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酸っぱい恋  作者: シュウ
タバコ編
16/19

タバコから始まる出会い

「あのぉ…ライター借りてもいいですか?」


私は、駅の喫煙コーナーでタバコを吸っていた。

そんな私の元へ、可愛らしい女性が声をかけてきた。


「ライター? あぁ、どうぞ」


私はポケットの中に入れていた100円ライターを渡した。

彼女はそれを手に取ると、タバコをくわえてそれに火をつけた。

そして一口吸って煙を吐いて、私にライターを返した。


「ありがとうございます。助かりました」

「いえ、別に」


ニコニコとそう言う彼女は、とてもここの煙たい場所にいてはいけないような女性だった。

可愛らしくて懐っこいふんわりした感じ。

そんな人でもタバコを吸うのかと思うと、タバコって怖いな。吸ってる私があーだこーだと言うのも変だから口には出さない。


「いつもここで吸ってませんか?」

「えっ?」


いつもここにいる人なの?

初めて見たと思ってた。ってゆーかそこまで周りの人なんて見てなかった。

バイトの前にここでタバコ吸いながらスマホでニュース見て、1本吸い終わったら出てたし。

でもそんな短い時間しか居ない私を、『いつも』と表現するってことは、この人もこの時間に居るってことなんだろう。


「まぁ…いつもってわけじゃないですけど、それなりにいますね」

「やっぱりそうなんですねー。私、いっつも出てくところだけ見てたんですよー」

「出てくとこ?」

「私がここに来たときに入れ違いで出て行ってるみたいで、後ろ姿ばっかりで。えへへ」


タバコを持ってないほうの手で頭をかく彼女。


「ちょっと気になってたんで、いつもよりちょっとだけ早く来て声かけちゃいました」


声かけちゃいましたって…気になってたって…

どういう意味だよ。なんか怪しいセールスとかなんか?

ちょっとだけ用心しよう。


「で、なんで私なんですか?」

「その、なんかカッコよくて」

「…はい?」

「タバコ持ってスマートフォンを持ってるあなたに興味がありまして」

「セールスとかならお断りですよ」

「違いますよぉ!」


頬を膨らませて言い返す彼女はちょっと可愛かった。

これがセールスなら、うっかり買っているかもしれない。


「じゃあ何か?」

「だから、そのー、気になってて……ご迷惑、でしたか?」

「迷惑ってゆーか…」


なんなんだ?

私が気になってたってどういうことだ?

この女性に興味を持たれることはあったとしても、好意を持たれるまではいかないだろう。

だって喫煙所にいる一人の人だよ? そんなどこにでもいる人に興味を持てどもって…

ちょっと落ち着こうとして、タバコを口にくわえて吸った時だった。


「じゃあはっきり言います。一目惚れしました。交際を前提にお友達になってください!」

「ゲホッゲホッ!」

「えぇっ!? 大丈夫ですか!?」


私は盛大にむせた。

喫煙所にいた他二人の男性も少なからずむせている。

そのくらいの衝撃があった。

この人は何を言っているんだ。


「ゲホッ…えっと、どういう意味ですか?」

「そのまんまの意味です」

「いや、そのまんまというのが…」


『混乱』の二文字が今の私にはピッタリだった。


「私たち女同士ですよ?」

「そうですけど…ダメですか?」

「ダメですか、ってそういうことは異性とするものでしょう」

「でも寝ても覚めてもあなたのことばかり考えてしまうんです。これを私にどうしろと言うんですか?」

「そんなの私に聞かれても…」

「じゃあお友達でいいので、アドレスとか交換しませんか? 電話番号でもいいですよ?」


そう言って、カバンの中をゴソゴソとし始めた。しかし何やら様子がおかしい。


「あれぇ? あれっ、あれ? あれ? …携帯、忘れて来ちゃったみたいです」


あからさまにしょんぼりとする女性。

ホント浮き沈みの激しい人だ。

そう思うとなんか楽しいもので、私はカバンの中からスケジュール帳を取り出し、自分の名前とアドレスと電話番号を書いて、そのページを破って渡した。


「へ?」

「これ。私の連絡先です」

「いいんですか?」

「悪い人じゃないみたいですし。お友達としてなら」


私もこの人にちょっと興味を持ってきた。なんかいちいち可愛い。


「あ、ありがとうございます…ホントにいいんですか?」

「…悪いことに使っちゃったりするんですか?」

「そんなめっそうもない!」

「ならいいです。連絡返すかはわかりませんけど」

「返してくれないんですか!?」

「気分次第です」

「それはそれでカッコイイですね」


そう言う彼女はとても嬉しそうに笑った。

その笑顔に私も思わず笑顔になる。


「ではお友達からということでよろしくお願いします」

「『から』ですか。まぁよろしくお願いします」


そう言って喫煙所の中で、ペコリとおじぎをしあった私たちだった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


久しぶりの短編ではないストーリーものです。

全3話ぐらいを予定しております。


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