第27話 正月飾りと餅つき大会も初めてな俺達だけど・・・
市場で買ってきた魚をしまって、乾物を持って上に行くと早速お母さんと安南が支度にかかった。
おせちってなんだろうと思っていたらお父さんがパソコンで見せてくれた。なんかお重に色々なものが入っている。どれも見たことも食べたこともないものばかり。他に雑煮や鏡餅、玄関飾り、凧あげ、かるたとかも見せてくれる。
「正月は新しい年を良くするように色々なご馳走や遊びをして愉しんで祝うんだよ」
って言うけどお祝いそのものを本当にしたことがない。だからみんなおとぎ話に見える。そして
「餅つきしたことないか?なら今日はパン工場の餅つき大会なんだ、楓雅も安南も行こう。俺は用事があるから送っていったら、後で迎えに行くよ」
と言って餅つきの動画も見せてくれたけど、楽しそうだけど、力がいりそうで大丈夫かなぁ?それからつきたての餅を食べるシーンも見たけど、びゅ~んと伸びて食べづらそうなんだけど・・・
期待を胸にパン工場に行くと、駐車場は大勢の人たちが餅つきを眺めたり、実際についたり、食べたりしている。俺と安南は餅つきを眺めて思わず
「ふうくん私初めてみたよ。お餅つくの。なんか美味しそうに見えるけど、大変なんだね」
「俺も初めて。こんなの知らなかったよ。正月は毎日食べられるんだって」
眺め終わって今度は振る舞いの列に並ぶ。が、しばらくして大声で喋る集団が来る。よく見るとそれはママ友軍団。そうこのそばの公園のあの軍団。そいつら子供も連れているからかなりの大人数。そいつら俺達を見るなり
「やだっあのボロアパートの水商売の乞食たちじゃない。いい格好してるけど、ただだから並んで卑しいわ」
と言いながら俺達の前に横入りする。工場の人は列に並んでくださいと言っているにも関わらず。そして
「水商売の乞食は目障りなのよ。さっさと帰りなさい」
と言って俺達を突き飛ばして列から追い出すけど、俺は動じないが安南は怯えだす。そして男の人が数人来て
「乞食は帰れほらっ」
と言いながら俺達を掴んで敷地の外へ叩き出す。
「やっぱ俺達はそういうもんなんだな」
また不安に苛まれる俺、安南はすっかり怯えている、とそこへ
「楓雅くん、安南ちゃん寒いでしょ?こっちへいらっしゃい」
と俺達の手を引いて建物の中へ連れてくれる人。そうパン工場の売店によく居て、俺達にパン耳やおまけを付けてくれた人。
「ごめんね気づかなくて。お父さんによろしくって言われてたから、さぁ中に入りましょ」
連れて行ってくれたのは工場の会議室。すでに人がいるけど、並んで餅を集っている連中とは明らかに違う人たち。まわりには餅でも入ってるような箱が沢山置かれている。そしてみんな俺たちを見ると
「可愛い子たちだなぁ。健蔵さん言ってたで。悠さん娘二人もらったって」
また言われたよ。もう勘弁してくれよ、そう思っていると
「まぁもう、男の子と女の子だから兄妹よ。しかも年も誕生日も一緒だから双子なんですって」
「わりぃなぁ奥さん。ところで君たち名前はなんていうの?」
聞かれるけど、知らない人だから答えようがないと、パン工場の奥さんが
「この人たちもお父さんとお母さんの知り合いなのよ。挨拶してあげて」
「俺は楓雅」
「私は安南」
いつもと違って揃ってないし、少し硬い感じ。特に安南は外の一件があったからなおさら。
「さぁあなた達お腹空いてるでしょ?お昼だからお餅沢山食べてね」
初めて食べたつきたての餅。実際食べるとびゅ~んと伸びて、切らないと喉に詰まりそうだけど、旨い。
「私初めて食べたよ。お餅って焼いたのしか食べたことないし」
安南も初めてのつきたて餅ですっかり怯えも解けたようで
「俺も初めて」
「初めてだったのね。新しいの持ってくるからね」
奥さん次から次へと餅を持ってきてくれる。餅に夢中になっていると
「ふざけんじゃねぇぞこの野郎!覚悟しとけよ!」
外では何やら怒鳴り合いをしているようで、窓から眺めると、例の公園の軍団が工場の人と揉めて餅も食べられずに追い出されたみたい。そして女の人が来て
「こんにちは。楓雅くん、安南ちゃん。お母さんが言ってたけど、ほんと可愛いわ」
餅に夢中になってる俺なんかわからないけど、安南は
「真樹ちゃん?」
突然言い出しても、お姉さん怒りもしないで
「真樹ちゃんって、マジイーグレットの?」
「そうだよ」
「私は真美っていうの。実はね私がモデルなんだ、真樹ちゃんの。私も中学の頃ソフトボールやってて。それに真樹ちゃんのお店のモデルもうちの海岸沿いの支店なんだよね。あのお話は海辺が舞台でしょ?」
「そうなんだ。私真樹ちゃん好き。毎日美味しいパンが食べられるから」
マジキュア談義で俺は蚊帳の外
「安南ちゃんはレストランのうちの子だから、毎日美味しいもの食べられるじゃない」
「うん。毎日きちんとした時間にお腹いっぱい食べても怒られないから最高」
「良かったじゃない。大きくなったらマジキュアになれるかもね。安南ちゃんいい子だし」
そう言いながら頭を撫でてくれる真美さん
しばらくして健蔵さん、麻子さんと健之介くん、寿希也くんもおじいさんとおばあさんと一緒にやって来た。寿希也くんのおばあさんなんかやんちゃ臭さがあるなぁ。
「よっ可愛い姉妹、ちがったぁ夫婦だったいな」
健蔵さんいつものやつ。
「良かったわねぇ仲良く食べて。お餅美味しい?」
って麻子さん。他の人も
「俺達もこういう可愛い孫がいてくれたらなぁ」
なんなんだろう?孫って?健之介くんや寿希也くんもパクパク食べてすっかりみんな腹いっぱい。俺も安南も初めてで夢中になって食ったからすっかり動けなくなった。
腹ごなしに外でみんなと遊びながら、餅つきを見たり、ついたりしているとお父さんが来て
「奥さんわりぃなぁ。あっみんな来てたんだな。俺は支店の正月飾りに行ってた」
「餅つきどうだったか?腹いっぱい食ったか?」
「餅つきすごいね。初めて見た」
「美味しかったよ。おばさんがおかわりどんどん持ってきてくれるから、お腹いっぱいだよ」
「よかったなぁ。じゃぁうち帰って支度の続きだ」
俺達は満腹、満足で、お父さんはたくさんもちが入った箱を抱えて家に戻った。次はなんだろう?
家に戻るとお父さん玄関用のしめ縄飾りと年末年始のご案内を店に掲げる。専用エレベーター前には花屋の人がなんか置いているけど、これ門松らしい。上に戻るとお父さんは丸い餅を白い敷紙の上に置いて、更に上にみかんを置く。
「この餅を置くとこれから1年いいことがおきるんだ。上に置いたのは橙って言ってみかんの仲間で、絞り汁はポン酢になるんだよ」
って。お母さんはなんか正月っぽい花をいけている。
「正月っていろいろ大変なんだな。これが普通なのか?」
俺も安南も見たこともない飾りやお供え、行事の連発に驚くし、楽しいし、なんか身も心もシャンとした気がする。
お父さんはもう一度用事があるって言って下に降り、俺と安南でお母さんのおせちの手伝い。昆布や干瓢を切ったり、干からびた魚や豆を水に漬けたり。これが出来上がるのは大晦日らしい。
これから俺達数日おとぎ話のような時間が来るんだろうけど、それが過ぎると今日のママ友軍団みたいなアンチも沸いてくるんだろうなぁ・・・・
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