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第7章 都市再整備 再整備篇(その3)

すいません、少し遅くなりました。

 数日後、シレンティウム行政府


 アダマンティウスから送られてきた早馬により、ハルはシレンティウムの戦いが帝国の政治方針に大きな影響を与えてしまったことを知る。

 自分が北方最強の軍を破ったことで、北からの軍事的圧力が減退し、帝国の軍事力に余力を生んでしまったのだ。


 その結果が、南方大遠征の帝国令である。


 帝国は皇帝マグヌスの名前で国家方針として南方大陸進出を掲げ、その兵力動員と物資集積に入った。

 幸い、新領にもなっていない北方辺境は動員命令から除外されたが、ハルは直ぐにシレンティウムの主立った者達を集めると、早馬の伝達してきた内容を示達し、今後の対策を練る為に協議することにした。


「辺境護民官殿が、州総督の権限を与えられるとどうなるんだ?」


『州総督権限はかなり強い。徴税権、州総督府の編成と州総督府官吏の任命権、治安維持の為の部隊編成権が主なものであるな。それ以外にも非常時の物資徴発権限や軍指揮権もある。』


 帝国の行政制度に疎いレイシンクが質問し、それにアルトリウスが答えた。

 権限に曖昧な部分の多い辺境護民官より、州総督の方が権限の範囲は明確であるものの、今回ハルは州総督に任命されたのでは無く、その権限のみを付与するという更に曖昧なもので、帝国内で主導権争いがあったことは容易に知れたが、与えられた方はその曖昧さに苦笑せざるを得ない。


 とりあえずは州総督権限を持った辺境護民官、といったところであろうか。

 ただ、今回の問題はそれだけでは無い。


「帝国も思い切ったことをしますな・・・いくら辺境護民官殿が実力を示したとは言え、北方辺境北東部の守備全体を委任するとは・・・」


 アルキアンドは、ハルから説明された軍団新設の許可に加え、北東管区国境の防衛全てを任せるという命令内容にうなり声を上げる。

 今回の戦いで敵対的なクリフォナム人はほぼ北方へと追いやられ、南方諸族はおおむね帝国とその代表者であるハルに好意的である事は間違いないが、それでもまだ去就の定まらないクリフォナムの諸族も多くおり、その状態で帝国北方辺境から大幅に軍を引き抜くというのは大胆に過ぎる。

 友好部族であるアルキアンドですら帝国の決断には不安を覚えてしまうほどであった。


『うむ、軍団再建と新設の許可とはよく言ったものであるな。実態は自分で兵を養い、国境を守れと言うに等しい命令である・・・まあ、軍団編成については案もあるが、一体帝国はどうしてしまったのであるか・・・』


 アルトリウスもその不用心さに呆れかえって言うが、ハルは少し考えた後、静かな口調で言葉を発した。


「いずれにせよ、この命令が意味するところは1つです。帝国の目は北方に向いていません。もちろん、私たちの動向を気にしている勢力はいるでしょうが、帝国としての関心は専ら南方に移ったようです。差し当たって帝国から何らかの掣肘が加えられることは無いと思いますから、これは好機と考えるべきでしょう。」


「それは間違いありません。どんなに他の地が逼迫した情勢になっても、今まで帝国が北方辺境を蔑ろにしたことは有りませんでしたから。アルフォード王の存在は帝国にとっても大きなものだったと言うことです。」


元ボレウス隊副隊長、現シレンティウム守備隊長のクイントゥスがハルの言葉に頷きながら言った。


『戦争準備と一言で言うであるが、その実態はなかなか大変である。しかも今回は遠く海で隔てられた南方大陸へ向かうのであるから、いかな群島嶼という足掛りがあるとは言えども、おいそれと準備が終わるとは思えん。この北方辺境北東部から兵を移動させるだけでも大仕事であるから、おそらく全体では3年や4年はかかるであろう。これは帝国にとっても一大事業なのであるからな。』


 かつて南方の砦に勤務したことのあるアルトリウスは、そう言い、周囲の反応を確かめつつ言葉を継ぐ。


『しかも、相手は南方の剽悍な部族戦士達である、一筋縄ではいかん。おそらく戦争は長引くのである。』


「時間は結構稼げそうですね・・・」


『うむ、間違いない。帝国兵の血と汗によって贖われる時間である事が心苦しいが、シレンティウムはこの隙に成長を遂げる事が出来よう。』


 ハルの言動に小さく笑みを浮かべ、アルトリウスが答えた。





「貰う予定の金は戦死遺族に渡したいと思います。金はそれでも余るでしょうが、それは戦功の有った戦士や兵士に報償として渡しますので。」


続いてのハルの言葉に、その場にいた全員が頷く。

シレンティウム籠城戦での犠牲者はそれ程多くは無かったが、いない訳ではない。

 少ないながらも戦死者は存在しており、ハルは仕事の斡旋と併せて遺族に手当を給付していたが、今回下賜される金を給付に充てる事に決めた。


 犠牲者の数はそれでも、この規模の戦いにしては極めて少なく、寡婦となってしまった者は、プリミアの差配する旅館の従業員として雇うことになっており、母子家庭となった者達は太陽神殿で運営する薬事院の事務や薬師として雇うことが決まっている。


「そして、軍団の編成ですか・・・」


『それについては先程言ったとおり、素案があるが聞いて貰えるであるか?』


「お願いします。」


 アルトリウスの言葉を受けて、ハルは先を促す。


『基本的に軍団兵はクリフォナムとオランの民から募ることとしたいのである。』


「退役兵はどうしますか?」


『うむ、教官として訓練担当をやって貰う。後は特殊工兵として雇うのみにしようかと考えているのである。』


 帝国兵が持つ建設能力はさすがに無学なクリフォナム人に求めることは出来ないので、その点については体力のある退役兵を特殊工兵として組み込むことで補うというのがアルトリウスの提案である。

 アルトリウスは兵士はクリフォナム人やオラン人から募り、装備は帝国の物を使うという自分の構想について徐に説明を始めた。


『帝国兵は4段横列であるが、耐久力の無いクリフォナム人部隊は6段横列にして、交代を早める。また部隊幅はその分縮め、帝国軍より部隊配置を増やすのである。』


 大柄で力の強いクリフォナム人は一時的な爆発力や攻撃力に優れるが、耐久力に劣り、粘り強さに欠ける。

 ただ、戦法によってこの欠点や長所は自在に出来るので、帝国の戦法をクリフォナム人に合わせて改良するというのである。


『クリフォナム人は帝国人より膂力に優れておる故に、長剣を使う者が多いのであるが、大盾との兼ね合いがあるので、従来より少し縮めた長剣を持たせるのである。鎧兜は帝国製のものを身体に合わせて改良するが、盾は帝国と同じ形状の物を使う。』


 アルトリウスが自分の前で手をかざしてその長さを示したが、帝国兵が使う剣よりは長く、クリフォナム人が使っている長剣よりは短い。

 武器防具の製作技術やそれらに使われる金属の鍛造、精錬技術は帝国の方が遙かに上である為、装備は帝国の鎧兜と武器を使うが、もちろん、これもクリフォナム人に合わせた武器を製作する必要がある。

 幸い、アルトリウスがため込んでいた鎧兜は旧式ではあるものの、フリーサイズが売りの帝国製の鎧兜であるので直ぐにでも転用が可能であり、大盾の形状は古来より変わっていない。

 剣や槍については新たに製作しなければならないが、クリフォナム人は自分の武器を持っている者も多く、差し当たってはその自前の武器を使わせれば良いだろう。


「アルフォード英雄王を破った新たな北の英雄に従いたいという自由戦士達も多数集まっていますから、兵士の補充には苦労しませんが・・・果たして帝国風の訓練と戦法にクリフォナム人が従いますか?」


 クイントゥスが質問すると、アルトリウスはにやりと笑って答え、更にハルへと声をかけた。


『それはこちらの腕の見せ所である!・・・・で、どうであるか?』


「帝国の戦法を使う、クリフォナム人の軍団ですね・・・やりましょう。」




 シレンティウム市内、第二十一軍団駐屯地闘技場


 軍団基地に併設された闘技場は、ハルとアルトリウスが剣を交えた頃とは比べものにならない程充実しており、現在は帝国兵や戦士達が入り交じって訓練を行う場所として使われている。

 そこに集まっているのは帝国兵20名に、ベリウス率いるオラン戦士20名、更にはクリフォナム人の自由戦士達が40名程である。


 また、それとは別にアルマール族のルーダが率いるアルマール族から集めた戦士達がいる。

 こちらは帝国風の鎧兜に大盾を持ち、剣だけは自前の長剣を装備しているという、少し変わった出で立ちであった。


「やはり帝国風の戦法や戦い方は我々に馴染まないというのが意見だ。」


 シオネウスの戦士長ベリウスが冷たく告げると、アルトリウスは片眉を上げ、挑戦的な視線を向けるベリウスを見返して口を開いた。


『ほう・・・お主達は今のままでも十分強いと、そういうわけであるな?』


「そうだ、やり方を変える必要は無い。」


『ではこうしようではないか。今より2度程戦ってみるである。それで我らが圧勝、あくまで圧勝すれば、我らの軍法に従うというのではどうか?』


 圧勝という言葉に力を込めて言うアルトリウスに、ベリウスは少しばかり気色ばんで言葉を返した。


「良いだろう。どういうやり方をするのだ?」


『一度目は帝国兵20人とお主ら20人。2度目はクリフォナム人の帝国戦法を身に付けた者20人とクリフォナムの自由戦士ら20人でどうか?』


「わかった。」


それぞれの武器に模した木剣が用意されて配られ、ベリウスとアルトリウスが左右に居並んだところで模擬戦闘が開始されることになった。




緒戦開始と同時に帝国兵は素早く4列横隊を作り、大盾を構えたのに対し、ベリウスはオラン人の定法通り、雄叫びを上げ、長剣を振りかざして帝国兵の戦列へ躍りかかった。


 たちまちもみ合いになる帝国兵とオラン戦士達。


 激しくオラン戦士の長剣が帝国兵の盾を討ち叩き、がんがんと乱打するが、固く盾を構えて守りに徹する帝国兵の戦列を破れずに息が上がってくる。

 すかさず帝国兵の最前列が盾を構えたままオラン戦士に体当たりをかけ、どかんというすさまじい音と共に最前列にいたオラン戦士達が大楯で殴られて怯むと、2列目にいた帝国兵が開かれた大楯の隙間から木剣でオラン戦士に斬りかかり、たちまち最前列のオラン戦士達は叩き伏せられてしまった。


オラン戦士が反撃しようとしたところで、3列目にいた帝国兵達が盾を構えて前に出た事でその糸口を失ってしまうが、先程の失敗を恐れて打ちかからない。

 そうしている内に帝国兵は盾を構えたままじりじりと戦士達に迫り、距離が詰まったところで帝国兵が突撃し、一気に勝負を付けてしまった。


『ふふん、どうであるか?』


「くそっ・・・!」


 アルトリウスの言を認める他ないくらいに負けてしまい、ベリウスは歯がみして悔しがった。

 同数なら引けは取らない、そう思っていたベリウスの自信が揺らぐ。

 今までは帝国の物量と兵数の差で負けていたと思っていたが、そうでは無い事が証明されてしまった。


『では、第2戦目といくであるか。双方油断するでないぞ!』





ルーダは自分が率いる帝国装備に身を固めたアルマール戦士達を先程の帝国兵達と同様に4列に並べたが、クリフォナムの自由戦士達が盾壁を崩そうと体当たりしてきたところを逆手に取った。


「第2列!剣を突き出せ!」


 第2列にいた戦士達が大楯の隙間から木剣を突き出したことで、自由戦士達が体当たりを躊躇した隙を逃さず、第1列と第2列に突撃を命じ、ルーダはそれと同時に第3列に盾を構える準備をするよう命じる。

 激しく打ち合った第1列と第2列の戦士達が退くのと同時にこれを追い越し、戦線の前に盾を並べた第3列に自由戦士達は勢いに任せて斬りかかるが、固く並べられた大楯に阻まれて、次第に攻め疲れて息を切らし始めた。


「第4列突撃!」


 ルーダはそう命令すると共に自分も飛び出し、疲れた自由戦士達を散々叩きのめし、更に残りの兵士達と主に最後の突撃をかけて勝敗を決した。




「ぐむっ・・・」


『お主らが弱い訳では無い、我らが優位に立っているのはあくまでも作戦の種類の多さとその使い方の巧さである。』


 2戦目はより惨憺たる結果に終わり、悔しそうに唇をかむベリウスに、アルトリウスは慰めるように言った。

 ルーダは大楯を構えるところまでは帝国兵と同じであったが、その後の反撃はクリフォナム人らしく苛烈で、自由戦士達は初撃以外は全く抗しきれずに敗退してしまったのである。

 帝国人からなる兵士と違い、同じクリフォナム人同士で体格や膂力にそれ程違いが無い為、より一層負けが際立ってしまった。

 戦士達は個の武勇を頼む余り継続的に戦闘に参加し過ぎて体力を切らし、帝国戦法の波状攻撃に耐えられなかったのである。

 アルトリウスは軍団志願者全員を集めてから、2回の模擬戦闘の結果について解説を加えた後に口を開いた。


『あくまでもシレンティウムの中核戦力である第二十一軍団と第二十三軍団の兵士に採用する者達はこの戦法を叩き込ませて貰うであるが、それ以外の補助部隊についてはお主ら従来の戦法による部隊を編成するので、どうしても馴染まぬ者はそちらへ回って貰うから心配はいらんのである。無理強いはしない、よく考えてから選ぶがよい!』


 アルトリウスの言葉にクリフォナム人やオラン人の戦士達は、そのほとんどが最終的には帝国風の戦法を身に付ける事を承諾したのであった。






 翌日早朝、シレンティウム行政府


 ハルは執務室でエルレイシアの治療を受けていた。


 本来であれば太陽神殿へ赴くところだが、状態もだいぶ良くなってきたのでもうそろそろ治療を打ち切ってしまおうと思い、日課になっていた朝の治療に行かなかったところ、ハルの来ないことに業を煮やしたエルレイシアが薬草を持って押しかけてきたのである。

 たまった書類仕事を片付けようとしていたハルは、自席であえなくエルレイシアに捕まり、上衣を剥がれ、椅子の背を右横にした状態で座らされて念入りな触診を受ける羽目になってしまった。

 一頻り関係ない所も含めてハルの身体を撫で回したエルレイシアは、満足そうな表情で口を開く。


「筋肉の動きもなめらかですし、随分と良くなってきています。でも、まだダメです。きちんと治療には通って下さい。」


「はい。」


 ぼつぼつと穴の跡が2つ残るハルの肩に自分の白く細い指を這わせ、その穴のふさがり具合と周囲の筋肉の動きを確かめつつエルレイシアが言うと、若干違和感が残っていることは事実なので、ハルは素直に返事をした。

 剣士らしく鍛え上げられたハルの身体は、背丈に比べれば厚みがあり、エルレイシアから見える背中や肩は、はっきりと盛り上がった筋肉が露わになっている。

 治療で動き回る為、今日のエルレイシアは長い金髪を結い留め、何時もの長衣では無く帝国風の半袖貫頭衣にズボンを身に着けた活動的な格好をしている。


「・・・」


「どうしたんですか?」


「・・・いえ、何もありませんよ?」


 執拗に肩や背中の筋肉の筋をなぞる指に、別の違和感を感じたハルが動かないまま尋ねると、エルレイシアは少しびっくりした様子で答える。


「・・・」


「い、いえ、何でもありません・・・もうちょっとだけ・・・」


 振り返ったハルの不信感いっぱいの視線にも、手を止めずエルレイシアが言うと、執務室の扉が大きく開かれた。


「ハル兄っ、朝の稽古を・・・って、何してるのっ!?」


 木刀を2本持って元気一杯に現われた楓の笑顔が、2人の姿を見て凍り付く。

 ずんずんと怒りの表情で歩み寄る楓を余所に、エルレイシアが幾分声を低めてハルに質問する。


「・・・ハル、誰ですあの娘は?」


「又従妹の秋瑠楓・・・紹介してませんでしたっけ?」


「聞いていませんよ。」


「そうでしたか?楓、戸を開く前には叩いてだな・・・」


「・・・そうですか、又従妹、ですか・・・」


 楓を窘めようとしたハルの言葉も耳に入らない様子で、エルレイシアはそうつぶやくと、ハルの肩をもって自分の方へと引き寄せた。


「エルレイシア?」


「は、離れてっ!」


 驚くハルを余所に、にっこりと微笑むエルレイシアは、顔を羞恥で赤くしつつたじろぐように立ち止まり、木刀の切っ先を突きつけてくる楓を気にした風も無く言い返す。


「どうしてですか?私はハルの妻となる者で、しかも今は怪我の治療中です。あなたこそ部屋から出て下さい。」


「つ、妻?ハル兄どういう事?」


「う~ん・・・どう説明しようか・・・」


 楓にどう説明したものかと悩むハルの言葉を遮り、口を挟むエルレイシア。


「どうもこうもありません、妻は妻です。それに、ハルはまだ稽古が出来る程まで快復はしていません。治療の邪魔ですからお引き取り頂けますか?」


「ううっ、いやだっ」


「あら、わがままを言ってはダメですよ?」


 だだをこねる子供のように首を左右に振り、言い返してくる楓を軽く言葉でいなしてエルレイシアは更にハルへと身を寄せる。


「だ、だからっ、治療で何でそんなくっつくのっ。必要ないでしょっ!離れて!」


「それこそ、い・や・で・す。」


 ぺろりと舌を出すエルレイシアの勝ち誇った顔を見てついに涙目になった楓が、ハルへ怒りの矛先を向ける。


「う~酷いやハル兄っ!」


「そこでこっちへ来るか・・・。」


 理不尽な怒りを楓から向けられ、ぼやくハルを挟んで火花を散らす2人。


「おはようございますハルさん、旅館で出すパンの試作品を・・・」


 そこに現われたプリミアが2人とハルの様子を見て凍り付く。

 どうやら間が悪いことに、旅館で焼いたパンを持ってハルを訪ねてきたようで、腕に埃避けのナプキンがかかった手提げ籠を下げている。

 良い焼きたてのパンの香りがふわりと部屋に満ちるが、全く今の雰囲気にはそぐわない。


「ハル、あの娘は誰ですか?」


「エルレイシア、目が笑ってない・・・」


「ハ、ハルさん・・・あの、これはっ・・・?」


 涙目の楓とエルレイシアのとげのある視線を同時に向けられ、戸惑うプリミアに、エルレイシアが声をかける。


「何かご用でしたか?」


 エルレイシアから言葉をかけられ、びくっと身を竦ませたプリミアだったが、ハルと目が合うと、意を決して口を開く。


「あ、すいません・・・ハルさんに頼まれていた、旅館で出すパンの試作品をお持ちしたんですけれども、お取り込み中です・・・よね?」


 最後はエルレイシアの迫力に負けて言葉が内容声量共に尻すぼみになってしまうプリミアであったが、ハルが慌てて呼び止める。


「ああ、良いからっ!大丈夫っ、早速頂くから!」


 結局その日の朝食はその場に居た全員でとることになった。

 美味しかったが妙な緊張感にやられ、何処に入ったか分からない状態のハルであった。



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