タバコから始まる出会い・おまけ
女の子というものは、どうしてあーもいい匂いがするのだろうか。
更衣室の中では、どこか芳香剤のような香りがし、汗臭さなど全然感じさせない。きっとみんながシューシュー制汗剤を振りまいているからだろう。女の子という生き物は臭いとか香りとかに敏感なのだ。
だからというわけでもないけど、私が何もしてなくても周りでシューシューしてくれるおかげか、私もいい匂いがするらしい(友達談)。
抱き付く際にいろんな女の子の匂いを嗅いでいるのだけど、ほとんどの女子からはいい匂いがした。
しかし、私の友達の中で一人だけ、いい匂いがしない人間がいる。
それが真奈美である。
彼女は喫煙家であって、彼女の匂いに混じって、微かにタバコの匂いを感じるときがある。
彼女曰く、吸った後には口の匂いを消すやつを食べてごまかしているらしい。服に付いたタバコの匂いは、バイト先の居酒屋でついたことにしているらしい。
でもバイトには私服で行っているとのことなので、ちょっと考えればわかることだ。きっと家でも吸っているんだろう。部屋とかタバコ臭いんだろうなって思う。
「まーなみー!」
「うわっ!」
話しかけるついでに後ろから抱き付いて匂いチェック。やっぱりタバコ臭い。
「そんな声出さないの! 女の子なら、キャッとか言わないと。女子高生の名が廃るって」
「今時そんな女子高生見たことないっての」
「むっ? なんだかヤニくさいなぁ」
「その発言の方が女子校生らしくないけどね」
匂いを嗅いでいると、ふと真奈美が持っていたスケジュール帳に目がいった。
そこには女性の名前と電話番号が書いてあった。それを見られた真奈美は、ちょっとだけ顔をしかめたように見えた。
聞くと、バイト前に立ち寄る喫煙所で知り合った大学生の人らしい。
その人に言い寄られた挙句、連絡先を交換したんだとか。
私とは連絡先を交換しただけで、こっちからラインを送ってもそっけない返事ばかりなのに、その『芽衣子さん』って人とはちゃんとやりとりをしてるらしい。
……ちょっと胸の中に黒いモヤがかかったような気がした。
「騙されてるんじゃないの?」
「芽衣子さんはそんな人じゃないよ」
ちょっとジェラシー。
「知らない人と仲良くしたらダメだよー」
「もう知らない人じゃないって」
「むー」
私は別に真奈美のことが好きとか嫌いとかじゃない。ただ、なんて言っていいかわかんないけど、もう少し私にかまってくれてもいいと思うだけだ。
女の子特有の良い匂いを嗅ぐのは好きだ。
だけど、真奈美みたいに特殊な匂いを嗅ぐのも好きだ。匂いフェチってやつなんだと思う。
こんな私のことを何とも思わずに、普通に接してくれる真奈美が、どこか遠い存在になってしまうような気がしてちょっと嫌なだけだ。
それにちょっと真奈美はタバコとか吸ってるから心配だ。個人的な偏見だけど。
後ろから気持ちを悟られないように少しだけ腕に力を込めると、その腕に真奈美の手が触れた。
「大丈夫だよ。芽衣子さんは誰かを騙したりなんてするような人じゃないから」
「むー……なんでそんなにかばうのさ。私とも仲良くすればいいじゃん」
少しだけ本音を出してみても、鈍感な真奈美は私の気持ちになんて気づくはずもなく、困ったように笑った。
「咲月とは仲良いじゃん」
「そーゆーことじゃなくてー」
私がため息をつくと、暑苦しいと言って腕を離されてしまった。
そして数日後。
大人っぽい真奈美が楽しそうにスマホをいじっているのを見た。
きっと例の『芽衣子さん』とお楽しみなのだろう。
私はそれが面白くなくて、友達との会話から抜けて真奈美の後ろへと回り込んだ。私が背後に立っても全然気が付かない真奈美に、私はちょっとだけ苛立ちを感じて、いつもよりも荒々しく後ろから抱き付いた。
「私にもかまってよー!」
「どわっ! なんだ? って咲月かいっ。ビックリするじゃん」
「かーまーってー!」
「なんだなんだ? 今日はかまってちゃんなのか?」
「かまってちゃんでもいいからー」
抱き付いたまま身体を振り回すように揺らすと、揺らされながら真奈美が言った。
「わかったわかった。じゃあ今日はカラオケでも行く?」
「マジで!?」
嬉しくて、思わず大きな声を出してしまった。
「耳元で大声を出すな」
「めんごめんご」
「で、行く?」
「行く!」
「よし。咲月は犬みたいだな」
頭を撫でられながら言われた。
「なんでさ」
「匂い嗅いでくるし、私に懐くし」
「どういう意味さー」
私が頬を膨らませて言うと、真奈美はアハハと笑った。
このままの関係でも壊れなければいいかな、と思った瞬間だった。
まぁその後、真奈美と例の『芽衣子さん』が付き合い始めたって知らされて、驚いたのはまた別の話だけど。
おしまい。
やっと書けたおまけ回。
一応完結扱いとさせていただきます。
ネタが思い浮かんだらまたお会いしましょう。
ではでは。