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運命はまだ牙を剥いていない

はじめまして。

本作は、未来が少しだけ見える少女がその未来に抗う物語です。

「し…ぐ…、時流…!!」


目が覚める。バイトで疲れた身体は授業中にもかかわらず深い眠りに入っていたようだ。


「まったく、もうお昼休みだよ。さすがに寝すぎ」


友達の美咲が本を使って私の頭を叩いてくる。


「もう起きたよ。…またその本?なんだっけ?レフト…ノーベル?」


と私が言うと美咲はわかりやすいほどのため息をつきながら眉を寄せている。


「ライトノベル!!このやりとり何回目!?ていうかわざとでしょ!」


美咲は反応がいいからついからかってしまう。


「ふふ、ごめんごめん。また異世界転生?」


『異世界転生』流行っているらしいが、正直なんのことだかさっぱりである。


「ふふん、今回は『異世界召喚』異世界転生とは違ってそのままの身体が異世界に転送されるって感じかな」


きらりーんといった擬音がつきそうなほどのドヤ顔でこちらを見つめてくる。


「時流は読まないの?ライトノベル。面白いのに」


美咲はこう言ってたまに勧めてくる。本人は布教活動などと言っていた。この布教活動は私だけではなく友達全員に行っているようだが成功率は40%とまずまずのようだ。


「私はそういうのいっかな。本読むの好きじゃないし」


そう聞くと美咲はえーっと不貞腐れる。本を読むのは苦手だ。文字を見続けるのは疲れる。


そういえば今日は部活があった。幽霊部員ではあるがたまには顔を出さないと退部にされかねない。


 帰りが遅くなってしまった。まさかここまで長引くとは誰だって思わない。辺りは真っ暗である。少し早足で帰り道を歩く。


「お母さん、心配してるかなぁ…」


などとポツリと空気とともに吐き出す。瞬間目の前が唐突に眩しくなった。思わず両目とも強く瞑ってしまうほどである。


突然の光に戸惑い落ち着かせるために大きく息を吸う。吐く。


何度か繰り返しているうちに光に慣れてきたのか先ほどまでの眩しさはなくなっていた。ゆっくりと目を開ける――


 ――目の前で馬車が通った。ガシャ、ガシャっと車輪と地面のレンガが擦れ合う音が耳に届く。辺りを見回す。


中世ヨーロッパらしい雰囲気を出している街だ。周りには見慣れない服を着た人や毛むくじゃらの猫や犬が2本足で立って人の言葉を話している。

さっきまでの暗闇が嘘のような快晴である。


私は察した。


「これが異世界召喚ってやつか」


 走る。帰り道を探しているのだ。こんなどこかも分からない土地で生きていくなど不可能だ。何とかして元の世界に帰らなければ何が起きるかわかったものではない。


レンガの段差に躓く。そのまま倒れ、膝を擦りむいてしまった。


「痛っ…」


涙と血がじんわりとにじむ。こんなことならライトノベルを読んどけばよかったと少しだけ後悔した。


ふと路地の方に視線が移った。誰かいる。ローブを着ていて、フードを被っていたから顔は見えない。ローブの縁には淡い色のふわふわとしたファーがあしらわれているのが特徴的であった。


不思議に思いよく見るとローブの間から血が流れていた。こちらに背を向けうずくまり壁に手をついている。


「大丈夫…かな…?」


思わずこぼれた。しかしまずは自分の身の安全を確保することが重要。他人など二の次だ。それに私が行っても助けれることはないだろう。迷惑をかけてしまう可能性のほうが高い。


通り過ぎた。忘れようと頭を左右に振る。だが先ほどの人物の姿が頭から離れない。歯をぐっと食いしばった。


 来た道を駆け足で戻っていく。運動し慣れていない身体は少し走っただけで息が荒くなった。


走り疲れ半ば足を引きずりながら戻った。路地には先ほどのローブの人物がさらに体調悪そうに体を丸め咳き込んでいた。慌てて駆け寄る。


「大丈夫…!?」


声を掛けたが返答はない。腹部からの出血があるが傷は浅いのか血は止まっていた。ハンカチを取り出し傷を抑える。


白かったハンカチはすぐに赤く染まった。傷の持ち主はこちらをチラリと見た。ガタガタと身体が震えている。


安心させるために背中を擦る。そして、


「大丈夫だよ、何もしない。大丈夫、大丈夫。ゆっくり息を吸って、そう、そして吐いて。」


できるだけ怖がらせないように優しくゆっくりと話す。落ち着いてきたのかは体の震えは収まっていた。


誰かを呼んで病院とかに連れて行ってもらおうと少し声を張り上げ、


「あの…!!すみませっ――」


制服のジャケットの裾を弱々しく引っ張られた。息を荒げながらローブの人物は言った


「や、めてくれ…大、丈夫、だから…!」


声は小さかったが意思は伝わった。何か事情があるようだ。ただこのまま置いていくのも忍びない。何かできないかと考えていると路地の奥から声がした。


 現れたのはガラの悪い3人組の男たちだった。灰色の髪をした目つきの悪い男がこちらを睨みつけながらニタァっと、歪んだ笑みをしながらこちらに近づいてくる。


「おいおい、何こんなとこで盛っちゃってるわけー?ここは俺の縄張りだ。ここに入っちまった以上入場料を払ってもらわないとなぁ…」


ぐつぐつと喉を鳴らしながら要求してくる。だが私は学校帰りなのだ。金など持っているわけがない。


それに持っていたとしてもこの世界の通貨ではないだろう。そうこうしているうちに取り巻きの1人がいつの間にか私の後ろに立っていた。


ローブの人物はピクリとも動かない。率直に言おう大ピンチだ。


「わ、私お金なんて持ってません…ごめんなさい」


意を決して声を出す。頭を下げながら正直に答えた。だがその答えに男は納得していないようだ。眉を寄せ口を尖らせさらにこちらを睨見つけてきた。


「ならよぉ…身体で払ってもらうしかないよなぁ…!!」


ゆっくりと間を空けながらそういったのも束の間、私の手首をガシッと掴み引っ張る。グッグッと骨が軋む。私は痛みに顔を歪めた。


すると男の視界に跪くローブの人物が目に入ったのだろう。そしてあろうことか頭目掛け唾を吐き出した。


「オメェはいつまでそんなとこで丸まってんだ?

あぁ…?目障りなんだよ。失せろ。」


そう言うと男は足を振り上げローブの人物の腹目掛け蹴り上げようとした。慌てて間に入る。


腹に靴の先端がめり込み、息が抜けた。声が出ないほどの痛みだった。腹の中を突き破られたのではないかと錯覚してしまう。


「カヒュッ…」


喉から音が漏れる。軽く体がふっ飛ばされた。

口からは「あ゙ぁ…」や「うぐっ…」と言ったうめき声しか出ない。


灰色の髪の男は少し驚いた顔をしながらこっちに近づいてくる。終わったと感じた。死という感覚が全身を占拠する。


慣れない痛みに脳は判断能力を失ってしまった。何も考えれない、頭の中は真っ白である。


その瞬間、視界の端が一瞬だけ歪んだ。赤い。血の色なのか、夕焼けなのか分からない赤がノイズみたいに脳内を侵食する。

誰かの背中が見えた気がした。金色の背中だった。


――次の瞬間、悲鳴が聞こえた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

この出会いがどんな運命につながっていくのか。

次話では少しずつ「見えてはいけない未来」に近づいていきます。それから、一章では王選要素が少し薄いです!すみません、2章から本格的に進んでいきます。

よければ、これからもよろしくお願いします。

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