べっぴんさん
私はなっちゃん(夏美)とももちゃん(百恵)の二人に先に行ってもらうことにして、その400M走の人と一緒に歩くことにした。
「あのー」
「ん?」
「どうして私の名前・・・」
隣を背筋を伸ばして歩いている彼女に向かって声をかけた。
「あぁ。走ってるときに目合ったでしょ? その時にチラッとね」
「チラッとねって・・・走ってる時に何考えてるの?」
「色々考えてるよ。例えば天気いいなぁとか。でも今日は本田さんの名前を見ちゃったから」
「名前?」
思い出して笑いがこみ上げてきたのか、ふふふと笑って笑みを作る。
笑った顔もべっぴんさんだなー。
「下の名前『柚子』って書くんでしょ?」
「うん」
そんなに変な名前なんだろうか?
「ちょうどスタートするときに酸っぱいものが食べたいなーって思ってたら、曲がるときに『柚子』って文字が目に入ってきてさー。そしたらなんか面白くなってきて、ゴールの時に笑顔でゴールすることができました。ありがとうございます」
ペコリと頭を下げる彼女につられて、私も頭を下げた。
すごい綺麗な人だから、もうちょっとお上品なのかと思ったら、全然そんなことなくてビックリした。
「えっと、あなたの名前はなんてゆーの?」
「あれ? あの時見てなかった?」
「いや、目が合っちゃったのにビックリして見てなかった」
「てっきり見てたから知ってるのかと思ってた。ごめんね。私、高町楓。よろしくね」
「私は本田柚子。こちらこそよろしく」
「あ、『ゆず』って読むんだ。『ゆずこ』かと思ってた」
「はははー。よく言われる」
彼女、高町さんはとても気さくな人で常に自然体な感じ人だった。
美人なのにも関わらず周りの目を全然気にしないでふんわりと浮いているようなイメージだ。
ホントにこれで同い年だと言うんだから困ったもんだよ。
地下鉄の駅に着くと、なっちゃんとももちゃんが待っていてくれたみたいで、二人と合流した。
二人も高町さんと話すのは初めてだったらしく、互いに自己紹介をした。
「それにしても高町さんってべっぴんさんだよねー」
「べっぴんさんって・・・ももちゃん、それは言い方が・・・」
ズバズバっと物事を切り裂くタイプのももちゃんに、おしとやかななっちゃんが高町さんの顔色を伺いながら注意する。
二人とも小学校からの友達で、よく遊びに出かけたりする仲良し三人組だ。
ももちゃんの言葉使いを注意するのは、いつもなっちゃんの役目だった。
そんなももちゃんの汚い言葉使いも大した気にしていないようで、にっこりと笑顔を浮かべて高町さんが答える。
「よく言われるんだよねー。告白とかもされちゃったりして」
「えー羨ましいなぁ」
「でも彼氏はいたことありませーん」
「なんでなんでー? それだけモテるんだからよりどりみどりじゃん」
それは私も気になった。なっちゃんも気になるのか、ももちゃんを止めたりしなかった。
「私ねー。こう見えて尽くされるよりも尽くしたいタイプなんだよ。だから好きになってもらうよりも、好きになった人を精一杯愛し抜きたいんだ」
「うわー。なんかカッコイイー。あっ、すみません」
胸を打たれたらしいももちゃんは、後ろに後ずさりして後ろの人にぶつかってしまい謝っていた。
それにしてもカッコイイなぁ。
高町さんを見ようとしたら、また目が合ってしまった。そしてニッコリと微笑む高町さん。
その綺麗な笑顔に思わず顔を赤くしてしまった私にももちゃんがつっこむ。
「あれー? 柚子ってばなんか顔赤くない?」
「えっ!? そんなことないよねー? なっちゃん?」
「そう言われてみればちょっと赤いかも・・・」
「ははーん。もしかして高町さんの美人パワーにやられたんだな!」
ちょっとなんでわかった! ・・・じゃなくて!
そりゃ綺麗な顔だなーとは思ったけど、別にやられたわけじゃ・・・
「私は柚子なら食べてみたいなー」
なんですと!?
ってゆーか名前で呼ぶなんて!
「おっと! 高町さんってば大胆!」
ももちゃんも実況しないで!
なっちゃんがおっかなびっくり高町さんに問いかけた。
「もしかして高町さんって・・・」
「あぁ、柚子って美味しいよねーって思って」
「食べ物の話か・・・びっくりしたー」
「ごめんごめん。紛らわしかったねー」
・・・ホントだよ。一番びっくりしたのは誰だと思ってるんだ。
高町さんはよくわからない人だ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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全体的に早い展開でお送りしていくと思います。
ニヤニヤしていただければ幸いです。
次回もお楽しみに!