タバコから始まる出会い
「あのぉ…ライター借りてもいいですか?」
私は、駅の喫煙コーナーでタバコを吸っていた。
そんな私の元へ、可愛らしい女性が声をかけてきた。
「ライター? あぁ、どうぞ」
私はポケットの中に入れていた100円ライターを渡した。
彼女はそれを手に取ると、タバコをくわえてそれに火をつけた。
そして一口吸って煙を吐いて、私にライターを返した。
「ありがとうございます。助かりました」
「いえ、別に」
ニコニコとそう言う彼女は、とてもここの煙たい場所にいてはいけないような女性だった。
可愛らしくて懐っこいふんわりした感じ。
そんな人でもタバコを吸うのかと思うと、タバコって怖いな。吸ってる私があーだこーだと言うのも変だから口には出さない。
「いつもここで吸ってませんか?」
「えっ?」
いつもここにいる人なの?
初めて見たと思ってた。ってゆーかそこまで周りの人なんて見てなかった。
バイトの前にここでタバコ吸いながらスマホでニュース見て、1本吸い終わったら出てたし。
でもそんな短い時間しか居ない私を、『いつも』と表現するってことは、この人もこの時間に居るってことなんだろう。
「まぁ…いつもってわけじゃないですけど、それなりにいますね」
「やっぱりそうなんですねー。私、いっつも出てくところだけ見てたんですよー」
「出てくとこ?」
「私がここに来たときに入れ違いで出て行ってるみたいで、後ろ姿ばっかりで。えへへ」
タバコを持ってないほうの手で頭をかく彼女。
「ちょっと気になってたんで、いつもよりちょっとだけ早く来て声かけちゃいました」
声かけちゃいましたって…気になってたって…
どういう意味だよ。なんか怪しいセールスとかなんか?
ちょっとだけ用心しよう。
「で、なんで私なんですか?」
「その、なんかカッコよくて」
「…はい?」
「タバコ持ってスマートフォンを持ってるあなたに興味がありまして」
「セールスとかならお断りですよ」
「違いますよぉ!」
頬を膨らませて言い返す彼女はちょっと可愛かった。
これがセールスなら、うっかり買っているかもしれない。
「じゃあ何か?」
「だから、そのー、気になってて……ご迷惑、でしたか?」
「迷惑ってゆーか…」
なんなんだ?
私が気になってたってどういうことだ?
この女性に興味を持たれることはあったとしても、好意を持たれるまではいかないだろう。
だって喫煙所にいる一人の人だよ? そんなどこにでもいる人に興味を持てどもって…
ちょっと落ち着こうとして、タバコを口にくわえて吸った時だった。
「じゃあはっきり言います。一目惚れしました。交際を前提にお友達になってください!」
「ゲホッゲホッ!」
「えぇっ!? 大丈夫ですか!?」
私は盛大にむせた。
喫煙所にいた他二人の男性も少なからずむせている。
そのくらいの衝撃があった。
この人は何を言っているんだ。
「ゲホッ…えっと、どういう意味ですか?」
「そのまんまの意味です」
「いや、そのまんまというのが…」
『混乱』の二文字が今の私にはピッタリだった。
「私たち女同士ですよ?」
「そうですけど…ダメですか?」
「ダメですか、ってそういうことは異性とするものでしょう」
「でも寝ても覚めてもあなたのことばかり考えてしまうんです。これを私にどうしろと言うんですか?」
「そんなの私に聞かれても…」
「じゃあお友達でいいので、アドレスとか交換しませんか? 電話番号でもいいですよ?」
そう言って、カバンの中をゴソゴソとし始めた。しかし何やら様子がおかしい。
「あれぇ? あれっ、あれ? あれ? …携帯、忘れて来ちゃったみたいです」
あからさまにしょんぼりとする女性。
ホント浮き沈みの激しい人だ。
そう思うとなんか楽しいもので、私はカバンの中からスケジュール帳を取り出し、自分の名前とアドレスと電話番号を書いて、そのページを破って渡した。
「へ?」
「これ。私の連絡先です」
「いいんですか?」
「悪い人じゃないみたいですし。お友達としてなら」
私もこの人にちょっと興味を持ってきた。なんかいちいち可愛い。
「あ、ありがとうございます…ホントにいいんですか?」
「…悪いことに使っちゃったりするんですか?」
「そんなめっそうもない!」
「ならいいです。連絡返すかはわかりませんけど」
「返してくれないんですか!?」
「気分次第です」
「それはそれでカッコイイですね」
そう言う彼女はとても嬉しそうに笑った。
その笑顔に私も思わず笑顔になる。
「ではお友達からということでよろしくお願いします」
「『から』ですか。まぁよろしくお願いします」
そう言って喫煙所の中で、ペコリとおじぎをしあった私たちだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
久しぶりの短編ではないストーリーものです。
全3話ぐらいを予定しております。




