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酸っぱい恋  作者: シュウ
檸檬編
10/19

れもんとくるみ

私たち3年生が受験のためにバスケ部を引退することになった。

最後の練習の日、3年対1・2年の合同チームでの試合もした。

結果は、私の活躍・・・とは言わないけど、3年の勝利で締めくくった。もしかしたら1・2年が花を持たせてくれたのかもしれない。

日を改めて送別会を行うということで、その日はこれで解散となった。

私は一人で駅までの道のりを歩いてこのバスケ部で過ごしてきた3年間を振り返っていた。

入部当初から始まり、はじめての公式戦、はじめての敗北、悔し涙した試合、キツイ練習、放課後の居残り練習、公式戦初優勝などなど、思い出せる物は全て思い出しながら余韻に浸っていた。


「懐かしいなぁ・・・」


そして3年生になってから、大会で優勝したということもあって、たくさんの後輩が入ってきて・・・

そこで1年生の中にまるっきり素人な子がいた。もちろんくるみだ。

この最後の半年は、ほとんどをくるみと過ごしてきたように思えた。

くるみとは、あのキスの一件があってからは、まともに話せていなかった。

私がくるみと向き合うのが怖かったっていうのもあるけど、くるみ自身も私のことを避けているようで、部活以外で合うことはなかった。


「もう一ヶ月近く話してないなぁ・・・」


口に出すとさらに話していないという事実が浮かび上がってきてしまい、くるみのこと以外は頭から消え去ってしまっていた。

私はくるみのことが好きなのだろうか?

あの日から考えていたことだけど、よくわからなかった。

男女間の問題なら『あの人だったら付き合ってみてもいいかな』なんて風に考えれるんだろうけど、あいてが女の子だとどうしてもよくわからなくなってしまう。

そりゃ話しかけられなくてさみしいかなぁとは思うけど、だからと言って自分から話しかけに行くのはなんか違う気がした。


「くるみに会いたいなぁ」


バスケ部を引退したらますます会う機会が減るから、今日こそはと思ってたんだけど、くるみはいつの間にか居なくなっていたので、結局いつも通り帰ってきてしまった。

我ながらなんともまぁ情けない。


「冷たっ・・・えっ、雨!? ちょっと待ってよぉー!!」


そんな私の心に雨を降らせる代わりに、物理的に濡らしてやろうという神様の企みで、ものすごい勢いで雨が降ってきた。

近くにあったバスの待合所に駆け込んだ。


「あぁ、ツイてないなぁ・・・」


ジャージもびちゃびちゃだし。制服を来てなかったのが不幸中の幸いだった。


「えっ? れもん?」


ジャージについた水滴を払っている私に、素っ頓狂な声が横から聞こえた。

そっちを見ると、同じようにジャージ姿で頭を濡らしたくるみがベンチに座っていた。

くるみは目を丸くして驚いているようだった。

今、私はすごいまぬけな顔をしていると思う。だってすごい驚いているんだもん。まさに恵みの雨だよ。使い方は違うんだろうけど。


「な、なんでこんなとこにいるの?」

「その・・・雨が降ってきたから、ここまで戻ってきたんです」

「そ、そうなんだ。隣座ってもいい?」


こくんと頷くくるみ。

嫌われてないということにちょっとホッとしながら、一人分のスペースを開けて同じベンチに座る。

部活で持ってきていたタオルで頭をガシガシと拭いて、そのままタオルを頭の上にかぶせたままくるみのほうを見た。

前をジッと見つめたまま緊張したように固まっていた。

ふと頭を見ると、髪から水滴が滴っていた。


「くるみ」

「は、はいっ!」


急に話しかけられたもんだから、飛び上がるかのような勢いでこちらを向いた。

こんなに焦ってるくるみは珍しいな。なんか面白い。


「髪、拭かないの? 風邪引いちゃうよ?」

「タオル、部室に忘れてきちゃって・・・」


そういうことか。

頭にかぶせていたタオルを取って、くるみのほうへと差し出した。


「私ので良ければ貸すけど」

「そんな! れもんのタオルなんて借りれませんよ!」

「でも風邪引かれたら私も困るし」

「・・・じゃあお借りします」


渋々といった感じで私からタオルを受け取ると、一瞬だけタオルを見つめて、ゆっくりと顔に当てた。

そのまま顔、頭、腕と濡れていた部分を拭いた。

そして私にタオルを渡して、また前を向いて固まってしまった。

・・・なんとも居づらい。


「あ、あの、こ、この前のことなんですけど、気にしてますかっ?」


そう思っていると、くるみが口を開いた。


「・・・気にしてる」

「そ、そうですよね・・・」


そしてまた訪れる沈黙。

かと思ったが、くるみが続けた。


「実は私、あの試合の前にれもんが知らない女の子と話してるのを見てやきもち焼いてたんです」

「やきもち?」

「はい。で、そのあとにれもんにぎゅーってされて、嬉しいのやら悔しいのやらよくわからなくて、負けたくないっていう気持ちだけで試合に出たんです。そしたら勝てて、れもんがご褒美くれるって言うから、調子に乗ってキスしてなんて言っちゃって・・・」


くるみの顔が赤くなって、モジモジと動き出した。


「そのまま告白とかしちゃった訳ですけど。その時は当たって砕けろ的な感じだったので、振られても良いかなとも思ってたんです。でもあの日かられもんに会うのがなんか気まずくて。明日声かけよう、明日声かけようと思ってたんですけど、それが何日も続くと取り返しがつかなくなっちゃって・・・」


だんだんとくるみの顔が泣き顔へと変わっていった。

声も心無しか震えているようにも思えた。


「それで、今日も先輩たちには悪いとは思ったんですが、れもんと顔合わせづらくて、部活が終わってすぐに帰ろうとしたんですけど、結局ここでれもんに会っちゃって・・・」


エヘヘとくるみは笑ったけど、無理矢理作った笑顔を貼り付けているだけだった。


「なんかこんな話しちゃってすみません」

「あ、いや、こっちこそごめんね」

「れもんが謝ることなんてないんですよ。私が勝手にやって勝手に落ち込んでただけなんですから」


この子には人の気持ちを考えるという言葉は存在しないのだろうか?

どれだけ私が悩んだ事か。どれだけ私がくるみの泣いた顔を思い浮かべては悲しい気持ちになったことか。避けられ続けてどれだけ落ち込んだことか。パソコンで同性愛についても調べたことか。まぁ調べてもよくわかんなかったけど。


「そんなのくるみの勝手だ」

「えっ?」


思わず声に出してしまった。

こうなったら言うしかない!

私は立ち上がって座っているくるみを見ながら言った。


「くるみはずるいよ。私がどんな気持ちであの日から今日まで過ごしてきたと思ってるのさ。私だって一応人間なんだから、くるみにあんなこと言われて気にならないわけ無いじゃん。くるみからあからさまに避けられても平気なわけ無いじゃん」


私は勢いで話していたけど、恥ずかしくなってきて手の甲で口元を隠しながら話した。


「もっと私の気持ちも考えてよ」


私は口に出してから思った。

『これじゃ告白みたいじゃん』と。

好きかどうかはわからないけど、私はくるみに避けられたり、くるみが泣きそうな顔は見たくないと思った。

これが恋ってことなのかなぁ?


「えっと・・・」

「あっ! だからその・・・」


プップー!

なんて言えば良いかわからなくなったときに、いつの間にか横に来ていたバスがクラクションを鳴らしていた。

どうやら私が乗るのかどうかを聞いているみたいだ。

私は乗らない意思を伝えるために、ベンチに腰を下ろした。

バスはドアを閉めて走っていった。

はぁ。なんか色々と言いのがしてしまった気がする。


「れもん」


横を見ると、くるみがこちらを見ていた。

もう泣きそうな顔じゃなくて、いつもの可愛らしい笑顔だった。

この顔見ると落ち着くなぁ。


「なに?」

「私、やっぱりれもんが好きです。別に付き合いたいとかそう思ってるわけじゃなくて、ただ知っておいて欲しいんです」


この言葉に私の気持ちが揺れ動いた。

前に聞いたときは、動揺したこと以外は何も感じなかったけど、今はとてもくるみのことを愛おしいと思った。


「くるみ。こっちおいで」


自分の横をポンポンと叩いて、くるみを近くに寄せた。

そしてくるみの手を握った。

くるみは少し驚いたようだったが、きっと真っ赤になっているであろう私の顔を見て、それが答えであるということを察してくれた。

そのまま二人で手を繋ぎながら、バスの待合所で雨が止むのを待った。


「あぁ・・・恥ずかし・・・」


このまま降っていてほしいのやら、さっさと止んで二人で歩いて帰りたいのやら。

とりあえずは今のこの時間を満喫しようと、握っている手に意識を集中させた。

雨はそのまま降り続いていたが、私の心には晴れ間が差し込んでいた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

感想とか書いていただけると大変嬉しいです。


これで一応檸檬編は終了です。

次はもう一話だけ檸檬編の番外編をちょろっと書いて、夏編が始まります。


というわけで次回もお楽しみに!

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