第4章 都市整備 東照商人導入篇
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東照帝国は最西端を北方辺境と接し、クリフォナム人の居住地と隣接はしているものの、積極的な交流は無く、細々とした交易が行われているだけ。
東照帝国の本拠は帝国からは遥か彼方の大陸東岸であることもあり、現在の東照皇帝は西方への積極的な進出を考えていない。
しかし、帝国とは過去において1度だけ武力衝突の歴史がある。
100年前、西方統一を目指す帝国と、その攻勢に晒されたヴァンディスタン共和国の求めで援軍を派遣した東照帝国が激突したのである。
東方の守護神こと、リキニウス将軍率いる帝国軍は、東照帝国軍と海沿いの隘路で正面からぶつかり、兵を摩り下ろすがごとくの苛烈な攻撃でこれを撃破した。
リキニウス将軍自身は流れ矢に当たって戦死し、帝国の損害も酷いものであったが、最終的に戦いは帝国の勝利で終わっている。
東照帝国はこの敗戦で西方への足がかりを失い、翻って帝国はヴァンディスタン共和国を併合、東方への前哨地と為した。
帝国にとっては残念なことに、その後は優秀な将軍に恵まれず東方征服は頓挫するが、東照帝国も再戦を望まず、現在帝国の東方国境は安定の状態が続いている。
そしてその東照人商人ホー。
年齢は恐らく、40に達していないぐらい。
しかし言葉はたどたどしいが良くしゃべる。
「あーエルレイシアさん?あらかじめ言っておくネ、ワタシそれ程ヨイ商人ない、ワタシ、東照で商売失敗してこっちへ来たネ、だから何でもかんでもは無理ネ。」
「えっ、そうなんですか?」
「そうネ、だから借金取りから逃げて西へ来たネ、だから、大規模に商売シタイ言われても困るヨ、それから1年に一度は東照へ戻るヨ、その間ワタシこの辺り居ないネ、代わりの商人必要ヨ?」
「そうですか・・・」
「でも、それでも良ければ、何でも言うヨ!」
そう言いながらホーは村の広場で馬車を止め、店を広げ始める。
エルレイシアが思案している間も、顔見知りなのか近くを通るアルマール族のおばさんやおじさんと積極的におしゃべりをする東照商人ホー。
そして、たどたどしいのに何故か言葉巧みに決して安くはない東方の皿や髪留め、布を次々と売ってゆくホー。
扱っている品物も色鮮やかな絹織物に、鼈甲簪、白磁皿と、なかなかの東照物品ばかり、旅で養ったエルレイシアの目から見ても、1級品とは言わないまでも、それに近い品であることが分かる。
ひょっとして行商をする以前は、一廉の店持ち商人だったのかも知れない。
エルレイシアは不思議そうにホーの商売する光景をしばらく見ていてそう思い、うんと一つ頷くとホーに話しかける。
「ホーさん。」
「あーエルレイシアさん、どうしたネ?」
「東照へはどうやって戻るのでしょうか?」
「昔蛮族と戦て負けた西方の将軍が作た道がまだ残ってるネ、東照の人、みんな知てる、西の人知らないヨ、東照の人、西の国と商売する気無いネ、道も掃除してないからだいぶ痛んでるヨ・・・使てるのワタシとケモノだけネ。」
西方の将軍とは、恐らくアルトリウスのことであろう。
ここにもアルトリウスの引いた街道が残されている。
これは役に立つのでは、とエルレイシアの勘が働いた。
確かに普通の商人として利用するには勝手が悪い。
しかし、ハルの思惑はどうあれ今後帝国との関係がどうなるか分からない以上、たとえ行商人だとしても、他国の商業に携わる者と関係を持っておくのは悪い事では無いだろう。
「ホーさん、定期的にとは言いませんけれども、この先にあるシレンティウムへ来て下さい、そして商品はなるべく東方の物が良いです、因みに、今売っているようなきっちりした商品であれば、売れ残りは行政府が買い取ります。」
「あいや、それ本当かヨ!良いヨ!今からでも行くヨ!・・・あ~、でもシレンティウムて何処ヨ?」
「この先の廃棄都市です。」
「・・・死霊都市かヨ~行きたくないネ・・・」
好条件に乗り気と商売っ気で目を輝かせたホーだったが、シレンティウムの場所を聞くと、途端に嫌そうな顔で渋り始める。
「そう言わず、そこを何とかお願いできませんか?」
エルレイシアの上目遣い攻撃に、それまで渋っていたホーは一瞬で引き寄せられ、呆然となるが、慌ててそっぽを向くと、腕を組み、さも仕方が無いと言った様相で口を開いた。
「・・・し、仕方ないネ、ワタシよい商人ナイが、ウソ、サギ、オウリョウはやらないヨ、一度お願い聞く言ったネ、だから度胸決めていくヨ!」
「あ、ありがとうございます。」
ホーがそっぽを向いたままなのを良い事に、エルレイシアはぺろっと舌を出し、すぐホーの腕をとる。
「善は急げと太陽神様も言っています、すぐ行きましょう!」
「すぐかヨ~!?もう一寸待つヨ~今日は無理ヨ~」
とりあえず、他の村を回る約束もあるホーとは一旦分かれる事にしたエルレイシア。
最後はホーも根負けしそうになったが、見かねたアルキアンドが助け船を出し、一通り行商の予定が終わったら必ずシレンティウムへ立ち寄る事を約束したホーは、商売へと戻った。
「残念です・・・とても面白そうな方でしたのに・・・」
ホーの商売を邪魔しないようにと少し遠くからその様子を眺めるエルレイシアは、唇の下に人差し指をあて、心底残念そうにこぼす。
それが聞こえたのかどうかは分からないが、何となくいつもよりは硬い表情で片言の弁舌を振い、商いを続けるホー。
「・・・心配要りません、最初はみんな警戒して近寄る事すらしませんでしたが、今や村の人気者の商人です、しかもああ見えて義理堅いので約束は破りませんよ。」
「・・・そうですか、仕方ありません。」
アルキアンドの言葉でようやく広場を後にするエルレイシア。
心なしかホーの背中も緩む。
「それで・・・セミニア村の者達はいつ頃お邪魔すればよろしいのでしょうか?」
屋敷へ戻る道の途中、エルレイシアへ唐突に切り出すアルキアンド。
「・・・負担になっているのですね?」
「ええ、正直に申しまして、出来れば早めにお願いをしたいのです、長雨は実は去年の事でして・・・頭を痛めています。」
アキルアンドの苦慮の表情に思案するエルレイシア。
アルマール村ぐらいの大規模な村落になればそれ程問題にもならない同族の避難者受け入れだが、小規模でセミニア村に近い村落からアルキアンド宛てに、一時の受け入れの約束であったのに、何時まで面倒を見れば良いのかといった苦情めいた要望が既に何度か寄せられているのだ。
既に100人の避難民を受け入れているアルマール村にもこれ以上の受け入れ余地は無く、アルキアンドとしては冷たいようだが、防波堤代わりとしてもシレンティウムへ早急に送り出したい所であった。
「分かりました、条件についてお話ししたい事があります、セミニア村の代表はいらっしゃいますか?」
「ええ、この村に滞在しています、すぐに呼びにやらせましょう。」
今回は少し短い目です。




