ラブレター。
立ち位置は知りたい。近くに居られる関係は壊したくない。大事にしまっておきたい。
もし守に彼女ができてしまったら、近くにはいられない。それなら友達のラインを超えて、私が彼女になりたい。そうでなくても彼女になれたらどんなにいいだろう。
ぐるぐるぐるぐると考えても、答えは出ない。
「すいませーん。」
レジの前で呼ぶお客さんの声にハッとする。中学生かな、高校生かな。制服姿のかわいい女の子だった。
奈々はバイト先のコンビニで品出しをしているうちに考え事をしていた。
「お待たせしてすみません。」
と言いながら、急いでレジに行き、会計。お釣りと商品をお渡しして、お客さんを見送ると、また品出しの続きを再開。“ぐるぐる”も再開。
やっぱり、告白したほうが後悔しないのかな。でも、告白しなくちゃいけないというわけでも…。
「すいませーん。」
またお客さんが来た。次は若い男の人。20歳そこそこといった感じだった。ダンガリーシャツにチノパン。シンプルでどちらかというと地味な感じ。
返事をして、急いでレジに入る。
代金を手にした時、折りたたんだ紙が視界に入った。千円札と重なっていたらしいそれをお客さんに渡そうとしたら、仕草と口の形で“どうぞ”と言っているらしい。何か注文かと思ってその場で開いてを見ようとした時だった。
「あ、後で読んでください!」
そのお客さんは、それだけ言うと、買った物を引っつかむようにして、急いで店から出て行った。
「…何だろう?」
その場所にかがんで、レジに隠れるようにして紙を開いてみる。
『俺、お姉さんに憧れています。今度、食事にでも付き合ってください。TARO.K』
かあっと顔が熱くなる。告白されたことはあるが、ラブレターをもらったのは初めてだった。
…そういえば、店に入ってきたとき、会釈してきた人だ。
知り合いだったっけ?と思いながら会釈を返したことを思い出す。
ちょっとくすぐったいような、困ったような気持ちになる。断る方法を早くも考えている。守のことしか頭にないので、食事に付き合う気にもなれないのだ。その気がないのに食事だけご馳走してもらってトンズラするというテもあるにはあるが、奈々はそういうことのできないタイプなのだ。
そしてもう一つひっかかるのが、名前だ。メルアドも携帯の番号も書かずに『TARO.K』である。奈々は本名がタロウという名前の人に出会ったことがないので、怪しく感じているのだ。
手紙をくれたのが、守だったらよかったのにな…。
そんなことを考えながらレジを打ったり品出しをしているうちに時間は過ぎ、自転車で帰る途中のこと。スマホの着信音が鳴った。
この音はLINEだな。誰だろ。
自転車を停めてバッグからスマホを取り出す。のりからのメッセージだった。
『バイト終わった?あとで電話して。』
ゴキゲンなスタンプと一緒に送られてきた。
まだ、“相談”に乗ってくれるつもりだろうか。そっとしといて欲しいな…。
『ごめん。頭痛いから今日はもう寝るから。また明日、学校でね。』
奈々は、スタンプと一緒に返信をするとスマホをバックにしまい、再び自転車をこぎだした。