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第6章 都市増強 シレンティウム籠城戦(その2)

改訂版です。

ハルの部族説得行を加えました。

 アルマール村より20日後、ベレフェス族居留地、レーフェ


「・・・クリフォナムのフリードとの対決など願っても無い事だがそれはお前様方が強いという前提での話だ。アルフォードに攻められて縮こまっているだけの帝国都市に用は無い。」


「・・・そこをお願いしに来たのです。もしこの戦いに勝てば・・・」


「もしもの話などして何になる、辺境護民官。勘違いをするなよ?確かに俺たちはシオネウスの者共を匿って貰って感謝しているが、既にお前様の族民となったシオネウスに対する我らの庇護は切れているのだ、助ける義理は無い。それに今この時に勝った後の話などして何の意味があるのか?」


 ハルが言い募ろうとするのを制し、ベレフェス大族長ランデルエスは言い放つ。

 ハルの説得も功を奏せず、たった一つにして最大の弱点である、勝利前提の未来予想図の甘さを論われ、現時点での協力を拒まれてしまった。


「・・・」


 ハルが黙り込んでしまったのを見て取り、ランデルエスは意を強くして更に言った。


「お前様が力を示して、アルフォードを打ち破った暁には、協力してやっても良い。その時はシレンティウムとやらを上位に同盟関係を結ぶ事に同意する。我々ベレフェスは弱い者と組むつもりは無い。」


「・・・分かりました。」


 唇をかみしめるハルであったが、ベレフェス族の立場であれば無理も無いことであろう。

 未だ、アルフォードの威勢と武名は健在であった。

 その様子を見たランデルエスは、少し言葉の調子を和らげてハルに言う。


「心配をせずとも、アルフォードへ肩入れはしない。これは約束しよう。」


「・・・有り難うございます。」


 ハルの諸族勧誘は不首尾に終わりつつある。


 興味を示し、回答を保留したのはアルマールのみで、アルゼント、アルペシオの族長は、ハルの提案した同盟やその条件に対しては大いなる関心を寄せたが、戦士の派遣は拒否。

 ソダーシ、ソカニアの族長は、やはり条件には興味を示しはしたものの、アルフォードを恐れて現時点での締結や協力はこれを明確に拒絶した。


 そして最後の頼みの綱である、ベレフェス族もシレンティウムがアルフォードに勝利しなければ協力はしないという姿勢で終始し、ハルの説得に応じようとはしなかったのである。


 落胆を隠せないハルであったが、ここでめげていてはここまで出てきた甲斐が無い。

 ハルはいずれの部族に対しても持ちかけたように、最後の策を実行する。


「では、余剰食糧を全て譲って下さい。」


「・・・籠城で必要か・・・だが全ては無理だ。」


「いえ、全て譲って下さい、対価は支払います。」


「我らとて不測の事態の備えねばならんし、余剰は必要だ、全ては譲れん。」


「・・・軍を起こしたアルフォード王が対価無しで全て持ち去ってしまいますよ?」


 ハルの殺し文句に、しばらく考えていた族長だったが、最後には頷く。


「・・・分かった、辺境護民官の言うとおりだ。アルフォードに略奪されるくらいなら、譲った方がましだな。」





「駄目だったようですね。」


「ああ、仕方ないと言えばそれまでだけれども・・・自分の力不足が恨めしいよ。」


 ハルが族長の館から出ると、外で待っていたアルフォード族の使者の若者、ルーダが声を掛けてきた。

 ハルが苦笑いを浮かべながら言うと、その周囲にいた数名の若者達も落胆のため息をつく。


「しかし・・・良いのか自分に付いて来てしまって?」


 ハルが声を掛けた若者達は、各部族の族長に連なる者達。


 アルマールのルーダ。

 アルゼントのデリク。

 アルペシオのシール。

 ソカニアのカンディ。

 ソダーシのメリオン。


 ハルの説得や誘いに応じたのは、現在の族長達では無く、これからの部族を背負って立つ若者達であった。

 

 いずれも閉塞した現状を打破したいと考えている次期族長候補の優秀な若者達で、凝り固まったクリフォナムの現体制打破の起爆剤になるのでは無いかと、シレンティウムの動向に注目していた。


 そこに現われたのが、件のシレンティウムを治める辺境護民官。


 辺境護民官と族長の話し合いの場に同席し、あるいはその結果を聞いて得た情報は恐るべきもの。

 辺境護民官は北方辺境の地に、帝国ともクリフォナムの現中枢である北方諸族とも異なる、自立した政権を打ち立てようとしている。


 若者達は自分の意を実現する好機到来とばかりに父であり一族の長である族長を説得しようと試みたが、ハル同様不首尾に終わる。


 しかし、皆血気盛んなクリフォナムの若者達であり、大人しく引き下がることを良しとしないクリフォナム人の体質を色濃く受け継ぐ者達。

 彼らはハルがこれから何を為そうとしているかという事に興味を抱き、その好奇心を抑えきれず、あくまで族長の承認を得た上であるが、ハルに同行を願い出たのであった。


 強行軍に近い道中であったが、若者達はハルからその経歴やシレンティウムでの出来事、そして今後どうシレンティウムを運営していくかを聞き、更には北方辺境やクリフォナム、オランの民についての思いや未来を語り合い、ハルに対する信頼と自らの志を強くしてきたのである。

 

「ハルさん、戦士の集まりが悪くて、アルフォード王の出立随分と伸びるようですよ。」


 伝書鳥を飼い慣らしているソカニア族のカンディが、乾かした小さな木の葉を差し出しながら言う。

 ハルが見ると、炭で書かれた小さな文字が葉の上に躍っており、その内容はカンディの言ったとおり。

 ハルはその木の葉をカンディに返しながら口を開く。


「それは朗報だけれども、時間はあまりない。各部族から買い付けた食料の到着もあるだろうから、直ぐにシレンティウムへ戻ろう・・・ルーダ、抜け道はあるかい?」


「はい、ここから西南方向に抜ければ、若干森や山で迂回はしますけれども、シレンティウムまでほぼ直線です。」


「分かった、道案内は頼む・・・シレンティウムで、籠城準備を確認した後は、もう一度アルキアンド族長の所へ行こう。」


「「分かりました!」」


 ハル達は直ぐさま騎乗の人となると、一路シレンティウム目指して掛けだした。






 フレーディア城下町、太陽神殿


 厳かな雰囲気に包まれた木造の神殿。

 その威容は石造りの物に何ら劣る事無く、フレーディア城下町の中で存在感を主張している。

 その主要礼拝堂には、フリードの戦士を引き連れたダンフォード王子とその妹姫であるシャルローテの姿があった。


 相対するのは、60歳をいくらか過ぎている、細身の女性。

 背筋はすっきりと伸び、腰の辺りまで伸ばされた銀髪はうつくしく梳られており、身に着けているのはその髪に勝るとも劣らない見事な銀色の長衣。

 手には太陽神の大神官が受け継ぐ大神官杖がある。


「これは、この様な神殿へ戦士達を引き連れておいでとは物々しい。」


 口を少し皮肉っぽくゆがめたその女性が揶揄するように言うと、ダンフォードが、こちらは緊張からか、はっきりと口を引きつらせて反論する。


「戦士達は私の護衛で他意はありません。今日は大神官様にお願いがあって参りました。」

「はて、お願いですか?私ごとき神職の者が王子殿下のお役に立てる事は何も無いと愚考致しますが・・・」


 太陽神殿の大神官、アルスハレアの口調はあくまでも穏やかであるが、意向としてははっきり断りたいという意思が見えるものであった。

 しかし、王子達も最初から要望が叶えられるとは思っていないのか、とげとげしい言葉には動じた様子も無く、余裕をもって答える。


「はい、是非ともお力添えを頂きたく存じます。」

「・・・はて、一体どのような?」

「まずは・・・帝国廃棄都市にいる、あなたの弟子に連絡をして頂きたい。」

「連絡・・・?」


 ダンフォードの唐突な申し出に、若干戸惑いの色を見せる大神官アルスハレア。


「ええ、太陽神官の名で、都市や周辺住民に蜂起を呼びかけるようのに指示を出して貰いたいのです。」

「・・・はあ、それが願いですか?」


 アルフォード王が廃棄都市を攻める命令を下した事は、アルスハレアも城下町の族民達と同程度に聞き及んではいたし、その都市に弟子神官のエルレイシアが居る事は本人からの連絡で知ってもいる。

 しかし、何処で何を嗅ぎ付けてきたのか、王子達は自分を通じてそのエルレイシアを利用し、廃棄都市の族民達に内応させようとしているようだが、稚拙に過ぎる。


 そもそも、40年前の大反抗時にその大反抗の標的とされた都市でアルトリウスに協力していたのは他に置いてない、大神官アルスハレア自身である。

 アルトリウスの最後の願いを聞き届けたアルフォードによって命こそ存えたが、フリードの地へ抑留され、この城下町に大神殿を開かされたのであり、決して関係は良好とは言えない自分にそのような願いを持ってくる事自体が愚かしい。

 まあ、それ故に兵を率いているのだろうが・・・


「お断りしたい所ですが・・・まず、私がその願いを聞き入れた所で上手くはいかないでしょう。」

「何故ですか?そんなはずはありません。クリフォナムの民達はその誇りでもって、廃棄都市の辺境護民官の軛と邪な意思を砕くでしょう。」


 ダンフォードがきっぱり言い切ったその様子にため息をつきたくなったアルスハレアであったが、父王に似ず短慮で激高しやすい事を知っている為、あえてその表情は見せない。


 遠いこの地にまで廃棄都市の良い噂が届いている。

 族民達が幾らクリフォナムの誇りを持とうが、現実の生活を支え、そして維持してくれているのは帝国の辺境護民官でありその廃棄都市にある住居や農地であり、更にはその帝国が用いている技術なのだ。

精神的な支柱であるとはいえ、太陽神官が煽動した所で直ぐに転覆するような情勢に無い事は、帝国人の振る舞いからも明らかである。


 族民の中に帝国に対する不満や怨嗟が無いのだ。

 それを崩し去るには、かつてアルトリウスに協力したアルスハレアが経験したように、外からの軍事力で潰す以外に方法が無く、実際その時アルフォードはそれを実行した。


「お断りしましょう、それに、そもそもエルレイシアがこの策に乗るか否かは・・・」

「分かりますとも。妹なら必ずや、我々の意を酌んでくれるでしょうからな!」


 やんわり断ろうとしたアルスハレアを遮り、ダンフォードが再び力強く言う。


「・・・なっ!?」


 しかし今度は驚愕の表情を堪えきれず、アルスハレアが絶句した。


「・・・我々が知らないとでも思っておいでですか?我々の妹は誇り高きフリードの王族に連なる者、必ずやこの策を実行してくれるでしょう。」


 アルスハレアを含めて少数の者しか知らないはずのその事実をどうして王子達が掴んだのか。

動揺を隠しきれないアルスハレアが、それでもその聡明な頭脳に感じた違和感の正体を探ろうと、震えながらも口を開く。


「・・・では、何故この神殿へ?そうであれば私を介さなくとも・・・」

「ん、そうですね、それはあなたに我々の依頼を断らせる為です。」


 愉悦にゆがむダンフォードの顔を見て、アルスハレアは違和感の正体に気が付いた。

 ダンフォードは意のままにならない太陽神官を掌握すべく此処へ来たのだ。

 そしてその要である、大神官の自分を抑えるつもりであろう。


「・・・最初からそれが狙いですか・・・そんな蛮行を族民達が許すと思うのですか?」

「許すも何も、族民達は私たちに従うのが当たり前でしょう?それに、新しい大神官は用意していますから、あなたには大神官を退いて貰いましょう。」


 怒りを押し殺しつつ言葉を発するアルスハレアを余所に、ダンフォードはにやりと笑みを浮かべて後の妹姫を見た。


「我が妹、シャルローテが太陽神殿大神官を継ぎますので、宜しく願います。」

「・・・神意に沿わない譲位など認めません。」


 進み出るシャルローテを苦々しげに見遣りながら、ダンフォードの言葉に反抗したアルスハレアは、素早く大神官杖を構えようとしたが、その瞬間わっと飛び掛かった戦士達に拘束され、杖を取り上げられてしまう。


「な、何を乱暴なっ!」

「父王はあなたに甘すぎた、宮宰もしかりですが、我々は違います・・・連れて行け。」


戦士から大神官杖を受け取ったダンフォードは、物珍しそうに眺めた後それをシャルローテに手渡した。


「今日からお前が太陽神殿大神官だ、神官登位式は戦勝後に派手にやってやる。」

「分かりました。」

「認めませんっ!」


 連行されつつも、2人の会話を聞きつけたアルスハレアが叫ぶが、ダンフォードは意に介さず神殿の中を見回してから満足そうに言った。


「これで我がフリード族の北方掌握に一歩近づいたという訳だ・・・」

 




 ハル帰還より12日後、シレンティウム


 ハルが湿地の開削工事の監督から戻ると、大通りは人混みでごった返していた。


「これは・・・一体?」

「おおい、ハル、良い所に帰ってきた!」


 鍬を担いで泥まみれのハルが驚いて南の城門を抜けた所で立ち尽くしていると、ハルの姿を見つけたルキウスが声を掛けながら人混みをかき分けてやって来た。


「ルキウス、これはどういう事なんだ?これから戦いになるって言うのに・・・」

「いや、それが、これ全部志願兵なんだよ。」

「え?志願兵?」


 見たところ、大通りの人々は、部族はまちまちであるものの、確かに剣や槍、弓矢を持ち、背中の荷物には防具と思しき物を詰め込んだ背嚢を背負う、戦士がほとんどである。


 責任者と思っていたルキウスが泥だらけのハルに話しかけるのを見ていぶかしげな表情でその様子を見る戦士達。

 すると自分の部族の戦士達と話していた若者達が、ハルに気付いて近寄ってきた。


「ハルさん!ウチの族長が戦士を送ってくれたようなんです。表向きは志願って事らしいですが・・・」


 最初に話しかけてきたのは、アルゼントのデリク。

 アルペシオのシールに、ソカニアのカンディそれからソダーシのメリオンも後に続いている。


「・・・援軍か・・・」

『ハルヨシよ、これがお主が動いた結果であるぞ。』


 ハルが呆然としてつぶやくと、アルトリウスがそう言いながらルキウスの後方から現われた。


「先任!これは・・・」

『ソカニア族300名、ソダーシ族250名、アルペシオ族250名、アルゼント族400名、オランのベレフェス族300名、締めて1500名の戦士達である。お主も察したとおり、志願兵に名を借りた援軍であるな。』


アルトリウスはそう言うと、オラン人の若者をハルの前に呼び寄せた。


『この者はベレフェス族長の次男、テオシスだそうだ。』

「ハルさん初めまして、テオシスと言います。宜しくお願いします。」


 手を出しながら挨拶するテオシスに、ハルは慌てて泥の付いた手を腰で拭いてから差し出した。

 握手を交わしながら、テオシスが笑顔で再び口を開く。


「父への説得の言葉胸に響きました。ベレフェスの誇りと勇気を懸けて協力を惜しみません。」

「ああ、こちらこそ宜しくお願いする。」


 テオシスを交え、ハルとクリフォナムの若者達が歓談していると、アルトリウスがハルに近づいてきた。


『ハルヨシよ、アルマールの戦士団が近づいているぞ。』






「これは、他の部族に先を越されましたかな・・・」


 にこやかに手を挙げたアルキアンドに、ハルは驚きで立ち尽くす。

 東の城門に向かったハル達は、1000名の戦士を率いてきた完全武装のアルキアンドと対面することとなった。


「アルキアンド族長!再訪問は不要とは、こういう意味だったのですか・・・」


 ハルがシレンティウムへ帰還した後、アルマールから使者が訪れ、アルマール村への再訪問は必要ないとの伝言を伝えてきていた為、ハル達はアルマールも味方に付かないのだとすっかりあきらめていたのであった。


「一族挙げて馳せ参じました。私たちアルマールの者達は、辺境護民官殿の意思と未来に賭けようと思います。」


 しかし、そうでは無く、アルマール族はシレンティウムへ味方することを決定したが故の使者であったのだ。


 アルキアンドはアルマールの他の村々への招集は最低限度に止め、主にアルマール村とその周辺で戦いに巻き込まれる恐れのある村々に避難と招集の命令を掛けた。

 アルキアンドは、後ろを振り返り戦士達に都市へ入るよう指示を出し、ハルに言う。 


「後の1000名はアルマール村の族民達を守りながらこちらへ向かっています。」

「・・・え、族民ですか?」


 アルキアンドの言葉にハルが思わず聞き返すと、アルキアンドは微笑して答えた。


「そうです、アルマール村はアルフォード王の通り道となるでしょうから、しばらくこちらで厄介になります。戦が終われば村へ戻りますが、食料家財を全部持ってきていますのでご心配には及びません。収穫も少し早かったですが済ませてきましたのでね。」

 

 


クリフォナムの戦士達や遅れて到着したアルマール村の族民達を南東の街区へ収容した後、ハルはアルキアンドから面会を求められた。

 アルトリウスと共に執務室で待っていると、アルキアンドが武装を解き、普段着の姿で現われる。


「・・・太陽神官様はおられませんか?」

「え?ええ、戦いが迫っているせいか、最近は少し鬱ぎがちで・・・」

「そうですか・・・」

『・・・ま、時折様子を見てやれば良い。』


アルキアンドから突然そう尋ねられ、ハルが戸惑いながらも答えると、アルキアンドもそれ以上は追及しなかった為、会話は一旦そこで途切れる。


 ただ、アルトリウスだけがアルキアンドを厳しい目で一瞥したが、アルキアンドが話題を変えた為、それ以上は何も言わずに引き下がる。


「辺境護民官どの、防備体制はどのぐらい進んでいますか?」

「堀は既に完成しましたし、城壁も屋根の高さまで積み増しが済んでいます。今はちょっとした細工の為に南西の湿地から伸びる水路を開削している所です。」

「なるほど・・・」

『族長のおかげで戦力的にもまともになってきておる。シレンティウムの兵100名に、義勇兵200名、各部族からの志願者が1500名、帝国軍が500名、アルマール族戦士団が2000名であるな。アルフォードがどの程度戦士を揃えてくるか分からぬが、籠城するには十分であろう。』

「食料は各部族から余剰分はかき集めておきましたので、十分以上あります。」


 アルトリウスの説明にハルが補足して食糧事情を説明すると、アルキアンドは得心したのか深く頷いた。


「・・・なるほど、アルフォード王の軍を飢えさせるつもりですな?」

「その通りです。これで各部族はアルフォード王に食料を供出できない。」


 帝国と異なり、兵站の概念の薄いクリフォナム人の戦士は、必要な食料は現地調達が原則である。

 これが敵地であれば良いが、曲がりなりにも味方の地を通過する際には余り良い効果は無い。

 通過点に当たる各部族の村々は余剰食糧を供出することになるが、それでも無償での供出であり、良い感情が湧くはずも無い。


 戦士個人が携帯できる食料ぐらいは持っているだろうが、アルフォード王は恐らくアルマール族や南部の諸族に食料の供出を命じる腹づもりであろう。

 しかし、アルマール族が明確にフリード族から離反し、また他の部族もハルの申し出に応じて余剰食糧を売却してしまった今、現地調達方式は大きな弱点に変わろうとしていた。


『特に南部の諸族からは、無理に奪えば信を損なうどころでは無いのである。フリード族に対する反乱に繋がりかねん。』

「それはそうでしょう・・・今まででも故無き収奪をされていましたからな。」


 アルトリウスの言葉に頷くアルキアンド。


「打てる手は全て打ちました、後はアルフォード王が来るのを待つだけです!」


 拳を握りしめ、力強く宣言するハルを頼もしそうに見つめるアルキアンドに、笑顔で頷くアルトリウス。



 シレンティウムの試練は間もなくである。



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