サボり。
「おはよう。昨日はごめんね。」
翌朝、学校でのりを見つけて話しかける。
「おはよー。全然いいよ。大丈夫?」
「もう大丈夫!」
そりゃそうだろう。頭なんて痛くなかったのだ。それに家に帰ってから、すぐに寝たわけでもなかった。守に電話しようか迷って、決心したはいいけど、11時過ぎていて、断念した。といういきさつで普段と同じくらいの時間まで起きていた。
「ところで、昨日、なんだったの?」
「話の途中で、解散になっちゃったでしょ。続きを話したかったの。」
…よかった電話しなくて。
「ところで、どーすんのよ?いつ告るの?」
…またソレ?
「まだ、告る気になれないの。」
「じれったいなー。他の女が現れたらやばくね?早く彼女になっちゃいなって。」
幸せモード全開ののりは、言いたいことをポンポンと言う。この人に「大切にしまっておきたい」ということを話しても通用しない気がしてきた。
「ホラ。協力するから。」
…ああ。やめて。こんなことなら今日、休めばよかった。今度こそ頭痛くなってきた。
すっかり弱っている奈々だった。
「帰る。頭痛くなってきた。」
「えー?大丈夫?病院行きなよー。」
「うん。今度ノート見せて。じゃあね。」
窓の外の雨が新緑を濡らしている。そんな中を通過するとなんとも心地よい。守との待ち合わせのために電車に乗っている。
ぼーっとしたまま駅に向かったはいいけど、家に帰る気にもなれず。思いついて守に電話してみたところ、今日は講義は午後からということだった。お決まりの「メシ行く?」になって、思いがけず守と会うことになった。
…何を話そう。彼女できた?とか聞く?こわくて聞けないな。何も話さないと気まずいし。困ったな。学校どう?がいいかな。普通すぎるかな。
悩んでいるうちに最寄の駅に着き、ロータリーに向かう。今日は車で迎えに来てくれるらしい。
「奈々!」
声がするほうを見ると、守が片手をあげていた。
…来て、よかった。
「お前、学校ねーの?」
車に乗り込むなり聞かれた。
「サボり。」
エヘっと笑うつもりが引きつってしまった奈々。
「学校で何かあったのか?」
「そういうワケでも…。」
「何だよ。言えよ。何かありました、と顔に書いてあるぞ。」
「いつからエスパーになったのよ。」
「学校、楽しくねーの?」
「…友達は、できたよ。」
「ケンカでもした?」
「してないよ。」
…あなたのことで悩んでます、だなんて言えない。
「さて。着いたぞ。ここの店、ウマいんだぜ。」
守が案内してくれたのは、かわいらしいカフェで、かつて塾帰りによく立ち寄ったカフェにちょっと似ていた。
「オススメは?」
「日替わりか、おまかせパスタセット。」
「守は何にするの?」
「んー。今日はパスタ。」
「じゃあ。私も。」
守がオーダーしてくれる。高校生の頃と変わらない光景。そして、テーブル越しに守が奈々の手を取る。
「相変わらず冷たい手してんな。また体調崩してんじゃねーの?」
奈々が体調を崩しやすいのを気にかけている守。何も気にしてないせいか、手に触れることも平気だ。そんな守にドキドキすることもなつかしい。
「奈々?顔、赤いぞ。熱でもある?」
次は額に手を当ててくる。これじゃあ、本当に熱が出そうだ。以前は、ここまで意識しなかったのが不思議に思えてくる。
ドギマギしているうちにパスタセットが運ばれてきた。
「あ、あの。か、彼女できた?」
やっとの思いで聞いてみる。
「いや。急になんだよ?奈々はどう?」
「いないよ。」
「だろーな。俺、お前の本性知ってるし。」
「何よ、ソレー?」
…こういう口調もなつかしいな。
食べながら思い出にふける。
「そうだ。夏休みってどうしてる?」
「バイト以外は特に決まってない。」
「映画行かねー?夏休み公開予定ので、観たいのがあるんだ。」
「うん!行く行く!」
「また予定決めような。」
「OK!」
…やったあ。これって考えようによってはデートじゃん!
「無理してないか?」
送ってもらう車の中、パーカーのファスナーを上げ下げしながらボーっとしていると、急に守が言った。
「してない、と思うけど、してるかもしれない。」
「今日、ちょっと変だったから。何かあったら電話しろよ。時間、あまり気にしなくていいから。」
「うん。ありがと。」
「今日は、つきあってくれてありがと。お店もかわいくてステキだった。」
駅に着いた。奈々はお礼を言ってちょっとさみしそうに車を降りる。
「おう。またな。」
守が軽く手を振って車を発進させる。
「守。また誘ってね…。」
奈々は、つぶやきながらロータリーで見えなくなるまで見送った。