落ちたのは橋の下
前々から作り終えてたので投稿しときます
作成者 妄無
懐かしい地元に何も言わずに帰り、強い風の中、橋の上に立っていた。
あれからどれくらい月日が経っただろうか。気がつけば会社員で、ずっとずっと耐え続けていた。でも、もしかしたら耐えてはないのかもしれない。なんの取り柄もなく、何もできない自分を意味もなく恨み続けている自分に、何をしても何も変えられない自分に、もう吐き気がする。
「今ならわかるかもな。」
そう呟き、冷たい雨が降っている空を見上げ、忘れたくない記憶を思い返す。
放課後、僕は橋の近くにある公園に来ていた。川があり、広い草原があり、遊具がある、いい公園だ。僕はいつも通り、そこであの子を待っていると、しばらくしてあの子が来た。
「ごめん、待った?」
と、あの子は言った。その言葉に僕は、「ぜんぜん大丈夫。」と答えた。いつもあの子は居残りがあるのだ。その後は遊具で遊んだり、走り回ったり、草原で寝転がったり、いろいろするけど、気がついたら時が過ぎていて、最後は橋の下で二人で夕日を眺める。そんな毎日を続けていた。
でも、なぜかあの子の顔だけはわからなかった。同じクラスで、いつも話しているのに、顔を見ているのに、記憶には残らなかった。まるで靄がかかっているかのように。
そして、いつしかあの子は来なくなっていった。一人、橋の下で夕日を眺める日々が続いていた。
時が経ち、久しぶりにあの子が来た。
「ごめん、あんまり来れなくて。」
あの子はそう言った。良かった、いつも通りのあの子だ。
「ぜんぜん大丈夫。」
と、いつも通り答えた。一瞬、あの子の表情が曇ったが、怖くて問えなかった。それからいつも通り遊んでいる時にも、どこか儚げな表情をして、ぼーっとしていた。でも気にしなかった。その、いつも通りではない行動に。
そうして遊び、僕らは橋の上に来た。
「なんで橋の上なの?」
と、僕は聞いた。あの子は少し待って言った。
「私ね、☓のうと思うの。」
彼女のその言葉は、僕の体を固まらせるのに十分すぎた。
「私、自分が大嫌い。もう疲れたの。いっつも、いっつもやろうとしても、何もできない自分が。」
そう、固まっている僕に、彼女は言葉を続ける。僕は何も言えなかった。
「ありがとう。そして、ごめんね。」
最後に見せた彼女の顔は、霧で見れなかった。
「☓☓☓☓。」
最後の言葉はよく聞こえなかったが、気がつけば彼女は僕の視界からいなくなっていた。橋の下を見ると、誰かが倒れているのが見える。白昼夢を見ている気がした。でも、川に流されている赤い液体が、それを現実だと物語っていて、気がつけば冷たい雨が僕を襲ってきた。けど僕は、何もできずに立ち尽くしていた。
次の日、学校に行くと、彼女の机の上に一つの花が置いてあった。置いてあっただけだが、その花は確実に彼女の死を表していた。彼女が落ちたのは、橋の下だった。
あれから時がたって、気づけば自分は会社員になっていた。あれがあってからの記憶は、雨の日しかない気がする。そういえば今日は、彼女の命日だ。
雨が降っている外を見たあと、準備をする。歩いて電車に乗り、あの場所へ帰ってきた。あまり変わっていない町並みを見て懐かしみつつ、歩き出す。しばらく歩くと、通っていた小学校が見えた。放課後なのか、グラウンドで小学生が遊んでいる。すると五時のチャイムが鳴った。みんなそのチャイムを聞くと、一斉に帰り始めた。そんな時期もあったな、と思いつつ、また歩き始める。
少しすると、いつも遊んでいたあの公園が見えて、橋も見えた。橋へと歩を進め、橋の上であの子を思い出した。
あれからどれくらい月日が経っただろうか。気がつけば会社員で、ずっとずっと耐え続けていた。でも、もしかしたら耐えてはないのかもしれない。なんの取り柄もなく、何もできない自分を意味もなく恨み続けている自分に、何をしても変われない自分に、もう吐き気がする。
「今ならわかるかもな。」
そう呟き、冷たい雨が降っている空を見上げた。
そうして前を向いて、橋の下を見ずに落ちる。走馬灯を見る。走馬灯は、あの子のことしかなかった。楽しかった、あの子との思い出。でも、だんだん楽しくなくなっていった。
あの日の思い出が出てきた。その瞬間、自分の中の霧が晴れ、夕日に照らされた彼女の笑顔と、彼女の言葉を、はっきりと思い出せた。
「ばいばい。」
最後に見えた夕日は、美しかった。
「何か思い出せそうですか?」
「……何も……。」
医者からかけられた質問に、俺はそう返すしかなかった。
「そうですか……。記憶喪失ですね。記憶が戻るよう、努力しましょう。」
医者はそう言い、席を立ち去っていく。窓の外を見ると、外は大雨だった。
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