第3話 夢のクルージングは怒号の乱気流に突入 そして永遠の約束を交わす幼い2人
アンナちゃんと一緒のせんべい布団の飛行船はジェットエンジン音とともに静かに離陸した。ゆっくりと高度を上げ、やがて地上の光が遠くなり星の瞬きと区別がつかなくなるように。
水平飛行からしばらくして、隣の部屋から凄まじい怒号が聞こえた。そう乱気流。
「しまった例のアレだ」
ここしばらくなかったのに。そうするとアンナちゃん怯えながら
「怖いよ楓雅くん」
と言うけど、どうしていいか判らない俺。しばらく案じていると、余計隣の部屋から怒号が。今日はアンチコメがひどいんだろう。いつもより怒鳴るの長いし。それにアンナちゃんの怯えが止まらない。俺は意を決して
「アンナちゃんふとんに潜ろう。そして俺にしっかり捕まって離さないで、もうしばらくしたら、嵐も落ち着くと思うよ」
これは根拠もないことだったが、その時の俺が言える精一杯の言葉だった。
アンナちゃんすぐに俺にしがみついたけど、怖いのか力が強かった。俺はそっとアンナちゃんを抱きしめたけど、体の温もりより、恐怖心のほうがひしひしと伝わってきた。
やがて怒号の乱気流は収まり、安心したのかアンナちゃんは夢の水平飛行の旅人になったようだ。アンナちゃんの顔を胸で抱きとめ、そっと頭をなでて俺も夢の旅人になる。
まぶたを閉じた視界には氷の大地が広がっていた。その眼下にはペンギンたちが大勢いる。ペンギンたちの出迎えを通り過ぎ、アンデス山脈を横切ったその頃アンナちゃんはすっかり夢の旅人に。
なんか俺ずっとそわそわしている。アンナちゃんのこと好きになったのかも。人と抱き合ってこんなにときめいたり、安心感を得たのは初めて。もちろん酒臭くないし、いつ暴れ出すか不安もない。出来たらずっとこのまま毎晩アンナちゃんと抱き合って眠りたいが・・・・
パナマ運河を通り過ぎたあたりでもう朝。夢飛行は、最初は怒号の乱気流で不安だったけど、それも止んでいつになく暖かくも良い心地だった。
そして、俺は今までにない昂りでドキドキしていた。
しばらくしてアンナちゃんも夢の飛行から着陸して起きてきた。
「おはようアンナちゃん」
「おはよう楓雅くん」
となんとなくだが、スッキリしたようだ。
「昨日どこ行ったの?」
と俺が聞くとアンナちゃんにっこり笑って
「アンナね、お星さまのトンネル抜けて、雲の上を通ったけど、降りて雲に乗りたかった。楓雅くんは?」
「お星さまのトンネルきれいでいいよね。俺は氷の上でペンギンが出迎えてくれて、大きな山の横を通って、大きな川の上を通ったよ」
「へぇペンギンさんに会えたんだ、よかったね。でも一緒に行けないんだね。一緒が良かったけど」
とアンナちゃんちょっぴり悲しそう。そこで俺が
「一緒は難しいかも。だけどいつかきっと一緒に同じ場所にたどり着ける気がする」
と言うとアンナちゃんは
「うん、行けたらいいね」
とまた笑顔。
「でもさ昨日のあのおじさんいつも怒るの?」
とアンナちゃんが言うので
「毎日じゃないけど、たまにかなぁ。あのおじさん起きるの俺が公園から帰って来る頃で、今の時間は基本寝てるから大丈夫」
「そうなんだ」
とまた一つ安心したようだ。
二人でふとんを片付けアンナちゃんがパン耳と牛乳を支度して朝飯。食べ終わったら10時までテレビタイム。マジキュアで作中に出てきたなつこちゃんの弁当屋のコロッケが旨そうでアンナちゃん
「コロッケ食べたいね」
「近くにコロッケ旨い肉屋あるけど、今日休みなんだ。明日行こう晴れてたら」
と言うと
「うん明日楽しみ」
と言ってくれた。
玄関を開けて公園を覗くとママ友軍団がいるので、部屋で待機。俺達二人は肩を寄せ合ってテレビを見続ける。今度は昭和のロボットアニメ、マシンダーZ。アンナちゃんは男と女が半分ずつ一つになった敵幹部 べんてん男爵を見て笑っていた。俺はマシンダーZと光輝くんの活躍見ようとするが、またそわそわしてなんか上の空、赤面してたみたい。
だめだもうこれ以上たまらない。番組が終わってニュースになったので、テレビを消し正座で背筋を伸ばし、つばを飲み込み、ついに意を決して聞いてみた
「アンナちゃん・・・そのぉ・・・人を好きになったことない?」
そうすると頬を少し赤く染めるアンナちゃん
「あ、ある」
たどたどしく答えるアンナちゃん。俺は胸の鼓動が抑えきれず、もう一度意を決して
「アンナ。俺アンナが好き。いますごいドキドキしてる。初めてなんだ女の子のこと好きになったの。だからずっと一緒に居たい。頑張って離れ離れにならないようにする」
「私もふうくんが好き。いますごいドキドキしてる。初めて男の子のこと好きになったの。だからずっと一緒にいたい」
アンナの目は真剣だが、どこか喜びの表情があった。そして俺達は改めて正座で向き合いお互い
「よろしくおねがいします」
と頭を下げ合って抱き合った。本当にこんな温もりや心地よさは初めて、そして
「ねぇアンナキスしよう」
そう言うとアンナは黙ってうなずいて、もう一度ぴったり抱きしめ合い、瞳を閉じ、長く長くキスをした。こんなに穏やかな気持ちになれるキスは初めて。アンナの人柄や思いがひしひし伝わってくる。キスは誓いの印。だからこそアンナと離れ離れになってはいけないと思った。
そして俺は長い間かかった宿題を終えたような開放的な気分になもった。
昼過ぎてもう一度外を見たらママ友軍団が居なかったので、公園に出かけた。二人並んで手をつないで。
誰も来ない公園。恋人同志にとって二人きりの時間は寒さを気にせず、楽しみと高揚感で本当に心地良い。少し遊んでパン工場でチョココロネとメロンパンを買い、スーパーで安売りの牛乳をまとめて買いそれを公園で食べた。
外で物を食べるのは久しぶり。なんかピクニックをしている気分だった。
告白を受け入れられますます昂る俺。日が暮れ夕焼け小焼けが鳴ったので
「ふうくん戻ろう」
「うん、今日は土曜だョ全員集合やるんだ、観よう」
「それ、なぁに?」
とアンナが聞く、俺が
「昭和のお笑い番組、すっごい面白いんだ」
「見たい見たい」
「よし戻ろう」
と言ってまた手をつないで部屋に戻った俺達。隣の部屋は起きてないのか、まだ電気が点いていなかった。
部屋に戻って手を洗ってまたキスする俺達。今夜からふとんは隣の部屋から一番遠い場所に敷こう。そうすれば悪天候の影響は少ないと見たので。
夕飯は買い置きのインスタントカレーをレンチンしてアンナがテーブルに並べる。大人一人前をそれぞれひとつずつ、アンナはマジキュアカレーは好きじゃないらしい。俺もライダーカレーは好きじゃない。カレーを食べ終え片付けると、全員集合傑作選が始まった。
土曜だョ全員集合は本当に面白い。
アンナは初めてだったみたいで、プラスチックで出来たソフトクリームのようなう◯こ、最初はグー、国語算数理科社会、特にアンナはあたしってだめな女ね、ぬぅまぁたまぁぁごぉぉぉの夫婦コント、母ちゃんコントを特に面白がっていたのと同時にどこか憧れの眼差しを向けていた。
サとちゃんの う◯こち◯◯ん、ちょっとだけよ~ は二人揃って笑いが止まらない。
加村の東丸山音頭のアヒルのバレリーナのいっちょめ、いっちょめ、あぁぁぉぉぉ、ボイチェン早口言葉、カラスの勝手でしょ、加村うしろうしろ~で俺達の腹は笑いでよじれてあっという間に ババンババンバンバン 宿題やったか?お風呂入れよと、サとちゃんでエンディング
こんなにテレビを楽しめたのは久しぶり。アンナは初めてだったと。普段夜はテレビを見ないそうだ。
テレビを見終えるとアンナが
「ねぇお風呂どうする?サとちゃんが入れよって言ってるよ」
「じゃぁ俺風呂支度してくるから、アンナ先に入って」
と言うとアンナは不満げに
「一緒に入ろうよぉぉ」
と言うから渋々了承した
スイッチを入れて温度を少し低めに設定し、沸いたので一緒に脱いだらアンナが
「ふうくん、やっぱ男の子だね」
「なんで?」
と聞くと
「だってゾウさんあるし」
そう言われると思ったから、一緒に入りたくなかった。
お互い背中を流し合い、湯船につかってまた抱き合う二人。アンナの温もりに湯加減が加わって、より一層温かい気分になれる。
「お風呂はあったかいし、さっぱりしてきもちいい」
それが二人の合言葉だった。
体をしっかり拭いて髪も乾かし、パジャマに着替え今夜もせんべい布団の飛行船に。
搭乗後まず抱き合ってじっくり見つめ合い瞳を閉じて息が続くまでキス。今夜はアンナが俺の顔を胸で受け止め、なんかお母さんみたい、そして
「ねぇふうくん、今夜はどこへ行けるのかなぁ。私はおかずとご飯の国とおやつの国に行きたい」
「いいなぁそれ、まずおかずとご飯の国でたっぷり食べて、食後におやつの国。おやつの国は果物もいっぱいあってもぎ放題とか」
「それいい一緒に着いたらいいね」
とアンナが言って、俺がそろそろ出発だよと言うと、優しくも寄り添い抱き合い眠りにつき、互いの瞼の裏のスクリーンは離陸の模様が映されたようだ。
ここで一度本編はお休みです。1,2話アンナ目線で過去を振り返り、本編再開です。




