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第16章 戦乱の風 ささやかな反撃篇

最後、元老院での皇帝とルシーリウスの遣り取りを追記しました。

 元老院議員が貴族派貴族と少数の市民派貴族だけになった。

 軍閥出身の議員はその全てが戦場に向かったために居ない。

 官吏達はルシーリウスの手の者によって採決の場である議場から追い出され、控え室へと押し込まれた。

 その議場の様子を見て、ルシーリウス卿が会心の笑みを漏らし両手を大きく広げて言う。


「これがあるべき元老院、貴族による正しい政治を行う元老院の姿だ!」


 その言葉に貴族派貴族の議員達が一斉に立ち上がり盛大な拍手で讃えた。

 しばらく拍手を浴びた後、ルシーリウス卿は手を広げたまま徐に拍手も起立もしなかった市民派貴族に向き直る。


「で…諸兄らは私の意見に賛同出来んかね?」

「…賛同致しかねる」


 1人の議員がゆっくり立ち上がって言った。


「おぅやあ?クィンキナトゥス卿…父親の議長共々退出したいのかな?」

「退出かね…しても構わんよ、ルシーリウス卿。このような意味の無い空虚なおしゃべりを延々聞かされるのなら、採決の際に議場に居ないという、議員として考えられない不名誉も敢えて受けよう」


 堂々と言い放ったクィンキナトゥス卿に、ルシーリウス卿は芝居がかった様子で答える。


「残念だ…君たちは市民派貴族とは言え歴とした帝国貴族、話し合えばきっと分かって貰えると思ったのだが…実に残念だ」


 市民派貴族とは帝国建国時に存在した帝国市民発祥の貴族で、家系的には貴族派貴族より古い家も存在する、由緒正しき帝国市民である。

 元は確固たる勢力を持った貴族の一派であったが、次第に貴族派貴族に押されて勢力を失い、今は少数派として細々生き延びている派閥である。

 最近は貴族派貴族に迎合し、何とか生き延びている形であったが、大クィンキナトゥス卿こと議長が旗頭となった50年ほど前からは一時活発に活動していた。

 しかしマグヌス帝即位以降は鳴りを潜め、大クィンキナトゥス卿が長年議長を務めた他はこれと言った事績も残せてはいない。


 それがここへ来て貴族派貴族に反抗したのである。

 ルシーリウス卿としては貴族達の代表という形をどうしても取りたい為、説得しようと敢えて議場に残したのであるが、彼らはその厚意も踏みにじり、市民派貴族は元老院議員最大の不名誉である議場退場も辞さないと言い切ったのだ。


「では、失礼しようか諸君…皇帝陛下、申し訳ありませんが…」

「よい、気にするな…私も退出したいほどだが…最後の矜持がそれを邪魔する、すまぬ」


 自分へ丁寧な挨拶をするクィンキナトゥス卿に、マグヌスは微笑を向ける。


「そう言えば…子息殿はどうした?姿が見えぬな」

「あ奴は不出席の不名誉をおかし、故あって遠くへ行っております」

「…?そうか…遠くへな、分かった…後は頼む」


市民派貴族が自主的に議場から退出する姿を苦々しげに見送っていたルシーリウス卿は、ふっと鼻で笑うとマグヌスへと再度向き直った。


「…まあ良い、少数派の市民派などの協力が無くとも影響は無い…皇帝陛下!」

「まだ私を皇帝と呼ぶのか?」


 皮肉げに、そして力なく言うマグヌスを見て口角を上げると、ルシーリウス卿は言葉を継ぐ。


「ええ、まだ呼びますとも…譲位して頂きたい、無論、南方作戦失敗の責任を取ってという形ですが…そうですな、取り敢えずは先程の議会でタルニウス卿が提案したグラティウス大公へ皇帝位を譲って頂きましょうか」

「断れば如何するのか?」


 マグヌスが面白がるような様子で言うと、ルシーリウス卿は顔を引きつらせた。


「この期に及んで何を……断るですと?その様なことは出来ないはずです。良いですか、あなたは皇帝位を譲るんだ…拒否は許しませんぞ」




 元老院、控え室


 議場からそれ程離れていない、元老院議員の控え室に押し込まれた中央官吏派の議員と元老院議長が、扉の開く音に振り返ると、そこには市民派貴族の面々が立っていた。

 入り口に見張りとして付いている闇の組合員も、自ら部屋へ入ろうとする市民派貴族達に若干の戸惑いを持ったようで、扉をぎこちなく開けている。


「おお、大事なかったか…皇帝陛下は?」

「…最後の矜持を守られました」


 控え室にやって来たクィンキナトゥス卿を迎えた元老院議長ことクィンキナトゥス老は、息子の言葉を聞いて大きなため息をついた。


「そうか…仕方ないか」


 ため息の後下を向きなにやら考えている風の父を見たクィンキナトゥス卿は、しばらくしてから父である議長へ徐に声を掛ける。 


「で、どうしますか父上?」


 息子の言葉を聞いて、議長はようやく顔を上げるとゆっくり語りかけた。


「おう、それよ…カッシウス殿とも相談して考えたのだが、ここでもう一つの元老院を立ち上げようと思うのだ」

「…もう一つの元老院?」


 クィンキナトゥス卿が見ると、カッシウスも頷いている。

 そしてはっきりと言葉を発するカッシウス。


「そうです、貴族派貴族とは異なる、この場所で新たな元老院を立ち上げるのです…幸いにして議員はここにたくさんおります。これだけの人数が居れば何ら問題ありませんでしょう。元老院とは私たちなのですから」

「わははは、違いない!元老院議場は議場であって元老院では無い、元老院とはすなわち我等議員そのものの集合のことだからな。正に言い得て妙だ」


 カッシウスの言葉を豪快に笑いつつ補足し、議長は息子をどうだと言わんばかりの顔で見返す。

 その顔を見たクィンキナトゥス卿の顔にも自然と笑みが上った。

 そうだ、何も議場に拘る必要は無いのである。

 元老院議員が集まれば、そこが元老院なのだ。


「いや、なるほど…それは面白そうですね…では?」


 息子の言葉に笑みを深くした議長。

 まるで悪戯を思いつき、そしてその悪戯が必ず成功すると確信している悪戯小僧のような笑みである。


「おうよ、まずは…辺境護民官殿に越境権限を付与しようぞ、幸いにも元老院議員でもある我が孫が彼の者の近くにおる、我等元老院の承認を得たという証明としてこれ以上の者は居るまい。如何かな?」

「……無理矢理行かせたくせによく言います。まあ、あ奴もまんざらでは無かったのでしょうが」


 心底愉しそうな父親の声に、苦笑しつつ言うクィンキナトゥス卿に、カッシウスが問い掛けた。


「孫というのは…小クィンキナトゥス卿の事ですか?」

「そうです、我が親父が北を見てこいと自分の孫を…元老院議員でもあるグナエウスをシレンティウムへ送り込んだのです。まあ、本人は喜んでいるようでもありましたが、今はシレンティウムで土地を給付されて農業をやっていると便りが来ました」

「何と…シレンティウムに?」


カッシウスが驚きの声を上げる。


 元来市民派貴族は貴族派貴族のように領地を持っていない。

 市井にて生業を持っている者がほとんどで、農業を始めとする労働を厭わないのだ。

 身分は貴族であっても市民と同じ生活をする者達こそが、市民派貴族であり、発祥を忘れないために領地授与を辞退したという名誉ある歴史を誇っているのである。

 実際、クィンキナトゥス家は農業が生業であった。

 領地経営とは異なり実際に作物を植え、育て、収穫する農業そのものを行って糧を得ており、人を雇って大規模農園の経営を行っているものの、自らも鍬や鎌を持つクィンキナトゥスの男達。

 それが市民派貴族の生き方でもある。

 失われて久しいが、元来市民派貴族は平時は市井に、戦時は軍に、余裕があれば政務に励め、というのが信条。

 最近は貴族派貴族の横暴に嫌気が差して、議員として出仕している者も今ここに居るだけと政治的には非常に勢力を落としてはいるが、帝都には未だたくさんの市民派貴族達が居住している。


「退役兵とは別に市民派貴族達にも私たちが呼びかけましょう。“戦時は軍に”今こそ果たすべき時です」


 息子の言葉を満足そうな笑顔で聞きながら、議長が口を開いた。


「では、辺境護民官殿に一時的な越境権限を与える案、賛成の者」


「賛成致します」

「私も」

「もちろん賛成です」


 次々に賛意を示す議員達。

 全員が賛意を示したことを確認すると、議長であるクィンキナトゥス老が決を取る。


「賛成多数で可決じゃ!では、グナエウスめに至急知らせを…といってもどうするか?伝送石が置いてあるのはこの部屋では無い」


 首を捻る議長にカッシウスが口を開いた。


「……この控え室には伝声管が厨房まで繋がっています…料理人達は信用出来ます」

「……ほう、しかし厨房か、なるほどそこなら制圧もされてはおるまいが、万が一ということもある」


 元老院議場では控え室で元老院議員や皇族、貴族に食事や飲み物を提供する事がある。

 腕前もさることながら、どの派閥の者にも属さない皇帝に忠実な者が一応雇われている。

 しかし、間者が紛れ込んでいないとは限らないし、制圧されてしまっていたり見張られていては元も子もない。


「…では…こうしましょう。古典的ではありますが…」


 クィンキナトゥス卿の提案に全員が唸った。


「今考えられる最善はそれしかありませんか…幸い部屋の中に入って監視している組合員は居ない」

「…では」

「うむ」





「どうも、元老院厨房です~」

「なっ何だ貴様ら?」


 突如現れた調理人達に面食らう組合員達であったが、すぐに気を取り直して誰何の声を上げる。


「何だ、何の用件だ!」

「はあ、元老院厨房です。元老院議員の皆様の依頼でパンを持って参りました」


 調理人頭の若い女が小首を傾げながら答えると、組合員の顔が険しくなる。


「どうやって注文したんだ?」

「え、元老院にはどこでも伝声管がありますが…」


 さも当然と言った風情で答える調理人頭に、組合員の顔が一層険しくなった。


「…ふん、なるほど、伝声管ね…おい、お前工具を取ってこい、伝声管を取り外すんだ、それから誰か見繕って厨房の監視も付けろ」

「はい」


 組合員は部下の1人を走らせてから、調理人頭に向き直った。

 怯む調理人頭を余所に憎々しげにつぶやく組合員。


「しかし…人質の分際で生意気な奴らだ。元老院議員ともなればさすが図太いな、まあ、いいだろう、中を見せろ」

「はいどうぞ」


 調理人頭達が差し出したパンの入った籠を検める組合員達はその良い香りに鼻をくすぐられて表情が緩む。


「…普通のパンか」

「はい~」


 組合員はそう言いつつ籠を眺め回し、それぞれの籠から数個ずつパンを取り上げた。


「あっ?」

「文句は無いだろう」

「は、はい…」


 悲鳴を上げた調理人頭を恫喝し、組合員は更に怯んだ彼女を見ていやらしい笑みを浮かべた。


「いいぞ、入れ」




 恐る恐る部屋へと入った元老院厨房の面々は、顔なじみである元老院議長の顔を見てようやくほっと一息ついた。


「待っとったぞ、ではこちらへ来るのだ」


 しかし議長はせわしなく調理人頭を手招きすると、調理人頭の差し出したパンの籠には見向きもせず、後について来ていた調理人達に服を脱ぐよう指示を出す。


「あ、あの…パンは?」

「あとだ、先に服を替えろ」

「は、はい…?え?なんですこれ?」


 戸惑う調理人達を余所に、元老院議員の内、やって来た調理人達に背格好の似た者達が選び出されて服を交換してゆく。


「奴らと話したのは誰か?」

「わ、私ですが…?」


調理人頭が答えると、何時も豪放な議長らしからぬ小声で囁いてきた。


「お主は戻って貰う、後の者は服を交換したな、では行けっ」

「あのひょっとして…」

「そうだ、脱出を手伝って貰う」

「ええっ!」




「お…お邪魔しました~」


 恐る恐る空の籠を持って部屋から出てきた調理人頭に、組合員が無愛想に声を掛けた。


「……おい」

「ひいえっ」


 飛び上がる料理人頭の様子に眉を顰めはしたものの、それ以上の反応は示さず組合員が言葉を発する。


「後で俺たちのパンも持ってこい」

「は、はい…」


 ほっと胸をなで下ろした料理人頭に、別の組合員からも声が飛んだ。


「なるべく早めに持ってこい」

「わ、分かりました~」




 調理人頭を先頭に元老院議場の廊下を急ぐクィンキナトゥス卿ら元老院の面々は何時もの楕円長衣では無く簡素な料理人用の貫頭衣に白いエプロンを着け、空の籠を手に、調理帽を深く被っている。

 途中、伝声管を解体か破壊かする為だろう、工具を持った組合員と行き違ったが、特に誰何されることも無く、一同はほっと小さなため息を吐く。


「伝送石通信室は…この向こう側だが…」

「いや、いきなり行っても見張りに怪しまれる、伝送石は当然抑押さえてあるだろうからな…ただし西方郵便協会のことだから監視は許しても制圧はされていないはず。伝送石通信室へもパンを持っていこう」


 直接伝送石通信室へ向かおうとする議員の1人を制止し、クィンキナトゥス卿はそう言うと、調理人頭に再び声を掛けた。


「すまんが頼むぞ」

「またですか~はあ…怖いです~」




 一旦厨房へ戻り、新しいパンを籠へ補充した調理人頭とクィンキナトゥス卿らは、伝送石のある西方郵便協会元老院分室へと向かった。


「げ、元老院厨房です~パンをお届けに参りました~」

「…何だ貴様ら」

「あ、あの、あの、元老院厨房です~」

「だから何だ?」


 組合員から凄まれ、半泣きになる調理人頭は、それでも何とかパンの籠を差し出しつつ説明を試みる。


「ええと、その…西方郵便協会の皆様から依頼を受けまして~」

「………」

「あぁん」


 籠を覗き込み、ひょいとパンを持っていく組合員に、調理人頭が悲鳴じみた声を上げるが、ぎろりと一睨みされて慌てて下を向いて黙りこむ。

 そうして下を向いている調理人頭の頭の上からもぐもぐとパンを食べる音と共に、声が降ってきた。


「…普通のパンか、入っていいぞ」

「は、はい~」


 慌ててクィンキナトゥスらを連れて西方郵便協会の管轄している伝送石通信室へと入った調理人頭は空元気を出して声を掛ける。


「元老院厨房です~パンをお届けに参りました~」


 軟禁されていたはずが、突如現れた元老院厨房の面々に驚く西方郵便協会元老院分室の協会員達は、がたがたと思わず席から立ち上がって問い掛けた。


「な、何だ何だ?いきなり何言ってるんだ?」

「頼んでないぞ?」

「一体何事だい?」


 色々ありすぎて涙目の調理人頭の両肩を持って後ろへと下げると、目深く被っていた帽子を取り、クィンキナトゥス卿がエプロンの下から元老院議長の署名がある公式な書式で書かれた書類を取り出し口を開く。


「話は後だ、この元老院文書をシレンティウムへ送ってくれ」

「…クィンキナトゥス卿…」


 その顔を見た協会員がちらりと外を見た後、少し考えてから答えた。

 クィンキナトゥス卿が差し出した書類は書式こそ整ってはいるが、どう見てもテーブルクロスを切り取った物。

 今自分達が理由も告げられず軟禁状態にある事と関わりがあるのだろう。


「なるほど、了解しました。本来であれば政治不介入の我々ですが、手紙の伝送石通信と言うことであればお受け致します。コロニア・メリディエト経由になりますので、時間が掛かることはご承知おき下さい」

「無論承知している」


 協会員に書類を手渡しながら、クィンキナトゥス卿は笑顔で答えるのだった。



 元老院議場


 譲位を迫るルシーリウス卿にマグヌスは徐に口を開いた。


「皇帝位は副皇帝ユリアヌスに譲る」

「なっ!?」

「聞こえぬか?ならばもう一度言おう、皇帝位は副皇帝ユリアヌスに譲る」

「…人の話を聞いておられないのか?私はグラティウス大公へと…」


 マグヌスのきっぱりした言葉に、顔を赤く怒らせつつルシーリウス卿がその怒りを押し殺して話しかけるが、マグヌスが再び口にした言葉はその意に反していた。


「帝位はユリアヌスに譲る」

「ぐっ、この……!」

「ユリアヌスに譲る!」

「こ…皇帝陛下は乱心された!故に執務室で保護差し上げよ!」


 堪りかねたルシーリウス卿の命令でたちまち恐れを知らない闇の組合員達が皇帝であるマグヌスを乱暴に立たせた。


「次期皇帝はユリアヌスである!」

「うぬっ」


 元老院議場からもう一度、マグヌスが念を押すかのように強い口調で言うと、ルシーリウス卿は顔をしかめてうなり声を上げる。

 マグヌスが退出してしまった元老院議場で、ルシーリウス卿は腹立たしさを押さえるかのように矢継ぎ早に議案を提出し、茶番劇を繰り返すことにした。

 皇帝がいなくとも政務官の役職については元老院で決めることが出来る為だ。


「では、まず今後の帝国の体制を形作ろうと思う。私ことルシーリウスを皇帝補佐に、タルニウス卿を執政官に、プルトゥス卿を財務官に、我が息子ヴァンデウスを総司令官に据えて体制を整える!賛同の者は拍手せよ!」


 一斉に湧き起こる拍手による承認。

 満足げなルシーリウス卿は、有り難うと礼を言いつつ次いで指示を出す。


「では、シルーハとの講和交渉を始めよう…帝国軍の現状を見るに講和以外に道は無い。領土は奪われても取り戻せるが、今シルーハに対抗出来る術が無いのは明白だ。このままでは帝都が戦火に見舞われてしまう!私たちは帝都を戦火から守らなければいけない!おそらく、シルーハの望みは交易路の確保、ポウトゥルス・リーメスとコロニア・リーメシア及びリーメシア州を割譲することになろうかと思うが…今は耐える他無い、しかしいずれは取り戻す!!」


シルーハとに事前交渉でリーメシア州の割譲は含まれており、それを知っているが故の白々しい台詞ではあったが、帝都市民や軍閥への言い訳としては一応筋が通る。

 そもそも動かそうにも軍が無いのだ。

 南方戦線の収拾には今しばらく時間が掛かる上に海上の軍をすぐに呼び戻すことも出来ない。

 マグヌスの指示した通り退役兵の召集以外に急遽確保出来る兵は帝国に無く、後は西方諸国や北の蛮族から傭兵を呼ぶ程度。

 しかし西方諸国は遠く、北の蛮族は辺境護民官が押さえてしまった。

 貴族派貴族の領地に私兵は多数いるが、帝都に近い領土を持つ私兵は既に帝都を押さえるのに召集してしまっており、シルーハにぶつける軍は存在しない。


 南方戦線で軍を拘束するよう頼みはしたが、あそこまで完膚無きまでに叩かれるとは想定しておらず、シルーハの動向に一抹の不安もあるものの今は既定方針通りにシルーハと交渉する他無い。

 ルシーリウス卿は使節団を派遣すべく人員の選定を行いつつ、今後の展望を考えるのであった。


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