おでかけ
私達と高町さんは隣のクラス同士ということもあって、体育の授業なんかも同じだったりして仲良くなるのに時間はかからなかった。
よそよそしい、というももちゃんの意見もあり、しばらくするとそれぞれのことを名前で呼ぶようになっていた。私とももちゃんは『楓』と呼んでいた。なっちゃんは『楓ちゃん』と呼んだ。
楓はももちゃんのことを『百恵ちゃん』、なっちゃんのことを『夏美ちゃん』、私のことだけ呼び捨てで『柚子』と呼んでいた。なんでも美味しそうなんだとか。
そんなある日の放課後。
私と楓が二人で学校を帰ることになった。
ももちゃんとなっちゃんがそろって掃除当番ということもあって、私が一人で帰ろうとしていた時に、楓が後ろから走って追いかけてきたのだ。
「別に走ってこなくても呼んでくれれば止まるのに」
「あ、そっか! うっかりしてた。次からはそうするね」
「楓ってこっちのほうだっけ?」
「ううん」
ううんって・・・
「・・・じゃあなんで来たの?」
「柚子と一緒に帰りたかったの。ダメ?」
こんな綺麗な楓に上目遣いで頼まれたら断れないじゃん。
「ダメじゃないけど・・・いいの?」
「やったね! じゃあどこ行こっか?」
「えっ? 帰るんじゃないの?」
「せっかく二人きりなんだしどっか行こうよー」
「もー・・・」
楓はいつも強引に誘ってくる。ももちゃんですら時々振り回されるのだから、私が制御出来るはずもないんだよね。
まぁ悪い気はしないけどさ。
「じゃあどっか行こっか!」
「さっすが柚子!」
私の腕に抱きついてきちゃって・・・。胸が当たってるんですけどー。
それにしても楓っていい匂いするなー。なんか・・・なんだろ。安らぐ匂いっていうの? そんな感じ。
これが体臭だとするんなら何食べて生活してるんだろ?
「やっぱり柚子はいい匂いするよねー」
「へっ? そ、そう?」
「うん。なんかポン酢の匂いする」
「それは名前の印象でしょ! そんなこと言うなら離れてくださいー」
それで小学校の時バカにされたんだからやめてー。
「アハハ。いーやーでーすー。柚子の匂い好きなのにー」
「柑橘系の匂いとか言うんでしょっ」
「ううん。なんか落ち着く感じ」
長いまつげを伏せて落ち着いたような表情で私の腕を抱えている楓は、とても綺麗だった。
同性から見てもそう思うんだから、男子が見たらどう思うんだろ。
それともこんな無防備なところ、私にだけしか見せてないのかな?
なんか変に緊張してきた。早く移動しちゃおう。
「で、どこに行くの?」
その後、私と楓は電車に乗って少し栄えたところまで出てきて遊んだ。
ゲームセンターに可愛いグッズが売ってるお店、服屋さん、なぜかスーパーや家電売り場に行ったりもした。
楓はいちいち楽しそうにしていて、まるで小さい子どものようだった。
そして歩き疲れたということもあって、目についたファミレスに入って休憩することにした。
ドリンクバーだけ注文して、飲み物を入れて戻ってくると一息つく。
「はぁー、楽しかった」
「ホント楽しそうだったよね」
「うん。柚子と二人でいろんなとこ回るの初めてだったからすごい楽しかったー!」
「それはよかった」
「柚子は楽しくなかったの?」
なんて質問をしてくるんだ。
「楽しかったよ。私も楓といろんなところ回って楽しかったよ」
「そっか。それは良かった!」
綺麗な顔で満面の笑みを向ける楓を見ているとこっちまで嬉しくなってくる。
「そういえば楓って彼氏とか作る気はないの?」
「うーん。あんまり興味無いかなー。柚子は?」
「私? 私はこんなんだし、楓みたいに告白されたことも無いし」
私の顔は楓に比べると、中の中ぐらいでとても平均だと思う。
そして性格も特に突出したところがなくて、平々凡々だから、相手が好きになる要素がないと思う。
「じゃあもし告白されたらどうする?」
「えー? 私が告白かぁ。考えたこともないなぁ・・・」
「じゃあかっこいい人ならOKする?」
「かっこよくても結局は中身でしょ? 多分OKしないかなー」
そうそう。人間中身が大事なのだ。
「仲良い男の子とか居ないの?」
「いないいない。ももちゃんはあんなんだから男子とも仲良く出来そうだけど、私はなっちゃん寄りだから、男子とワイワイするのはちょっと苦手かな」
私は大人しいけど一緒にいて楽しい人が好きなの。だから正直顔は二の次かな。
あの男子特有の『イェーイ!』みたいなノリが苦手なのも事実。
「ふーん。そうなんだー・・・」
ん? なんか今ちょっと楓の笑い方が不自然だったような・・・まぁ時々そんな笑い方するし、癖かなんかなのかなぁ?
「楓?」
「ん?」
「どうかした?」
「柚子の彼氏になる人ってどんな人なのかなーって考えてたの」
「どんな人だった?」
「よくわかんなかった」
「なにそれー」
ファミレスを出た私達は、駅に向かって歩いた。ファミレスで盛り上がったせいか、夜の風がひんやりしていて気持ちよかった。
これから夏になって生ぬるい風が吹くのかと考えると、ちょっと勘弁してもらいたい。
「じゃあ私電車だから」
「私も電車なんだよ!」
「でも逆方向じゃん」
「今日はありがとね」
「私の方こそありがと。ノープランでここまで来たけど、結構楽しかったね」
「また遊んでくれる?」
「もちろん。私たち友達でしょ?」
「・・・うん」
また少し変な笑い方・・・
なんか変なこと言ったかな?
「どうかしたの?」
「あ、いや、楽しかったなーって思ってたの・・・」
「・・・なんか気にしてる?」
「・・・・・・」
黙っちゃった。なんか悪いことしちゃったのかなぁ?
「楓?」
そう言って楓の肩に手を乗せた。
一瞬だけ見えた楓の顔は今にも泣きそうな顔だった。
「えっ? ちょっと、どうしちゃったの?」
私は楓の顔を見ようとしゃがんで下からのぞき込んだ。
その時に、グッっと楓の顔が近づいてきて唇に柔らかいものが触れた。
えっ? えっ? 今、キスされた?
「・・・ごめんなさい」
そう言って楓は、ほとんど泣きながら電車の待つホームへと走って行ってしまった。
私はしゃがんだまま呆然と楓がいた場所を見ていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると大変喜びます。
一応(柚子編)として章をつけていますが、何人まで増えるかはわかりません。
気分次第でございます。
次回もお楽しみに!




