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酸っぱい恋  作者: シュウ
短編
13/19

寒さとカイロ

「寒い寒い寒い寒い!」

「そんなに寒いって言ってると寒くなるよ? 寒いと思う心がからだを冷ましてるんじゃない?」

「そんなんで寒くなるなら、暖かいって考えて今頃は汗だくになれるよ!」


隣を歩く女の子は、私の幼馴染みのエミちゃん。

冬といえば、雪とかイルミネーションとかを連想するんだけど、エミちゃんはずっと寒い寒いと言っていて、『冬=寒い』以外は考えられないのでは?と思うほどだった。

エミちゃんは


『私は冷え性なんだよ? わかる? この冬という季節にこたつに入っても全然暖まれないこの悔しさ』


とよく言っている。

私も寒いのが好きなわけじゃないから、いつもカイロをポケットに入れているのだが、なんの対策もしていないエミちゃんにも非はある。


「超寒いんですけどー!」

「楽しそうだねー」

「なんでリエはそんなにあったかそうなの!?」

「私にはカイロがあるもんねー」

「この裏切り者ー!」


そう言って肩でぶつかってくるエミちゃん。

お互いにダッフルコートを着ているから、当たっても痛くはない。

その時にエミちゃんからふわっと香るシャンプーの香りに、ちょっとドキッとしてしまう。

私もシャンプーで髪を洗っているはずなのに、エミちゃんみたいにふわっとした香りは漂ってこない。自分だと気づかないだけなのかもしれないけど、それでもエミちゃんの時々漂ってくる香りが私は好きだ。


「私にもカイロちょうだいよ」

「一個しかないからダメ」

「じゃあこうしてやる!」

「ちょ、ちょっと」


エミちゃんの手が私のコートのポケットに侵入してきた。

エミちゃんは私のカイロ目当てで手を突っ込んできたのだろうけど、エミちゃんの手の感触に、私はドギマギしてしまう。

半年くらい前からエミちゃんのことを意識して以来、あんまり触れないようにしてきた。ちょっと触れるだけで心臓が大きく動くのだ。

そんなポケットの中で、エミちゃんの手が私の手ごとつかんでくる。


「うはー。あったかいわー」

「カ、カイロならあげるから手出してよー」

「なんで? そしたらリエが寒いじゃん。このままでいいよ」

「だってその・・・歩きにくいし」

「じゃあ止まろ」


そう言って足を止めるエミちゃん。キョロキョロとまわりを見回して、近くにあった公園のベンチに向かって歩いていってしまい、私は引っ張られる形でエミちゃんについて行った。

ドカッとベンチに座り、私もその隣に座る。

座るなりエミちゃんが私にくっついてくる。


「エ、エミちゃん!?」

「はぁ・・・リエはあったかいなぁ・・・」

「コート越しでもあったかいのわかるの?」

「わかるよぉ。リエはあったかいよ」


ホントにあったかそうに目を閉じながら、私のからだに身を寄せるエミちゃん。

またシャンプーの香りが漂ってきて、私の鼻腔は激しくくすぐられた。


「今、手がギュッてなった」

「えっ!? そんなことないよ!?」

「そんなことあるよー。だって私のリエだよ? 私がわからないはずがないじゃん」

「何言ってるんだか・・・」


口ではそう言いながらも、また手がギュッとならないように気をつけながら、目をそらした。

時々エミちゃんはこういう言い回しをする。そのたびに私は勘違いをしてしまう。

そういう意味じゃないのに、私の心はドキドキしてしまうのをやめられない。


「リエのマフラーもあったかそう・・・」

「えっ!? こ、これはさすがにダメだよ?」


マフラーまで取られたら、さすがに寒い。カイロでどうこうなる問題ではなくなってしまう。


「そのマフラーも借りていいですか?」

「ダメです」

「ケチー」

「ケチじゃないよ。エミちゃんだって自分のマフラーあるでしょ」

「リエのはあったかそうに見えるんだもん」

「マフラーなんて同じでしょ」

「じぃー・・・」


口で言いながら私のマフラーに狙いを定める。

これはマズイ・・・

するとエミちゃんの空いている手がマフラーに伸びてきて、奪い取ろうとしてきた。

私も空いている手で応戦したのだが、出だしが早かったエミちゃんに追いつくことができず、マフラーをがしっとつかまれてしまう。


「捕まえたぞー」

「離してー」

「嫌だね」

「なんでさ」

「だって最近リエってば私に冷たいんだもん」


冷たい? 私が?


「冷たい、かな?」

「そうだよ。前だったらもっと手とか握っても何も言わなかったのに、最近は手すら触らせてくれないよねー。さすがの私もショックだわー」

「ご、ごめん・・・」


まさかそんなふうに思われていたとは。私としては恥ずかしくて触ることができなかっただけなんだけど、それをエミちゃんからしてみれば『冷たい』と判断してしまうわけか。


「私のこと嫌いになった?」

「そ、そんなことないよ! エミちゃんのこと大好きだよ!」


自分で大好きとか言ってしまって、恥ずかしくなる。


「ホント?」

「ホント!」

「じゃあなんか証明できるの?」

「しょ、証明!?」


もう私の頭はパニック寸前だった。

だから私がこのあとエミちゃんの唇にキスをしたのだって、頭が回っていなかった原因なんだと思う。

もちろんエミちゃんは驚いていた。私も驚いた。


「えっ、いや、そのー、これはですね、えーっと・・・」


慌てて言い訳をしようと試みる私。でも言葉が上手く出てこない。


「・・・ビックリしたー」


エミちゃんは自分の唇を触りながら言った。


「私はそういう意味で言ったんじゃないんだけど?」

「・・・ごめんなさい」


急に罪悪感がふつふつと湧き上がってきた。

私は取り返しのつかないことをしてしまったのだ。

もう嫌われても仕方ないよね・・・そう思った。


「いやーまさかリエが私のことをそういう目で見てたとはねー」


ニヤニヤしながらエミちゃんが言う。


「リエは私とどうなりたいの? 付き合いたいの?」

「付き合いたいってゆーか・・・ただ好きっていうだけで・・・」

「恋愛感情で?」

「・・・はい」


恥ずかしい! 

改めて口に出すと恥ずかしくなってきた。

もう頭の中は今後のこととかも考えちゃって、グチャグチャになっていた。


「じゃあちゃんと告白して」

「こ、告白、ですか?」

「うん」


も、もうこうなりゃヤケだ!


「すー・・・はー・・・よしっ」


私は深呼吸をして覚悟を決めた。


「わ、私はエミちゃんが好きです!」


生まれて初めて告白をした。

その相手が女の子になろうとは、誰が予想したであろうか。

このまま振られたらどうしようかな・・・

私の言葉を聞いたエミちゃんが、頬を弛めて笑った。


「えへへ。やっぱり照れるね」


そう言って、エミちゃんはオホンと咳払いを一つして私を見た。


「えーと、驚いたんだけど、なんて言えばいいのかな・・・」


頭をポリポリとかくエミちゃん。


「私もリエのことは好き、だ」

「好き・・・」

「これで私達って、恋人同士になるのかな?」

「そう・・・なるのかな? わかんないや」


もうエミちゃんの言ってる意味がうまく理解できなかった。

ただ事実だけを理解しようと努力したのだが、エミちゃんが言った『好き』っていう言葉を理解するのでいっぱいいっぱいだった。


「リエ? 大丈夫?」

「いや、ビックリしててちょっとよくわかんない、かな」


エミちゃんが私の顔をのぞき込んでくる。

その顔に少しドキッとしたのは言うまでもない。だって顔が近いんだもん。

するとその顔がフッと近づいてきて、私の唇に温かいものが触れた。

そしてエミちゃんの顔が離れて、赤くなった顔で微笑んでいた。


「へへへ。キスって緊張するね」

「・・・へっ?」

「そんな変な声出さないでよー。こっちまで恥ずかしくなるじゃん」

「あ、ごめん」

「へへへ」


エミちゃんが隣に座り直して、ポケットに入れた手をギュッと握った。

私はボーッとしていた頭を横に振ってリセットさせると、ポケットの中にあるエミちゃんの手の感触を感じた。

そして両思いになれたということを改めて認識した。

私に寄りかかっているエミちゃんの重みを感じながら、エミちゃんに改めて言った。


「わ、私、エミちゃんのこと好きだよ」

「えへへ。私もリエのこと好きー」


頭を猫みたいにスリスリさせてくるエミちゃんにキュンとしながら、ポケットの中のカイロの温かみを二人で分けあった。

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