第2話 突然の来訪者はロシア人の美少女 そして一緒に暮らし始める
玄関を開けるとおっさんが女の子といっしょにいる。女の子は俺と同い年、髪は黒いけど、明らかに肌が白いし、瞳は碧色、パッチリとした目に少し太めの眉、瞳は澄んではいるけれど、どこか寂しさが漂っていた。
「よぉ楓雅くん。お母さん用があるんだって。しばらく帰らないから、この子といっしょに居て」
とだけ言って食料の差し入れを置きさっさと帰った。こちらに質問させないように。
外国人でしかも今思えばかなりの美少女だから、こっちも気後れして何も言えない。気を取り直して女の子に話しかけてみる。
「ねぇ君名前はなんていうの?」
「ァアンナ」
怯えたように話す。
「何歳なの?」
「4歳」
「俺と同じだね。俺は楓雅よろしくね」
「うん」
「お腹空いてない?」
「さっき食べたよ」
「眠くない?」
「眠いかも」
「じゃぁそろそろ寝ようか?布団敷くよ」
アンナは心許ない声で
「独りは怖いよ。楓雅くん一緒じゃだめ?」
「いいけど、アンナちゃんいいの?」
「いいよ」
気恥ずかしさでいっぱいだったが、初めての場所で不安だろうから寄り添うことにした。
大人用のふとん一脚に二人で入る。少し距離は離れているけど、なんとなく温もりとアンナちゃんの不安と寂しさも伝わってきた。
背を向けて寝ていたけれど、アンナちゃんと俺向き合ってまた少し距離を縮める。
白人特有の気高さが顔ににじみ出ているが、案外気さくなアンナちゃん。向き合って心理的にも距離が少し縮まった。
「家さぁ母親がいなくて俺独りなんだ。たいしたもん食べられないけど、我慢してね」
「別にいいよ。毎日御飯食べられたら」
「どこか行きたいとこある?」
「公園に行きたい、行ったことないから。ブランコとか乗ってみたい」
「行こう。明日。向かいの公園。ただかなり遅い時間になっちゃうけど」
「やったぁやっと公園で遊べる。アンナ嬉しい」
アンナちゃん公園初めてらしく、期待に胸を踊らせていたようだ。もしかするとアンナちゃんもママ友軍団から公園出入り禁止になっているのかも?とこのとき思った。だけど、ママ友軍団が退散してから行くから誰にも気兼ねする必要はない。思いっきり楽しんでほしいと思った。
公園に行くことを楽しみに俺達は眠りについた。
翌朝午前7時。二人同時に目が覚めたけど、お互いぐっすり寝られた。布団に地図が書き込まれずに。
早速起きてパン耳と牛乳を出そうとするとアンナちゃん
「泊めてもらってるからアンナもお手伝いするね」
と言って紙皿にパン耳、紙コップに牛乳を注いで、二人揃って
「いただきます」
の合掌で食べ始めた。
こんな粗末な食事なのに旨そうに食べるアンナちゃん。
「アンナね、一度でいいから朝ごはん食べてみたかったんだ」
「朝飯食わないの?」
「ママね夜のお仕事だから、朝寝ててお昼ごろ起きて最初のご飯。それからもう一回寝て夕方起きて、アンナといっしょにお店に行くの」
「その後どうするの?」
「お店に着いて、ご飯食べてアンナは寝るよ」
「お店で寝てるの?」
「うん。お店に子供のベッドがあるからそこで寝るの。で、お店が終わると起こさないようにママがアンナを抱いて帰るんだ・・・」
というとアンナちゃん少し浮かれない顔した
「お店はロシアの人多いけどアンナはロシア語喋れない。ロシアの人怖い顔で怒鳴るから嫌」
「アンナちゃん何人なの?」
「日本人だよ。だけどロシアの子は友達じゃない、あっちに行けって感じで、ロシア語でどなるよ。お友だちは日本語が喋れるフィリピンの子一人だけ」
寂しそうに話すアンナちゃん。なんか悪いことを聞いてしまった。気を取り直して
「もしかして公園でハブられるのも、ママ友軍団のせい?」
「そう、水商売の外人の子はろくなもんじゃないから、近寄るなってママ友軍団に言われた」
やっぱそうだったか、アンナちゃんもハブられていたのか。そして俺も
「うちの母親はレストランのウエイトレスの他にパブにも行ってるけど、このアパートはやばいところらしくて、公園眼の前じゃん。俺が公園に向かって歩くとママ友軍団が怖い顔で見るし、いると入れないから、アイツラが出ていった頃に行くんだ。」
「えっ楓雅くんもそうなんだ。アンナと一緒だね。それに楓雅くんも外人さんみたい」
なんか一気にまた距離が縮まった二人。そこで俺も
「俺の父親はイランだかトルコらしいけど、会ったことないよ」
そしたらアンナちゃんも
「アンナもパパに会ったことないよ、ロシア人らしいけど。ママもロシア人だけど日本生まれ」
アンナちゃんの日本語は日本人のそれと変わりはまったくない。
最初の朝飯で身の上話が聞け、偶然とは言えアンナちゃんと俺、似たような境遇だったとは。なんか健気だけど脆さもあったアンナちゃん、このままずっと居てくれたらとも思ったけど、やがて引き離され二度と会えることはないだろうなんて予感も頭をよぎった。
朝飯が終わって今度は二人で絵本を読むが、またさらに物理的な距離が縮まり、二人仲良く本を読む。
そうこうしているうちに、そろそろ昼飯の時間。今日は思い切って
「アンナちゃん、この近くに旨いパン工場があるんだ。特にカレーパンとピロシキが最高、買いに行く?」
と俺が振ると
「食べたい、カレーパン。だけどピロシキはいらない。あとチョココロネも食べたい」
と目を輝かせて言ったが、ピロシキはいらないが引っかかった。
「よっしちょうどお昼だから行こう」
とアンナちゃんの手を引いてパン工場に向かったけど、人の手を握ってこんなときめきを覚えるたは初めて。なんとも言えない感じ。もしかして恋かも。でも浮かれていたらやばい気も少しした。
アンナちゃんは初めての場所に少し怯えながら俺が引いた手に導かれていた。
パン工場に着くと昼時だから結構人だかりが有った。今日は俺アンナちゃんがいるせいか妙に張り切って
「すいませんカレーパン2個にチョココロネと蒸しパンください」
と言うと工場の人アンナちゃんに驚いた様子で俺に聞く
「可愛い子ね。お友だち」
と聞くので俺は
「うんアンナちゃんって言うんだ」
って返すとアンナちゃんもにこりと工場の人に返した。パンの他に例によってパン耳とメロンパン、焼きそばパンと牛乳のあまりを2人分つけてくれた。
転ばないようゆっくり持って帰っるとアンナちゃんまた皿にパンを並べ、コップに牛乳を注いでくれた。
そして例によって二人揃って合掌して
「いただきま~す」
「カレーパン美味しいね」
「ここのカレーパンまじで旨いよ」
「他は何が美味しいの?」
「食パンとかメロンパン、昔ながらのコッペパンも人気だよ。あんバタ、ジャムバタ、きなクリ、ごまクリが旨いんだ」
「アンナ食べたい。また買いに行こう」
「うん・・・次はパン耳無くなったらね」
と返したけど、いつ金が無くなるかわからないし、約束を守れるかどうか不安だった俺。
昼飯を食い終わって時たま公園の様子を見ていたらママ友軍団が居なくなっていた。時間は15時頃。このタイミングでアンナちゃんに
「公園行こう」
「行くいく!」
今度はアンナちゃん待ちきれんばかりに俺の手を引いて公園に向かう。早速アンナちゃんブランコに乗って大変ご満悦。ほんとに楽しそうだ。滑り台やシーソーもアンナちゃんにとって初めての体験。
愉しい時間はあっという間、夕焼け小焼けが鳴って日も沈んだので部屋に戻ったが、
「アンナ毎日行きたい」
と目を輝かせて言うと
「うん毎日行こう。雨とか雪の日以外」
と言って返した。
夕方はマジキュア第二シリーズ見ててアンナちゃんが
「アンナねマジブルーム好きなんだ」
「なんで?」
と俺が聞くと
「真樹ちゃん家パン屋さんでしょ、美味しいパンとケーキ毎日食べられて羨ましいんだ。それに真樹ちゃんはね、チョココロネが大好きなんだよ」
「へぇぇ」
「それと、和菓子屋さんのあきのさん、お弁当屋さんのなつこちゃんも好き、もっと好きなのはなほちゃん。お料理もお掃除もお洗濯も得意だから」
男の俺はマジキュアに興味がないけど、もしかしてアンナちゃん。昼間両親が働いて三度の食事と常にそばに寄り添ってくれる家に憧れていて、水商売の母親を恥じていると感じた。
テレビも見終わり、そろそろ寝る時間。今夜も大人用ふとんを一つ敷いて、二人一緒に入る。距離はもっと縮まり二人並んで手をつなぎながら。
「アンナちゃん夢って見る?」
と俺が振るとアンナちゃんまたも困った顔で
「怖い夢よく見るの。だから独りで寝るの怖い」
とポツリ。
そこで俺が
「俺はどこにも連れて行ってくれないから、どこかに行く夢を見るようにしているんだ」
「どこへ行くの?」
「お星さまのトンネルを通り抜けたり、きれいな海に浮かぶ島のそばを通ったり、富士山のすぐそばを飛んだり。ふとんの飛行船が連れて行ってくれるんだ」
「おふとんが飛行船なの?」
「そうだよ。ふとんは夢の飛行船」
「アンナも連れて行って、お星さまとかお月様のそばまで」
「よっし、今夜から行こう」
とお互いワクワクしながら眠りに就き、せんべい布団の飛行船は離陸をした・・・・
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