幸せになって欲しいの。
「いつにするのよ?」
講義も半ば、かったるくなってきたところへ、のりがヒソヒソ声で訊いてくる。
「何が?」
「告白に決まってんじゃん。」
「告るなんて、決めてないってば。」
「なんで?」
のりの声が少し大きくなって、教授と目が合ってしまった。
「と、とにかく、決断してないし、のりが話を進めてどーすんのよ。」
再び声をひそめる。
話さない方が良かったのかもしれない。誰かからとやかく言われることが、なんだか気分悪い。守との聖域に入られたような気がしてきた。別に初恋なわけじゃないけど、そっとしまっておきたいのだ。
とにかく、気をそらさなきゃ。ノートを取ることに集中しているうちに、のりもノートを取り始め、そうこうしているうちに講義が終了した。
「奈々ー!」
振り返るとのりが走ってきた。帰り道、1人で考え事をしたくて、そそくさと教室を出たのだ。
また、何か言われるのかな…。
「どーして先に行っちゃうのよー?」
「ごめん。考え事してた。」
「少しお茶しようよ。もう少し話したい。」
「バイトあるから無理。」
「10分だけ!お願い!」
ああ、のりの勢いに負けてしまった。バイトがあるのは本当だけど、これ以上、何か言われるのは勘弁だな。
10分だけの約束でやってきたのは駅前のミスタードーナツ。ドーナツを嬉々として選ぶのりは、憎めない。…けど、次は何を言うつもりなんだか。10分じゃ終わらなそうだし。
奈々は、怒ってしまわないよう、深呼吸してドーナツを選び、のりと同時に席についた。
「奈々!私は友達として、奈々の片思いを実らせたいの!」
席に座るなり、のりは叫ぶように言った。
ああ、そっとしておいて…。ケンカだの仲たがいだのは、イヤだけど、もう勘弁して。
「のり、あのね。」
「協力?するする!喜んで!何?お泊まりの協力?いきなり迫っちゃう?」
のりは話を聞くどころかマイ・ワールドにいってしまっている。
「お願いだから…。」
「お願いでしょ?わかってるよ!」
イヤイヤ。わかってませんてば。
マシンガンのようにのりは続ける。
「私、彼ができて、とってもハッピーなの。だから、奈々にも幸せになって欲しいの!」
「…あのね…」
意を決して言いかけたその時…。
「あ。ごめーん。彼から電話だから。」
電話に出るのり。
「もしもーし。のりでーす。今?駅前のミスド。友達の恋の相談に乗ってるの。今日?ウフフ。いいよ。じゃあ、10分後にねー。」
おいおい…。席で電話するなら、でかい声出すなよ。しかも相談に乗ってるって…。
「奈々ー。もうすぐ彼がお迎えにきてくれるの。だからゆっくり話せなくてごめんね。」
「いいよ。私もバイトの時間だし。」
よかった。とりあえず今日はこれで終わりにできそう。のりの彼に感謝だわ。
私は、守のこと考えるだけで幸せなんだけどなあ。私が変わってるのかな。
キレイな小箱に入れて、大事にそーっとしまっておきたいこの気持ち。私が変なのかな。