第一面接:「」
「し、失礼します」
その部屋から出てくる若者たちは一様に表情が暗く、何かに打ちひしがれたかのようにうなだれていた。自分の順番を今か今かと待っていた若者はそんな様子を見て期待よりも不安が色濃く顔に出るようになっていた。
「次の方、中にどうぞ」
部屋の中からはこれも若いであろう男性の声。
「は、はい! 失礼します!!」
声に答え、扉をノックした若者は(多少声が上ずっているが)元気よく返事をして扉の中に消えていった。
「ノックの前に返事していったよあいつ。そういえば今日は新人面接だったなぁ。これで何人目だ?」
その会議室の直ぐ脇の自販機前で缶コーヒーを片手にぶら下げた男が同じく缶コーヒーを買いに来た自分の部下に聞く。
「もう6人目です。いやもう同情してしまいますって」
ゴトン、と受け口に落ちた缶コーヒーを取りながら部下がぼやく。
「そんなにか? お前ってあれ、通った口じゃなかったか。というか、お前も今日の面接担当なんじゃなかったっけ? どうなん。こんなとこに居ていいの。同情とかしてる場合なんか?」
缶のプルを開けながら部下を問いただす。
「いや、俺居ても正直あの場所じゃ空気っすから。あれはあれで適材適所っすよ」
苦笑いしながら同じく缶のプルを開ける部下。
「いや駄目だろ。適材っても一人に押し付けちゃ偏るだろ? ああいうのは」
あまりに堂々としたさぼりに上司としては遅ればせながら注意する。
「そこんとこは大丈夫です。あいつに任せて失敗した人事ってないでしょう? なんせあいつですからね」
そんな上司のお小言をどこ吹く風と受け流す部下A。
「いや悪びれないねお前も。お、あの子かわいいじゃん。っていうかなんかのハーフか? どこの子だ。ほれほれ、見てみぇ」
注意もそこそこに新人候補チェックに余念のない中年の上司にため息をつく。
「あのねいい年して。部長やっぱしばらく結婚ないんじゃないっすか?」
「ほっとけ」
余計な一言に、缶の角で殴られる。
ここは世界救済機関≪ワールドエイド≫その日本支社、面接室前である。
本日6人目の落選者を見送ってから小休憩に入る。インターバルは15分。ふぅ、吐息をつき天井を見上げる。椅子の背もたれがギィと音を立てて体重を支える。
部屋には飾りっ気なしの白いテーブルが一つとそのテーブルをはさんで向かい合って置かれた黒いデスクチェアーが一組あるだけ。
今日の一応面接官は二人の予定だったが、相方はすっぽかしである。
「あんにゃろ、後輩の分際でよくもまぁ……」
思わず愚痴がこぼれるが、まぁ、居ないなら居ないで無駄な時間がかからなくていいか、と早々に切り替える。
そんなこんなで、本日代わる代わるすでに6名を捌いたわけだが今日の応募者はどうにもパッとしない。やれ魔王討伐が目標ですやれ困っている人々を救うのが使命です。
ご高説痛み入るわけだが、このご時世、冒険者業というのはイコール派遣業である。
その昔、冒険者労働組合、通称ギルドから端を発した寄合はそのまま実に人材派遣の組織へとそのあり様を変えた。
否、根本的なところでは変わっていないが、より効率のいい派遣システムがその体制を占めた段階で、もはや酒場の荒くれ者たちが覇を競う時代は終わりを迎えた。
そして俺はその近代的派遣業の人事などやっている一社員である。
仕事は単純明快。求人に対する応募者の適性判断である。
現代においても冒険者というのは若者たちにとって人気の職業の一つであり、王侯貴族の子弟の中からさえ冒険者になりたい! という者が後を絶たない。
間断なく応募者に溢れ、登り登った超倍率。国立魔法科大学もかくやという有様である。
人気職ともなるとそれこそ狭き門。我が『ワールドエイド』は実績に裏打ちされた確かなノウハウと魔界にすら支店を置く手広さで人気のいわば超一流企業なわけである。
当然、危険の伴う仕事も多いため、人事には慎重にならざるを得ない。おざなりに済ますこともできず、これがなかなか骨の折れる仕事だ。
「流石に疲れたなぁ。3時間ぶっ続けか」
口に出してみると案外まだそんなものか、と思い直し次の志望者の応募書類に目を落とす。
「ハーフ……。えらい美形だな。ん、何だこの経歴」
応募者の顔写真と経歴に目を通し、どうやら国外からの応募者であることと、どうにも