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酸っぱい恋  作者: シュウ
短編
14/19

化学室の匂い

窓の外から帰宅していく生徒たちを見ながら呟いた。


「最近の子って何考えてるかわからないのよねぇ」

「教師になって何年目さ」

「いくつになっても何年経ってもわからないことは山積みよ」


私は、隣で課題のプリントをこなしている彼女が好きだ。

でも彼女は生徒。私は教師。禁断の恋というやつだろうか。


「先生。ここわかんない」

「・・・そこは教科書にも書いてたでしょ。見ていいから自分で考えなさい」

「はーい」


言われるがままに教科書をめくる彼女。

私はこの子のどこが好きなのか。

肩口までの綺麗な黒い髪?

大きいのに節目がちな目?

細長い指がそろっている綺麗な手?

白くて細い足?

落ち着いてるところ?

サバサバしてるところ?

考えてもわからない。

でもこうやってわざわざ私のところに来て、わからないところを聞きながら課題をこなしている、放課後のこの時間はすごい好き。

彼女と同じ空間にいるからかもしれない。

化学室に2人きりというのがドキドキするのかもしれない。

他の教室とは違って、いろんな薬品の混ざり合った匂いが、私は昔から好きだった。

大学に入り、化学の教師を目指したのはそんな理由だった気がする。

昔から鼻が良くて、小学校の卒業式では、キツイ香水の匂いで気持ち悪くなっていた。

そして彼女からはシャンプーの匂いなのか、とても良い匂いがする。

やだっ。なんか犬みたい。


「ふふっ」

「・・・何? 急に笑い出しちゃって」

「ちょっとね。終わった?」

「はぁ。終わった」


彼女は短く息を吐いた。

『やっと終わった』っていうよりも『終わってしまった』というような短いため息。

もしかすると、彼女も私と過ごしているこの時間が好きなのかもしれない。

そうじゃなければ課題が提出される度に、こうして放課後の貴重な時間を削ってまで私のところに来るはずもないか。


「はい。お疲れ様」

「疲れてませんけどねー」

「疲れてないの?」

「ここに来ると疲れなんて気にならないもん」

「化学室は万能ねー」

「白衣を着た綺麗な先生もいるしね」

「そんなこと言っても何も出ないわよ」

「出なくたって、先生がいればここに来た意味があるってもんよ」


こっちの気も知らないで。

私は少し嬉しかった気持ちを隠しながら言った。


「ほら。終わったなら帰りなさい。私もまだ仕事が残ってるのよ」

「先生はさ、どうして仕事が残ってるのに私の面倒みてくれるの?」

「それは生徒からこうやって自主的に来てるんだもん。断れないわ」

「じゃあ自主的に来られるのと、呼び出して来させるのなら、どっちが好き?」

「それって、好き嫌いの問題?」

「どっち?」


椅子に座ったまままっすぐに、立っている私を見てくる。

その視線にドキッとしながら私は答える。


「・・・自主的に来てくれる方が嬉しいわ」

「じゃあ私のことは好き?」

「えっ?」

「好き?」


そう言って立ち上がり、私を見つめる彼女。

私はその視線から思わず逃げてしまう。

これは生徒として褒めて欲しいってことよね?


「そ、それは好きよ。ここまで自主的に教えてもらおうとする生徒は珍しいもの」

「私は先生が好き」


その言葉に驚き、彼女を見る。

いつもよりも赤くなった顔がそこにはあった。


「白衣を着てる先生が好き。職員室で先生の名前を呼ぶたびにドキドキする」

「ちょ、ちょっと待って」

「やだ、待たない。こうやって2人きりになって勉強を教えてもらえる時間がすごい好き。ずっと続けばいいのにって思う。だから課題が終わるといつも帰るのが嫌になる」


彼女は時々目をそらしながら胸を押さえたり、さらに赤くなったりしながら話した。

どれだけ私のことが好きかを話した。

私も彼女につられて顔が赤くなっていくのがわかった。


「先生。顔赤いよ」

「えっ? こ、これは、その、夕日で・・・」


彼女の手が私の頬に触れた。

触られた部分が妙に熱かった。そして手首辺りからいい匂いがして、さらに熱くなっていくのがわかった。

そして目を離せなくなった彼女の顔が近づいてきた。

私の唇に、彼女の唇が重なり合った。

そしてゆっくりと一呼吸分重ね合わせると、ゆっくりと離れていく。

その彼女の唇が動く。


「私のこと好き?」

前から書いてみたかった『生徒×先生』です。

逆でもいいんですけど、こっちのほうが好きなのでこうなっちゃいました。

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