君がいたからーー櫻井莉子の場合
雰囲気が変わるので注意してください。ガールズラブとか書いてありますが、なにもありません。
百合って言わないでほしい。
私は彼女が男の子だと思って恋をした。
だって、男の子の制服を着て、公立の小学校の男の子に比べて落ち着いてて優しくて。恋に落ちるなって思春期入りたての中学生にどうしろって言うの?
なんで私に優しくするの?そりゃそうだ、基本的に女子は同性に甘いに決まってる。
そして、彼女が女の子だって知ってても一度好きになって嫌いになれるはずがない。唯一の救いは、この思いを口にしなかったこと。
ではなく、
同志がかなりの数、いたことだった。
※※※※
私、櫻井莉子がこの私立天翔学院に入学したのは中学にあがったときだった。親に私立の中学に行ってくれと言われて渋々承諾して受けたのが天翔だった。その代わりもう、必死に勉強した。小学校のときの子達にお金で行けるお嬢校にいったと思われたくなくて、レベルの高い天翔を必死で受けたのだ。
中学に入ったあと、私は浮きに浮きまくって天翔に入ったことを後悔したのだけど。
天翔は幼稚舎からあるエスカレーター式の学校だから、既にある女子のグループに入ることができなくて外部生のグループに拾ってもらった。
内部進学組は当然、お嬢様お坊っちゃまばっかりで話しについていけなかったのだ。
そんな中、私は彼女と出会った。その時は『彼』だと思っていたのだけど。
保月瀞
中1の頃は同じクラスで男女混合の出席番号だった私たちは、見事に彼女が男子生徒だと勘違いした。それくらい男子生徒に馴染んでいた。
ここからの歴史は見事にブラックなので開けたくないが、つまり、私は彼女に恋をして事実を知って失恋した。
他にも外部生で好きになった子達がいたのだけど、失恋したと知るや否や非公認のファンクラブにはいったらしい。強い。
高校に進学すると、愛華と沙穂が追いかけてきてくれた。二人とも頭のできがヤバイのに本当に頑張ってくれた。全寮制の高等部に入ると会うことができなくなるというのが、二人には耐えられなかったらしい、私はちょっと、ほんのちょっとだけ嬉しかった。
高等部にあがっても保月さんが女子の制服を着ることはなく、色々あってその事実を知った愛華と沙穂も絶叫していた。だよね?やっぱりそうだよね?
そのあと、私たちは如月君と相澤くんと話をするようになった。
でも愛華が如月君と仲良くなるにつれ、徐々に離れていく相澤くんと保月さんがわかって焦った。最初の方こそ、如月君を取られるようで嫌だったのかなとか思ったりもしたのだけど、愛華への風当たりが強くなるにつれ、保月さんが愛華を眺めてる姿をよく見るようになった。
なにを考えてるかわからないことが辛かった。
それが誤解だと、逆に愛華を守ってくれていたのだと知ったのはウィンターパーティーのときだった。
愛華と如月君がくっついたことに喜んでくれて、四人まとめて説教されて、正直ホッとした。私、彼女と友達になりたい。
愛華を唆せては、お昼を誘い。沙穂を唆せては、御菓子作りを習い。勉強を見てもらったりなんかして一緒にいる時間を作った。この感情が「友達への独占欲」になってることにちょっと安心した。
それがどうしてだろう。どうして保月さんが事故にあってるのだろう。
※※※※
一番最初に現実に戻ってきたのは意外にも愛華だった。
「相沢くんっ病院どこか聞いた?」
「ぇ……あ……いや……でも、付属の大学病院だと思う。近くだし、天翔の生徒だっていうのはすぐわかっただろうから」
「麻人くん、お願い車を出して」
「っ任せろ、大学病院くらいだったら田沼でも運転できるだろ」
如月君がすぐに田沼さんに連絡して車をまわしてもらう。当然私達もついていった。
車内では、如月君は相澤君の隣で如月君の背中をずっとさすっていた。相澤君は真っ青な顔で震えていた。
※※※※
病室はすぐにわかった。というか、特別室だった。なんてこと。
小走りで病室の扉をスライドさせて皆でなだれ込む。
「恭弥坊っちゃん!なぜ、ここに……」
男性が二人、女性が一人病室にいた。女性は保月さんのお母さんか。
と、如月君が「ベッドのそばにいるのが恭弥の両親。隅に立っているのが保月の親父さん」と教えてくれた。
「保月、瀞の容態は?」
「坊っちゃん、申し訳ございません。瀞のために……瀞は今眠っているだけでございますよ」
「瀞……」
相澤君は自分の両親を押し退けて保月さんの枕元にかけつけた。愛華が一緒に近寄って手を握る。
相澤君の指が恐る恐る保月さんの頬に触れる。
「瀞……」
「ん……」
保月さんの目蓋がゆっくり開いた。
「……瀞!瀞!」
相澤君が保月さんに飛びかかる。保月さん……!目が覚めた……
「……きょう……やさま?」
「瀞……っ」
保月さんは、相澤君の必死な姿に保月さんはクスリと笑った。
「何をそんな必死に……保月はここにおりますよ」
その言葉に相澤君の涙腺が決壊した。安心したのか、私の視界も滲み出した。
その日、私は男の人が声をあげて泣く姿を初めて見た。