守らせてくれ
今夜、静寂は破られる。
そしてアルトの“何か”が、少しだけ明らかに――。
辺りは真っ暗になり、何処に何があるのか分からなかった。躓けば危ない――そう思い、灯が再び点くまで慎重に待つ。
アルトの手をギュッと握り、体を少し引き寄せる。彼の手の温もりが、恐怖で震える私の心をわずかに落ち着かせた。
その間に、バトラーが蝋燭を探しに行ってくれたらしく、どこからかガサガサと物と物が擦れ合う音が聞こえる。暗がりの中で、その音だけが確かな存在を知らせていた。
――刹那、ガラスが砕けたようなけたたましい音が鳴り響く。背筋が凍るような殺気が辺りを包み込んだ。思わず息を止める。
「アルト……!!」
「下がっていろ!」
アルトは庇うように私の前に立ち、腰に下げていた剣を抜いた。月明かりがようやく差し込み、部屋の一部を青白く照らす。
そこで初めて、窓が突き破られていることに気がついた。風が吹き込み、カーテンがひらひらと揺れる。破れた窓枠の冷たさが、背中にひやりと触れた。
暗闇から、鋭い視線がこちらを見つめてくる。鳥肌が立ち、全身に力が入る。
段々と暗闇に月の光が届き、その人物の姿が浮かび上がった。全身黒一色のローブに、ところどころ紫の刺繍が光る。顔はフードで覆われ、よく見えないが、わずかに覗く瞳は機械のように冷たく、背筋がゾクッとした。
「……暗殺者。」
アルトが息を呑むように呟いた。その声には、普段とは違う含みがあった。
「暗殺者って、どうして…?ねぇ、アルト。アンタって一体何者なの……?」
アルトは一瞬、顔を歪め、言葉を選ぶように口を開けたり閉じたりしている。視線は私に向かず、どこか遠くを見ているようだった。
「シグレ、その事は…あとで必ず話す。だから今は……」
アルトは一歩前に出る。
「……ごめん。今は、守らせてくれ。」
月明かりが雲間から零れる。暗殺者が一瞬、アルトを見つめる。その瞳孔が猫のように細くなる。
――瞬きした隙に、風切り音と共に銀色の刃が迫り、刹那、金属同士が激しくぶつかる。火花が闇を裂いた。
胸の奥が締め付けられるように痛む。アルトの鋭い眼差しと剣の動きに目を奪われ、恐怖と安心が同時に押し寄せる。息を殺して彼の背中を見守るしかない。心臓の鼓動が耳元で響き、身体の震えが止まらない。
私は、手を握ったまま小さく呟く。
「……アルト、お願い……」
アルトは一瞬、私に向かって微かに頷く。その背中の広さと力強さに、言葉では言い表せない安心感を覚える。
暗殺者はまだこちらを見ている。冷たく、機械のように正確な視線で、次の一撃を狙っている。暗殺者の口元が、わずかに歪む。
まるで、この状況を楽しんでいるかのように。
私はその様子に息を呑む。だが、アルトの存在が、どんな恐怖よりも強く私を支えていた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話は、アルトと暗殺者の戦いが本格化します。
バトル描写多めです。
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