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酸っぱい恋  作者: シュウ
檸檬編
9/19

勝利と褒美

一年生大会。

ベスト8をかけた我がバスケ部の後輩たちの戦いは、62対58という僅差ではあったが勝利という結果で終わることができた。

まさかあの強豪校の北高に勝つとは・・・。

そして勝利の鍵となったのは、我が愛弟子のくるみ・・・ではなくて、ガードの千夏(ちなつ)ちゃんだ。

司令塔という、チームを動かしていく大変なポジションなのにも関わらず、最初から最後まで集中力を切らさずに、隙あらば自ら切り込んだり3Pを入れたりと大活躍だった。元々パスセンスはいい方だと思ってたのだが、今日は冴えに冴えまくっていたように思えた。

その千夏ちゃんに応えるように、周りのみんなが疲れることをを知らないかのように動き回っていたのも勝因の一つだと思った。

いいなぁ。あーゆー白熱した試合とか見ちゃうと、私もプレイしたくなってくるんだよなぁ。

あ、そうそう。我が愛弟子のくるみは、フォワードという点を取りに行くためのポジションを任されていた。レイアップはうまいことできるんだけど、それ以外はまだまだで何回かファウルを取られてはシュンとして仲間に励まされていた。

いつもよりも上手く試合に参加している気がした。一回だけ、ドリブルで相手をかわしたこともあったし、スティール(パスカット)も成功してたし、調子がいいのは間違いなかった。試合前のアレがよかったのかなーとかも思った。

今度は3Pとかも教えちゃおうかな。

そんな感じで、今日の試合を振り返りながら、後輩たちの元へと向かっていると、試合後のミーティングをしているところに到着した。うちのバスケ部の監督は、おっとりした感じのおじいちゃんで、特に褒めもしないし怒りもしない。バスケの事がわからないわけではなくて、選手の自主性に任せるんだとか。それでも試合中はちゃんと指示も出すし、タイムアウトのタイミングもバッチリ見計らって取っている。

そしてミーティングはほとんど部員だけで終わらせて、最後に監督の話をちょっとだけ聞くというスタンスをとっている。このやり方でうまくいっているということは、やっぱりこの監督はいい監督なのかもしれない。

ちょうどミーティングが終わったところだったらしく、私に気づいた後輩たちが私のところに寄ってきたので、褒め言葉を送ってあげた。

そして現地解散ということもあって、散り散りになって帰っていく後輩たち。


「れもん。見ててくれましたー?」

「うん見てたよ。ファウル取られすぎじゃない?」

「ミーティングでも言われたんで勘弁してください」

「アハハ。まぁ精進しなさい」


くるみと並んで歩いて、駅へと向かう。


「それにしても相手強かったね」

「そうですね。あの佐々木とか言う女は一番嫌でしたね」

「あぁ、あの子ね。ずば抜けてうまかったもんね」


佐々木さんなのだが、あの子はシューターであると同時にガードもこなす、シューティング・ガードでありチームの要だった。

試合回しも上手くて、打った3Pは9割近く決まっていて、センスの塊みたいな子だった。それに気づいた監督が、早い段階でディフェンスがうまい子をマンツーマンでぶつけていたので、佐々木さんも自由に動けなかったんだと思う。


「もうあの女とは戦いたくないです」

「あの女って・・・そんなに嫌だったの?」

「嫌ってゆーか・・・次勝てるかどうかわからないので、戦いたくないだけです」


そう言って頬を膨らませるくるみは、佐々木さんを良く思っていないようだった。

まだ一年生なんだから、これから先も嫌ってほど対戦すると思うんだけどなぁ。


「まぁとにかく勝てて良かったじゃん。おめでと」

「ありがとうございます。じゃあご褒美は何にしようかなー」

「うっ。やっぱり覚えてたのね」

「当たり前ですよ。れもんとの約束は忘れません」

「高いものとかはやめてね? 私もお小遣いというものがあるから」


何にしようかなーとニヤニヤしているくるみは、楽しそうでもあり怖かった。

本当に高い物は勘弁して欲しいな。欲しいバッシュがあるからそれのためにお金貯めてるんだよね。

するとくるみがご褒美を決めたみたいで、ウキウキしながら私の前に回り込んできた。

あぁ! 神様仏様くるみ様ー!


「じゃあキスしてください」

「・・・は?」


キス? この子は何言ってるの?


「だってご褒美じゃないですか」

「いや、ご褒美って言ったけどさ。ほら、その、なんていうの? キスって言うのはこう好きな人同士がするものであって」

「私はれもんのこと好きですよ。れもんは私のこと嫌いですか?」


えぇぇぇ・・・この選択って間違えたら大変なことになっちゃうよねぇ・・・

くるみのことは嫌いじゃない。むしろ好きだ。でもそれは後輩としてだし、キスするようなもんじゃなくて、もちろん恋愛対象なんかではない。ってゆーか、女同士でキスってどうなの?


「私もくるみのことは好きだけど、女同士だし」

「それでも好きなんです!」


さっきまでのニヤニヤとした表情は無くなっていて、少し緊張してこわばった顔のくるみがそこにいた。


「私決めてたんです。あの試合に勝ったられもんに言おうって」

「えーと・・・そ、それっていつから?」

「好きになったのは、バスケ教わってる時からです。れもんのためにバスケも上手くなりました。頑張りました。れもんに褒めてもらうために頑張りました! 私じゃダメですか!」


ダメですかって言われても・・・


「私、くるみのことそーゆー目で見たことないからちょっとわかんない、かな・・・」

「・・・そうですよね。いきなり変なこと言ってごめんなさい」

「いや、私の方こそ・・・」


なんか気まずい雰囲気になってしまった。

くるみも落ち込んじゃってるし。


「じゃあキスだけでもしてくれませんか?」

「えっ。そこは有効なの?」

「だってご褒美ですから」


くるみって意外と頑固なのかな。

そうじゃなくて。一応私のファーストキスになるんだけどなぁ・・・


「ほっぺとかでもいい?」

「嫌です」


嫌ですって・・・ってことは口にしてくれってことだよね・・・

こうなったら覚悟を決めるしかない。

両手をくるみの肩に手をやる。するとくるみが目を閉じて顔を少し上げる。

こうやって見ると大人しいくるみって可愛いかも。

ふぅ。

小さく息を吐いて呼吸を整える。

さらば。私のファーストキス。


チュ。


少し屈んでくるみの唇に自分の唇を触れさせた。

そして顔を離して、目を開いてくるみの顔を見た。ちょうどくるみも目を開いたところで、ものすごく恥ずかしくなって肩から手を離して一歩後ずさりした。


「えへへ。顔真っ赤ですよ」

「だ、だって、キスとか初めてだもん! そりゃ真っ赤にもなるよ!」


それを聞いたくるみが意地悪く笑った。

と思ったら、一気に泣きそうな表情に変わっていき、ついに涙を流し始めた。


「ううっ・・・」

「ちょっと、なんで泣くのっ」


なんでと聞いたものの、答えは分かりきっていた。

私は数時間前とは違う気持ちで、くるみを優しく抱きしめて泣き止むのを待つことしかできなかった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

感想とか書いていただけると幸いです。


くるみがついに告白しました。


次回もお楽しみに!

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