第16章 戦乱の風 シルーハ蠢動篇(その2)
東照帝国西域州・塩畔、西方府庁舎
「同盟やと?」
「そうです」
素っ頓狂な声を出した黎盛行に、浅黒い肌に白い長衣を纏ったシルーハの使者は迫力ある笑顔で答えた。
頭に布を巻き、口と顎に黒々とした髭をたっぷり蓄えた壮年の使者。
赤い前袷の東照服を身に纏った黎盛行とは対照的なその体付きや衣服は、旅塵にまみれてはいたが強靱さを感じさせる。
しかしその威迫に影響されること無く、いささか無礼なその答え方に腹を立てた黎盛行が珍しく怒気を含んだ声を出す。
「……冗談も大概にせい」
「冗談ではありません。但し、その際はここ西方府とシレンティウム同盟の関係を見直して頂かなくてはなりませんが」
しかし使者は黎盛行の怒気を意に介さず、笑顔のまま言葉を継ぐ。
その言葉を受けて黎盛行に冷静さが戻った。
「ほう…何か、それじゃあシルーハは西方帝国を攻めるか?」
「まだ何とも申し上げられませんが…とにかく、西方府にはシレンティウムを牽制して頂きたい。大国東照のこと、3万や4万の兵はすぐに集められましょう」
「ふうむ、見返りは何じゃ?」
自分の要求に応じる素振りを見せる黎盛行に、シルーハの使者は一層笑顔を深くして口を開く。
「我がシルーハとの交易再開とシレンティウム同盟の支配する土地の切り取り勝手次第」
「ほう、それは豪儀じゃな!」
「いえ、ほんのささやかなお礼で御座います」
使者の言葉に目を丸くする黎盛行であったが、目は一切笑っていない。
それはシルーハの使者も同じで、笑顔のまま冷めた目で黎盛行の目を見つめつつ言葉を返した。
そもそも食糧の禁輸措置等の交易断交をしかけたのはシルーハであり、またその原因となった交易品の利益配分を着服していたのもシルーハ側であることを考えれば、余りに虫の良すぎる条件であった。
それに、全くシルーハの影響下に無いシレンティウム同盟の支配地を占拠してもよいというのは条件ですら無い。
占領地の分け取り交渉では無いのだ。
ただ、シレンティウムと行っている交易をシルーハに戻すと言うだけの話で、シルーハにとって利が有るものの、東照にとっては何の得も無いどころか、むしろ以前の食糧供給という弱みを握られた交易に戻ってしまうのでは不利益ですらある。
しかし、ここで馬鹿にしていると使者を追い返すのは簡単だが、その様な好い加減な交渉材料でわざわざ険悪になっている東照まで使者を寄越すシルーハの意図を掴みたい黎盛行はとぼけることにした。
黎盛行はわざとその答えに若干躊躇する素振りを見せ、背もたれに身体を預けると、唸りながら言葉を発する。
「ううむ、そうじゃなあ…すぐに返答は無理じゃ。本国にも諮らねばならんからのう」
「そうですか…どのくらいお待ち致しましょう?」
「何と…ここで待つ気か?」
「はい、何としても黎都督にはうんと言って頂かなくてはなりませんので」
きらりと使者の目が鋭く光ったのを、黎盛行は見逃さなかったが、素知らぬふりで言葉を返した。
「うむ、分かった、3週間程度待ってくれるか?本国からの返答も少なくともそれ位はかかるのでなあ」
「…分かりました、では私は塩畔の旅館におりますので、お声を掛けて下さりませ」
「うむ、誰ぞ呼びにやらせよう」
使者の声に鷹揚に頷く黎盛行。
使者もそれでようやく納得したのか引き下がる意思を示した。
「はい、では、くれぐれも宜しくお願い致します…」
使者はそう言いつつ、配下の者達を呼び、黎盛行の前に大きな箱を置いた。
恭しく使者の配下がそれを開くと、輝く砂金が箱一杯に詰められていた。
「…なんじゃいそれは?」
「お礼、で御座います」
「…ほうか、ほんじゃま貰うとくか、おい、誰か居らんか」
にんまり笑みを浮かべ、黎盛行は代わりの土産を手配するべく役人を呼び寄せるのだった。
「ダメじゃ、本国に諮るまでも無い、一時は自分達の都合でワシらの申し入れをけんもほろろに断わりながら、交易交渉を強引に打ち切って恫喝し、しゃあないからワシらがシレンティウムと仲良うし始めたら食糧を一切寄越さんようになった連中じゃ。あの南の悪タレ共がワシらを老いた国と舐めてくさりおる、目にもの見せてくれるわ!」
使者が部屋から出た途端、癇癪を起こしたかのように黎盛行がいきり立つ。
「それで…如何致しますか?」
「ああん、決まっとろうが!シレンティウムの介大成に至急知らせてやれ、シルーハは帝国を攻める意思あり、最早準備を進めておる、とな」
余程腹に据えかねたのだろう、役人の言葉に黎盛行は眦をつり上げて指示を出す。
「使者は如何しますか?」
また別の役人がお伺いを立てると黎盛行は即座に言葉を返した。
「おう、監視を付けて足止めしておけ、ほれから交渉に応じてるという格好だけやっとくんじゃ。誰ぞ使うて騎馬で早馬飛ばしたように見せかけい!集めた兵はなるべく目立たせよ、ワシがシルーハとの同盟に乗り気やと思わせるんじゃぞ」
「しかし、帝国が敗れた場合は新たな火種となります、ここは勝ち馬に乗っておいた方が良いのでは?」
更に別の役人が意見を述べると、黎盛行は呆れかえった表情で天を仰いだ後、その役人に怒声を浴びせた。
「お前はあほか!シルーハが求めとるのは、切り取り次第とか言いながらシレンティウム同盟を攻める事じゃろ。お前、北方軍団兵とあの辺境護民官をまともに相手して土地を切り取れるとでも思うんか?逆にワシらがやられるんが落ちじゃい…そもそもシレンティウムには恩も義理もあろうがい、あんな気持ちのええ連中敵に回す意味が分からんわ!」
「…はあ、しかし…」
言い淀む役人に、黎盛行は歯がみしながら言葉を被せる。
「大体が切り取りなんぞ土台無理じゃ、そもそもワシら兵を集めてせいぜい4万、シレンティウム同盟は10万超えるぞ?シルーハのあほ共それを分かってふっかけてきよったんじゃ、これは端っからワシらが断るのを見越しておるんじゃ!」
「では?」
最初に声を掛けた役人が指示された介大成への書を認め終えて尋ねると、黎盛行は凄みのある笑みをその顔に浮かべた。
「决っとる!シルーハがやりたいのは背後の安定のための単なる時間稼ぎじゃい。ワシらがもし色気を出してシルーハへ兵を動かしたら、あやつらおちおち帝国を攻められん。ワシらはたった4万とは言え、本国を空にするシルーハにとっては面倒な兵数じゃわい。ワシらに東照本国へお伺いを立てさせたり、迷わせたりして釘付けにしときたいんじゃろうが、その手は食わんぞ!ここ数年来の恨み、晴らしてくれる」
帝国新領ク州・秋留村、秋瑠源継屋敷
早朝、秋瑠源継が目を覚ました。
とは言っても、普段通りの起床ではなく、夜番の剣士が源継の部屋を訪れたからである。
その前から人の気配を感じ、自然と目を覚ました源継に剣士が驚くべき報告をする。
「…分かった、すぐ行く、お前は屋敷の者を全員起こし、それが済んだら村の者達を起こしに行け」
黙って頭を下げる剣士が立ち去ると同時に布団から出た源継は、素早く寝間着から羽織袴の普段着へと着替えると、枕元に置いてあった刀を腰に差し玄関へと向かった。
源継が玄関に到着すると、果たしてそこには多数の傷付いた帝国兵達が屯していた。
「これは……!」
「村長殿か、申し訳ないがしばらく兵士を休息させたい、空けて貰える建物は無いか?」
驚く源継に、将官と思しき者がかすれた声を掛けてきた。
見れば顔の半分に血と泥にまみれた包帯を巻き、片腕を失っている。
しかしその足取りは確かで、青白い顔色とは酷くちぐはぐな印象を受けた。
「…しばらく待たれよ」
「すまん、私は帝国軍第17軍団の軍団長を務めていたプリムス・ラベリウスという者だ…船が難破してこの先の海岸へ流れ着いたのだ、面倒を掛ける」
源継は黙って頷くとふらついたラベリウスの肩を支え、屋敷の広間へと案内することにした。
後の兵士達は村の集会場となっている建物へ収容すれば良いだろう。
慌てて起きてきた家人達に水と湯、薬草の用意を命じ、更には風呂を至急沸かすように伝える。
剣士に起こされた村の者達が押っ取り刀でやってくると、一気に屋敷の周囲は騒がしくなった。
力強くラベリウスを運びながら源継が尋ねる。
「軍団長殿、流れ着いた船は一艘だけじゃろうか?」
「いや…分からない…」
「大氏へ報告して人数を出して貰おうと思うのじゃが、構わぬかな?」
「…宜しく頼む」
源継の言葉に力なく答えるラベリウス、恐らく気力が尽きたのだろう、怪我のせいだろうが、熱もある様子である。
そして広間が見えてきたところで、源継は最後の質問をした。
「…戦は、どうなりましたのじゃ」
「はは、見ての通りだ村長、我々は大敗した。今は残った軍団長3人が踏ん張っているが…何時まで持つか…私は見ての通り役立たずになって後送されたのだ」
自嘲の言葉を最後に、ラベリウスの身体はぐったりと力を失った。
怪我は酷いが処置が適切だったのだろう、腕と目はどうにもならないが、それ程後遺障害はなさそうである。
源継は気を失ってしまったラベリウスを大広間へ横たえると、駆けつけた薬師に治療を命じ、自分は大急ぎで離れの執務室へと向かった。
部屋に到着した源継は筆と紙を取り出し、手早く手紙をしたため始める。
そしてその途中でひゅっと指笛を鳴らした。
「お呼びですか、当代」
現われた陰者に僅かな時間で書き上げた書状を手渡し、源継が焦りを含んだ声で用件を告げる。
「急ぎだ、晴義と楓の元へこの手紙を届けよ。取り敢えず伝送石通信にて送った後で構わん、とにかく急げ」
「…承知」
すっと闇の中へ消えた陰者を見送り、源継はため息をついた。
「全く、どうしてこう難題ばかりがやってくるのか…」
そして源継は帝国貴族でもある大氏の秋都家へ、応援を要請する手紙を書き始めるのだった。
帝国領西方・アルテア市、海軍基地
西方の文明が発祥した西方大陸の中心都市であるアルテアは、神話にも登場する古い歴史を誇る街である。
西方大陸の西岸から移ってきた西方諸国人がまず最初に開いた街で、その後セトリア内海沿岸の西方諸国人都市の母都市となったが、約百年前に帝国に覇権戦争で敗れてその支配下に入った。
しかしかつての中心都市であった頃の繁栄と栄光は未だ失われてはおらず、セトリア内海沿岸でも帝都に次ぐ第2の都市として重きを置かれている。
街並みは淡い黄みを帯びた大理石を建材としていることもあり、元来が海に開かれた街でもあるので、雰囲気は非常に明るい。
西方諸都市の特徴を色濃く持っている宗教施設や公共施設も多いが、帝国時代に入ってから整備された街路や街道、水道などの基盤設備が上手く融合する非常に住み心地の良い街。
住み暮す市民達も顔かたちは帝国人とほぼ変わらない西方諸国人が大半であることもあって、帝国人にとっても非常に居心地の良い街であるのだ。
からりと乾燥した地帯である為人の気質もそれに似てさっぱりとしたものである。
「どうだ修理は?」
「はい、順調です副皇帝陛下」
西艦隊とユリアヌス率いる遊撃艦隊は海賊集団相手に図らずも挟み撃ちの形となり、混乱した海賊達を討ち破って大勝した。
そして掃討作戦も一段落付き、西海域の海賊討伐を完了したユリアヌスは2つの艦隊を合流させ、補給と整備のためにひとまず最寄りの都市アルテアへ立ち寄ることとしたのである。
昔から海上交易の中心都市として、またセトリア内海沿岸の西方諸国人都市の母都市として移民団を送り出して繁栄してきた歴史がある為、造船や操船については他の都市より一日の長があるアルテア市。
急遽入港したユリアヌス率いる帝国艦隊の大量の戦艦にも動じること無く、アルテア市の行政府はただちに停泊場所の指定と造船工場の斡旋を行ってきた。
「では後は頼む」
「はっ」
ユリアヌスは艦長達に修理の監督を任せ、自分はアルテア市の市庁舎へと向かうことにした。
そこには少ないながらも海賊達が逮捕されて収容されており、現在ユリアヌスの部下となった海軍兵士達が尋問を行っている。
既にウィオレンス上級総督と海賊達の繋がりは明らかとなっていたが、ユリアヌスとしては何としても貴族派貴族による不法行為を立証したかったし、他に海賊仲間や関係している者達が居るかどうかについても重要であったのだ。
アルテア市、市庁舎・治安官吏詰所
「おい!どうなんだっ!」
「……ふん、今更何を言えって?」
「お前らがどうしてここまででかくなったのかだ」
「…知らない」
「貴様…!」
詰所の取り調べ専用室では、海軍兵士の将官が海賊と思しき男と埒のあかない遣り取りを繰り返していた。
ユリアヌスが覗くのも気付かず、頭へ血を上らせている海軍将官。
ユリアヌスはその肩に手を置くと、驚く海軍将官を余所に身体のあちこちに包帯を巻いている男へ質問を投げかける。
「では質問を変えよう…お前ら、どこに略奪品を下ろしていた?」
「………」
ふて腐れたままの男に、海軍将官の額に再び青筋が浮き出るが、ユリアヌスは怒鳴りつけようとするのを制止し、質問を重ねた。
「ジード市じゃ無いか?経理担当官吏カルトス、官吏は辞めたのか?」
「!?」
名前を呼ばれ、驚愕する海賊を見るユリアヌスの顔は極めて平静で、静かな口調も変わらない、しかし、凄みを増したその視線に海賊が思わず居住いをただした。
「カルトス、お前らが略奪した品は帝国の輸送船に似せた貴様らの船でジード自由市に下ろし、そこからシルーハを経由して売りさばかれていた…違うか?」
「……」
今度は黙りを決め込んだのか口を割らないカルトスに、ユリアヌスは一旦ため息をはいて離れると専用室の外でわざと聞こえるような声で言う。
「…まあ、元官吏とは言え拷問でもするか…何れ苦しんで死ぬんだ、ちょっとぐらい構わないだろう」
「はっ、では…」
「ああ、準備しろ」
「わ、分かった、言う、話す、だから…」
部屋の外での会話に怖気を震っていたカルトスが遂に海軍将官へ情けなく訴える。
生来の無頼や悪漢では無いのだ。
元は善良な官吏として働いていた男に、拷問に耐えられるだけの胆力は無いと見切ったユリアヌスの口先だけの脅しであったが、作戦が見事に嵌まった。
笑いながら作戦に乗った海軍兵士を外に置いたまま、ユリアヌスが部屋へと戻ってきた。
「お前は経理担当だっただろう?何故そんな者が海賊にいるのか不思議だが…海賊をやっていたにしては体付きも華奢だしな」
ユリアヌスがカルトスの顔を不思議そうに見て、その後ペンだこと身体の細さや日焼けしていない肌を示しながら言うと、カルトスはがっくりとうなだれた。
「…まさか殿下が私の事を覚えていらっしゃるとは…」
カルトスが観念したとみたユリアヌスが質問を開始した。
「で、何故海賊に居る?」
「…最初は割の良い仕事だと紹介されました。それが海賊の略奪品の計算や集計だと分かったのはしばらくしてからです…家族も居ましたし、お金の払いは良かったのでとても辞められませんでした」
「ちなみに何故官吏をクビになった?」
「…帳簿の不備を指摘したんです。そしたらそれが貴族の横領したお金の分で、私は罪を着せられた上にその帳簿を持たされてクビになりました」
思わずため息が出るユリアヌス。
帝国は優秀な経理官吏をまたもや貴族の横暴と不正で失っていたのである。
今回は更に悪いことにその優秀な人材が敵側に流出してしまっていた。
「…そうか、それで海賊の経理係をやっていたのか」
「はい、殿下の仰るとおり、私は海賊の略奪品を集計して船積みを監督し、それをジード自由市でシルーハ側へ引き渡すのが仕事だったのです。最初は集計だけでしたが、しばらくして真面目な仕事ぶりが認められまして…他にも私のような境遇の元官吏や商人、市民はたくさん海賊で働いていました。私はその統括も任されました」
「………」
「そうか…」
元官吏カルトスの台詞に言葉の無い海軍将官とユリアヌス。
元官吏が理の通らない理由で罷免され、生活のために悪の道へと誘われた。
それが悪と分かっていても生活のために、家族のために逃れでる事の出来なかった元官吏カルトス。
悪に付き悪のために働いていながら前面で悪事を働くわけでは無いために感覚が麻痺してしまっている事もあるだろう。
そして本来帝国で発揮されるべき経理能力が海賊集団という無頼集団で十分以上に通用してしまったという皮肉。
このまま貴族の横暴を許して帝国の腐敗が進めば、今後カルトスのような者はもっと増えるのは間違いない。
しかしカルトスは、ユリアヌスの葛藤を余所に俯き加減で淡々と話を続ける。
「私はその他にもシルーハ側から情報を貰い、その情報を海賊に伝えたり、シルーハからの依頼を伝える役目も負っていました。普段はここアルテアか、ペルオンに居ることが多かったのです……後で事務所の場所も話します」
「分かった…しかし、何故今回は海賊達と一緒に居た?」
「シルーハ側からの依頼を海賊へ伝えたところで、帝国の艦隊が来てしまいまして…そのまま出港してしまったんです」
はあっとため息をつくカルトスにユリアヌスが質問を重ねる。
「依頼か…その内容は後で聞くとして、他の海賊達もジードに来ていたか?」
「来ていました。島のオラン人や北の海賊、東や南の海賊もジード市でいろんな取引をしていました。私たちと同じようにシルーハと繋がっているのも間違い無いと思います」
「壮観だな…反帝国海洋勢力結集か…」
再び出た大きな話に、ユリアヌスはため息を漏らした。
しかも裏で糸を引いているのはシルーハ王国だという。
「他に噂話や知っていることは無いか?」
「シルーハと帝国の貴族が繋がっている、だから帝国海軍の情報がシルーハや私たち海賊に筒抜けなんだ、という話を聞いたことがあります。実際、私も何度か海賊の船に乗っていますが…帝国海軍に会うのは今回が初めてです」
それは帝国海軍上級提督のウィオレンスが情報を流していた事を把握しているユリアヌス自身が一番よく知っている。
カルトスの話で事実確認がこれで出来たわけだ。
「では依頼内容について話せ」
「……シルーハから急に頼まれました。西で暴れて帝国の海軍を引付けてくれと…今回は南の海賊達も少なからず参加していましたし、島のオラン人や北の海賊も同じ依頼をそれぞれされていたようです」
「何故だ?」
「分かりません、そこまでは…」
カルトスがそう言った時、海軍将官が駆け込んできた。
「副皇帝陛下…!」
「どうした?」
「とにかくこちらへ」
訝るユリアヌスに、海軍将官は焦った様子で専用室の外へと誘う。
ユリアヌスが怪訝な表情のまま専用室から出てその海軍将官に誘われるまま、詰所の奥へ向かうと、その海軍将官は周囲を見回して他に自分達の会話を聞ける者がいないことを確かめると、息せき切って話し始めた。
「帝国軍南方派遣軍が壊滅しましたっ…」
「なに!?」
「文字通りの大敗だそうですっ」
「しまった、これかっ!?」