうな顔をしていた。
「大丈夫?昨日はちゃんと病院行った?」
「行かなかった。家で薬飲んで寝てた。」
心配をかけて申し訳ない気持ちはあるが、“告っちゃえ攻撃”から関心が逸れるのは助かるので、しばらく、風邪気味ということにした。
そして昨日、守と会ったことも映画の約束をしたことも、しばらくは話さないつもりでいた。そっと、しまっておきたいから。
のりのことは好きだ。大学に入って、最初にできた友達だ。優しいし、気が合う。でも、今は…守のことは…そっとしておいて欲しいのだ。
「そっとしておいて欲しい」ということを今、のりに言っても聞き入れないだろう。そして、奈々自身が、のりの気を悪くさせずに伝える自信もない。
「今日のランチは、学食じゃなくて、外に行かない?…あ。ゴハン食べられる?」
午前の講義が終わって、教科書を片付けながら、のりが言う。
「食べ放題じゃなければ大丈夫!」
…ホントは食べ放題でもいいけど、風邪気味のフリしてないと。
「ホント?釜飯の気分なんだけど、どう?」
「いいね。行こう行こう!」
駅の少し手前のバス停から歩いてすぐの釜飯屋は、こぢんまりした佇まいの小綺麗な店だった。
「味のある建物だね。」
奈々が言うと
「でしょ?彼のおすすめなの。」
と、のりは得意げにウインクした。目元からピンクのハートがはじけた。
…今日もラブラブモードだなあ。気をつけよっと。
席に座ると、もうかぐわしい香りでいっぱい。お腹が鳴りそうになるのをこらえてメニューに目を通す。とはいっても、のりが詳しく説明してくれたので、ほとんど読んでいないのだが。
二人とも人気メニューの“大入り”を注文した。のりの彼曰く、迷ったら、色々な具が入っているコレがおすすめだそうだ。ランチタイムは、お吸い物とドリンクが付くのもおすすめポイントだそうだ。釜飯にワクワクしながらも、のりが何か言い出すのではとヒヤヒヤしている奈々。
「…ところで、奈々。」
…来た!
「何?」
「病み上がりで言うのもナンだけどさ。まだ決心つかないの?」
…ほっといて~。
「つかない。このままでいいの。」
「どーしてー?」
「うまく言えないんだけど。今は、守とのことを大事にしまっておきたいの。だから告らなくてもいいやって思ってるの。」
「意味わかんなーい。」
「言うと思った。のりの気持ちはありがたいけど、そっとしておいて。」
なんとか、怒ったりせずに言い終えて、ホッとした気持ちでお茶を飲む奈々。不可解な表情で、つられてお茶を飲むのり。しばらく沈黙が続いた。
「お待たせしましたー。大入り二つ、お持ちしました。」
沈黙を破ったのは、店員さんの声だった。沈黙に困っていた二人は救われたような表情で釜飯の蓋を開ける。
「いっただっきまーす!」
「おいしー!」
口々に歓声を上げる二人。悩んでいても、ウマい物はウマい!
二人とも、がっつりと完食。
「奈々、食欲出てきたんだ?良かったー。」
「そうだね。今日はかなり調子いいみたい。」
…しまった。私は風邪気味なのだった。