お盆には軽トラで行こう!
2013年 競作小説企画第七回「夏祭り」用の作品です
使ったお題
化、扇風機、麦茶、ビニールプール、すいかアイス、ビーチサンダル、雲、日記帳、海洋
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あつい。
暑いというよりはむしろ熱い。
そんな日差しを楽しみながら、私は軒先でぼへーっと浮かんだ雲を眺めていた。
庭では、次男坊がビーチサンダルを履いまま、ビニールプールでばしゃばしゃとはしゃいでいる。
長男坊は扇風機の前で、溶けていくすいかアイスと格闘してる。そりゃあ、この熱いのに扇風機にアイスを晒していたら、食う前に溶けていくさ。
さておき。
私がこうしてぼへーっとしていると言うことは、休みである。
無論、子供たちは夏休みだ。
ふむ。
宿題の絵日記に、ネタのひとつでも提供してやるとするか。
「おい、坊主ども」
声をかけたが返事がない。
仕方ないので名前で呼ぶと、二人はしぶしぶと私の所に寄ってきた。
「お盆だ。知ってるか?」
「おぼん?」
次男坊が、両手で大きな「まる」を作って見せた。うん、間違ってはいない。
が、この場合お盆はそれじゃない。
「お盆だから、ご先祖様のところへ行くんだ。準備をするよ」
わたしは二人の子の手を引きながら、日差しの下を近所の店に買い物に出かけた。
買い物から帰ると、さっそくお盆の準備を始めた。
「なあ父ちゃん。これがお盆なのか?」
“コ”生意気な長男坊が、買ってきたキュウリやナス、それにお線香を眺めながら聞いてきた。
「それはお盆じゃないよ。ご先祖様にお供えするものだ」
わたしはそう答え、子供たちといっしょにキュウリとナスに足をつけ、適当な場所を見つけて飾ってやった。
「これが、どぼん?」
次男坊が首をかしげて聞いた。
「どぼんじゃない、お・ぼ・ん」
長男が、笑いながら教えてあげる。
つか、さっきはちゃんと言えてたじゃないか。
「だからな、小僧ども」
ぷい。
……すまん。
また、名前で言い直す。
「お盆というのはね、ご先祖様にお祈りする日なんだよ」
「なんでさ?」
「帰ってくるのさ、もといた場所に」
「お化けだ!」
「おばけー」
せめて幽霊といってくれ。ご先祖様に怒られるじゃないか。
ま、いい。
「そのご先祖様にお供えをして感謝の気持ちを伝えるの。パパや、パパのパパ、ママのママ、そのまたパパの……」
わたしはありきたりな説明をして、子供たちはなんとなく分かったようだった。
そんなことをしてるうちに、妻が帰ってきた。
「ただいま。お盆のお参りに行ってくるんだって?」
「ああ。ちょっと軽トラでね」
「あたしが留守番してるから、行っておいで。あと、これをもって行って行かないと」
妻は、帰る途中に店により、おはぎを買ってきてくれていた。
肝心なものをわすれていた。
でも、これでご先祖様へ会いにいけるな。
「出発!」
「しゅっぱーつ」
「すっぱーつ」
大人一人と子供二人を乗せた軽トラが、だらだらと発進する。
少なくとも、今の規定では定員オーバーじゃない。
落ち着いたところで、チャイルドシートと自分のシートベルトを確かめるとオートドライブに切り替えて、後はシステムに任せることにした。
はじめのうちは、子供たちは携帯端末でゲームをしたり、狭い中ではしゃぎあっていたが、いつの間にか寝てしまった。ま、こんなもんだろう。
そういうわたしも、ヒマで眠い。
しばらくして星空が広がり始めると、なおさら眠くなってきた。
べつに、寝てしまってもかまわないか。
このまま進んでお月様が見えるころになれば、現地まであと少しだ。
システムに目覚ましをセットして、わたしも……
べしべし。
目覚ましの前に、長男にどつかれて眼が覚めた。
「お父さん、バナナ」
「バナナ? もって来てないぞ」
「あれ、とうちゃん、ばなーな」
「だから、ないと……ばなーな」
星空にバナナが見えた。
もう少し正確に言うと、七割がた欠けたお月様だ。
「バナナ!」
「ばなーな」
坊主ども、お月様に失礼だぞ。とは、言わないで置こう。そのかわり――
「あれは、お月様だよ」
「お月様?」
「おつきー」
「ずっとずっと、地球を見守ってくれてる、お隣さんさ」
「お隣? お盆じゃなかったの?」
面白い反応。でも、わたしも最初はこんなだったかもしれないな。
「ちがうちがう。お盆のお参りをしに、ここまで来たんだぞ」
「どぼん?」
ちゃうわっ! と、のど元まで来たががまん、がまん。
ここまできたら、もうすぐ目的地だ。
他のお客さんたが乗った軽トラの姿も、ぼちぼち見えてきている。
「巨大バナナ!」
「ぎょだばなー!」
まだ言っている。
いや、言ってくれるのを半分期待してコースを選択していた。
巨大バナナが途中でまん丸になり、ゆっくりと背後に過ぎていく。
残念ながら、巨大お盆とは言ってくれなかった。
しかたないか。視野からはみ出るほど近くを通ってしまったから、あっけに取られている。
「どぼん、みえた!」
次男坊が、ふと前に向き直り、叫んだ。
またどぼん。
あたらずしも遠からずだし、どぼん、にしておこう。
人類が宇宙進出を始めてから、はや数千年。
毎年お盆の時期になると、広い銀河のあちこちから人々が集まってくる。
ここで感謝の祈りを捧げ、おはぎを食べるのが、わたしの知る「お盆」だ。
お盆がもともと何か知っている人なんて、もうどこにもいない。だからそれでいい。
今年もこうして、沢山の小型宇宙船“軽量トランスポーター”こと通称軽トラが集まり、降りることが禁じられたご先祖様の星「地球」を宇宙から見ながら、思い思いに甘いおはぎを食べていた。
さて。
わたしもこの辺で軽トラを停めて、子供たちとおはぎを食べるとしよう。
どぼん、としたくなるほどの水、海洋をもつ青い星を眺めながら――