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第4章 都市整備 物資調達篇

『賑やかになってきたわね?』


『うむ。』


 さわさわと軽やかな音を立てて清水の流れる水道橋の上。


 水道橋に腰掛けて自分の膝に肘を付き、その掌へ自分のあごを乗っけているアクエリウスの傍らには立ったまま腕組のアルトリウス。


 日は暮れ、2人の視線の先には都市へとたどり着いたオラン人たちが夕飯を煮炊きしている無数の焚き火がある。


 一様にその顔は明るく、安住の地を与えられた安堵感で満ちている。


 特に表情の無いアクエリウスに対し、アルトリウスの顔には隠しきれない笑みがある。


『・・・嬉しそうね?アルトリウス。』


『ふっ、当然だ、我の眼に狂いは無かった。』


 アクエリウスの問いかけに、アルトリウスは腕組を解き、手を腰にやりながら答える。


『2、3日後からは、きりきり働いて貰うのであるが、まあ今晩くらいはゆっくり休むがよかろう。』


『ま、私は誰が来ても余り関係は無いわね、でも、あなたが楽しいのならそれでいいわ。』


 アクエリウスは、アルトリウスの手を引いて自分の隣へ座らせると、ことりと頭をその肩に預ける。


 しばらく水音だけが辺りを包むが、アクエリウスがぽつりと言った。


『・・・人だった時のしがらみなんて捨てちゃえば良いのに、でも、そんな変わらない、あなたが、好き。』


『それこそ面映い事であるが・・・理解してくれる者が傍らにいてくれるというのは良いものだな。』 

『うふふっ』


 アルトリウスの回答に満足したのか、アクエリウスは含み笑いながら想い人に横から抱きついた。




 翌日、朝早く護衛のオラン人女戦士4人を連れてシレンティウムを出発したエルレイシアは、早くも昼前にアルマール村に到着し、族長のアルキアンドと面会する。


「500人分の食料ですか?しかも数か月分!?」


「ええそうなのです、この村だけで手配できるとは思っていませんけれども、余剰食糧があるのでしたらお譲り頂けませんか?もちろん対価は支払います。」


 驚愕するアルマール族長のアルキアンドの目の前に、オラン人の女戦士を従えたエルレイシアは帝国製の大判金貨を3つ、ごとりと置いた。


「こ、これは・・・!」


 集会場の机に置かれた大判金貨を見て、アルキアンドは驚愕を更に深める。


「いかがでしょう?」


「・・・うちで譲れるのは黒麦と大麦、それからひよこ豆くらいですぞ、小麦は無理です、それで構いませんか?」


 少し考えてからの答えに、エルレイシアは頷く。


「ええ、結構ですとも、量はどれくらいですか?」


「この村の全員が1年食えるくらいはお売り出来るでしょう、本当の非常食料ですが、他ならぬ太陽神官様のご依頼ですから、融通いたします。」


「有難うございます、対価とは別に、このお礼はさせていただきます。」


「それでは、村で太陽神様の豊穣祭を催していただければ・・・」


 農地の地力を上げる太陽神の豊穣祭をアルキアンドがエルレイシアに求めた。


「分かりました。」




 話が決着し、しばし歓談するエルレイシアとアルキアンド、その話の中で、シレンティウムで起こった奇妙な出来事の数々を、エルレイシアが話し、アルキアンドは事の次第を知っていった。


 それからしばらく、差し障りの無い話に終始した後、アルキアンドはオラン人の女戦士をちらちら見遣りながら、遠慮がちに質問を始めた。


「それで・・・その、そろそろこれ程の食料が必要になった理由をお聞かせ願えませんか?」


 エルレイシアは出されたお茶を口にしながらアルキアンドの質問を聞き、カップをゆっくり机に戻すと口を開く。


「帝国の迫害を逃れてきたオラン人を受け入れました。」


「なっ!なんですと!?それはっ・・・」


 オラン人の女戦士を再度見て驚愕するアルキアンドを他所に、エルレイシアはカップを手にして小首をかしげる。


「問題ありましたでしょうか?」


「も、問題どころではありません、アルフォード王が知れば怒り狂うに決まっている!神官殿が一番良くご存知でしょう。」


「それでは放置せよと?」


 椅子から腰を浮かしてまくし立てるアルキアンドに、エルレイシアはごく冷静に質問を返す。


「・・・それが最善でしょう。」


 少し顔をゆがめ、気まずそうに女戦士を見てから答えるアルキアンド。


 オラン人の女戦士たちは、アルキアンドの言葉には反応を示さず、静かに立っている。


「しかし、シレンティウムが受け入れなければ、500人のオラン人難民は行き場を失って東に流れていました、おそらく明後日にはこの村へ到着していたでしょうね、そうすればどうしていましたか?」


「それは・・・」


「アルフォード王の意向に沿えば、実力で打ち払うという方法しかないのでは?それで、死に物狂いになったオラン人500人を食止めるのに、村人からどれほどの犠牲が出ることでしょう?」


「・・・確かに、少なくない犠牲が生じたでしょう、シレンティウムで停まったのは僥倖とも言える・・・」


 エルレイシアの投げかけた質問に、大きなため息を吐きながら答えるアルキアンド。


 ましてや接近を察知出来ずに不意を討たれていればどうなっていたか分からない。


 夜襲を受ければ更に犠牲は増えていただろう。


 現にシレンティウムまで近づいているヘリオネルたちをアルキアンドは察知できていないのだ。


「かつての緩衝地帯として機能したハルモニウムの役割を、シレンティウムに求めてもいいのではないですか?アキルシウス辺境護民官にはそれだけの器量があります。」


「しかし、村の間近にオラン人が移住するとなれば、我々としても何らかの対抗措置を講じねばなりません。」


「そのための緩衝地帯ではありませんか、おまけに当分の間は余剰食糧の処分にも困りませんよ?」


「それはそうですが・・・緩衝地帯に接している我々は、心穏やかにという訳にはいきません。」


 畳み掛けるようなエルレイシアの言葉にも、これを是としないアルキアンド。


 流石に長年相争ってきたライバルとも言うべきオラン人がこのような身近な場所まで進出し、定住するとなれば話は変わってくるのだろう。


「そうですか・・・ところでこの村の人口は増えていますか?」


「?おかげさまで、増加の一途です、それが何か?」


 突然エルレイシアが話を変えたことを訝るアルキアンド。


 しかし次の言葉でその狙いを理解する。


「いえ、もし移住を考えている方がいれば、今なら無償で農地と宅地をシレンティウムにさし上げられますよ?」


「・・・なるほど・・・では、村で募集をしてみましょう、あと、移住者は村外からでも構いませんか?」


「ええ、真っ当に働く気のある方ならば大歓迎です。」


「実は、東部大山塊麓にある、我が同胞のセミニア村が、長雨による土砂崩れで農地も村も崩壊して難渋しています、村人300人が近隣の村々を頼って一時的に避難をしていますが、復興は難しい状態でして・・・その者達の受け入れは可能ですか?」


「割いて頂く食糧にもう少し色を付けて貰えれば大丈夫でしょう。」


「分かりました、セミニアの件についてはうちを含めたアルマール族の他の村から無償で1年分の食料を供出させてもらいます、今回購入していただいた分を含めて食料の搬送は直接セミニア村の者にやらせましょう。」


「わかりました、それから、村出入りの商人さんはいらっしゃるのですか?」


「ええ、行商人は月に一度来ていますよ、もっとも、この村の産物の大半は我々でまとめて帝国へ売りに行きますから、雑貨の類しか扱っていない商人ですが、丁度今日が立ち寄りの予定日です、会っていかれますか?」


「お願いします。」





「おー初めましてネー、ワタシ奉玄黄いうよ、ここらの人みな、ホーさん呼ぶヨ、東照から来たヨ、最近ここでお商いさせて貰テルね。」


「ああ・・・東照の方でしたか、始めまして、エルレイシアと申します、お願いがあってきました。」


「おー、エルレイシアさん!でも、お願いて、何お願い?ワタシできるかネ?」


 アルキアンドから紹介されたのは、稲藁で編んだ笠を被り、独特の前袷衣装を身に着け、少々怪しい帝国公用語を操る小柄で黒髪の男。


 村出入りの行商人は、帝国人でも、クリフォナム人でも、ましてやオラン人でもなく、はるか東の地で覇を唱える東照帝国の商人であった。


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