3ヶ月
高校で知り合って、私の方から彼女に告白をしてから3ヶ月。
『ちょっと考えさせて』と言われてから3ヶ月。
しかもその翌日から今まで通りの彼女を見て、私の告白はうやむやにされたのだろうかと考え始めて3ヶ月。
3ヶ月が経った。
一向に返事がもらえる様子もなく、ただひたすら『いつも通り』『今まで通り』を心がけて過ごしてきた。
でもさすがに不安になってきた。
彼女はいつもふわーっと…言い方を変えれば『眠たそう』にしてて、何を考えてるのかわからない。
いつも教室の窓から外を眺めて、授業が始まった時だけ前を向いて授業を受ける。
友達だっているけど、あんまりしゃべらずに時々小さく笑うだけ。
そんな彼女を見てると、気がつくと気になってしまっていたのだ。
『横顔がキレイ』
最初に思ったのはそんなことだった。
窓の外を眺めているのを見てるのが好きだった。
でもそんなある日。
「いつも私のこと見てない?」
いつもの無感動で眠たそうな目をした彼女が私に言った。
その言葉を聞いた私は頬が赤くなるのを感じた。
気づかれてるとは思わなかった。
「えっと…いっつも外見てるから、何見てるのかなぁって思って…」
「ふーん」
それだけ言って彼女は去っていった。
私はポカンとしたままその場に立ち尽くしていた。
その後も彼女は、私に対して何をするでもなく、ただ外を見ているだけだった。
そんな彼女に気づかれているのだが、それでも私は彼女から目が離せなくなっていた。
彼女が何を考えているのかわからない。
それが逆に私の彼女への想いを加速させていった。
私は彼女が考えていることを想像しては頬を赤くすることも少なくなかった。
それが何日も続き、ある日の放課後。
掃除当番で、たまたま玄関で一緒になった日だった。
私は勇気をだして彼女に声をかけた。
「い、一緒に帰らない?」
「ん」
彼女は小さく頷いた。
そしてその帰り道の途中で私は彼女への想いを告げた。
「わ、私、あっ、あなたのことが好きです! 」
彼女は私のことをいつもの目でじっと見つめた。
「ちょっと考えさせて」
それから3ヶ月はドキドキの毎日だった。
外を見ている彼女に告白した次の日も、彼女は外を見ているだけだった。
友達が来たらちょっと笑うし、授業もキチンと受けていた。
私は夢だったのかとも思ったが、そんな彼女が時々私のことをチラリと見るときがあるのだ。
もちろん私は彼女を見ているわけで、そうすると目が合うわけで…
そんなことが3ヶ月も続いた。
私はついに限界を感じた。
「ウチ来ない?」
彼女を勢いで家にお招きしたのだ。
別にやましい意味じゃなく、ただ二人きりでゆっくり話がしたかったのだ。
「ん」
帰り道を歩いている彼女の背中に声をかけたら、彼女はまた小さく頷いてくれた。
そして彼女は今、ベッドに座っている私の隣で、さっきおせんべいと一緒に持ってきた玄米茶をズズズとすすっている。
私はおせんべいを食べながら待ち、彼女が一息ついたところを見計らって、おせんべいを置いてから声をかける。
「その、今日家に呼んだのにはわけがあって…」
「わけ?」
首を傾げる彼女。
私は、彼女が告白のことなどすっかり忘れているということに気がついた。
あの努力はいずこへ…
私はため息をついた。
「ちょっと動かないで」
そう言うと彼女は、私の顔へと手を伸ばしてきた。
えっ? ちょっと待って…心の準備が…
私は目をつむり、からだを強ばらせた。
すると彼女の手が私の顔にチョンと触れて、また離れていくのを感じた。
恐る恐る目を開いた私が見たのは、いつもの眼差しで私を見ている彼女だった。
「おせんべいの食べかすついてた」
「えっ?」
私はすごいマヌケな顔をしていると思う。
変な想像をしていた私がバカみたい。
「フフ。ちっちゃい子みたい」
そう言って彼女は小さく笑った。
わずかに口角が上がった彼女の笑顔に、私の心は大きく揺れ動いた。
でも一度告白をうやむやにされて、しかも忘れられているとなれば、また告白するのは気まずい。また忘れられるのが怖い。
でもでも…
「どうかしたの?」
私の表情が曇ったのを感じたのか、彼女がそう言う。
なんて返せばいいのか分からずに黙ってしまう。
そしてふと思う。
「なんで?」
思わず声が出ていた。
どうして私の表情が曇ったことに気がついたのか。
いつも彼女の周りにいる友達ならともかく、ただのクラスメイトでしかない私の表情に気がつくなんて。
「なんかいつもの顔よりは悲しそうな顔だった」
「…いつもの?」
「ん。好きって言われた時から、気になってた」
ちょっとよくわからない。
いつもの表情でそんなことを言われても夢としか思えなかった。
「見たらいっつも目が合って、なんか気になってた。外も気になるけど、見られてるなって思うとそっちも気になった」
つまり?
「好きなのかなって思った」
「好き…」
「ん。今日こうやって家に呼ばれて嬉しい」
いつもの顔でそう言う彼女のことはよくわからない。
ホントに嬉しいのかどうかもわからない。
でも私の顔は彼女の言葉を聞いて熱くなっていった。
「顔、赤いよ?」
彼女の顔が近づいてくる。
私はその彼女の唇に自分の唇を当てに行った。
文字通り当たった。歯が。
「いて」
お互いの前歯がカチンと当たり、彼女から声が漏れた。
なんでこうなるの?
私のファーストキスは彼女の歯だった。というか失敗だった。
「今の何?」
不思議そうに歯を押さえた彼女が言う。
「…キスしに行こうとした結果です」
「ふーん」
歯を抑えていた指を唇に移して、自分の唇をプニプニと触る彼女。
「キスしたいの?」
私は声にできず、俯いて頷く。
「ほら。顔上げて」
そう言われて顔を上げると、彼女の顔がゆっくりと近づいてきて、唇が重なり合う。
そしてゆっくりと離れる。
私の心臓はバクバクしていて、彼女に聞かれていないか心配だった。
「どうだった?」
キスをした直後なのに、何事もなかったようなかのような顔でそう言う彼女。
「…もう一回したい」
「もう一回?」
私はそう言って彼女に近づいて、今度は私からキスをした。
今度は歯と歯がぶつからないように気をつけた。
しかし勢いがあったせいか、キスをしたまま彼女がバランスを崩し、後ろに倒れていってしまい、私が彼女に覆いかぶさるような形になってしまった。
私が彼女から慌てて離れようとすると、彼女は私の背中に腕を回して、キスを続けた。
長いキスが終わり唇を離すと、暑い息が漏れた。
そして下になっている彼女が私を見て言った。
「好き」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
今回はマイペースで何考えてるかわかんない子に恋をしたお話でした。
なんか猫みたいですねw
ついに『放課後の百合霊さん』を注文してしまいました。
最高峰の百合ゲーとして評判が高いので、すごい楽しみです。
小説を書くか、ゲームをやるか迷う日々が続きそうです。