第26話 正月の支度 それはおとぎ話への道かも・・・・・
不安だったテーブルマナーをなんとかこなせて、最後は満腹感のほうが勝った俺達。
例によって風呂に入って抱き合っておやすみのチューのまま眠るとすぐに朝、今日も俺はお父さんと外回り、安南はお母さんと一緒に掃除と洗濯。これがすっかり俺達の日常になった。午後は安南と二人きりか、お母さんと3人になるけど、俺がお母さんのそばに寄ると、安南なんか嫉妬してるみたいだけど、安南もそばに寄せちゃう。
するとお母さん
「あんたたちほらっおいで」
って言われて、お母さんに抱きついたり。でもあの女と違って怒らないし、なんかあったかいっていうか、やわらかいっていうか・・・・
一緒にお母さんに抱かれると、安南もすっかり抱かれて、いつの間にか嫉妬も消える。だから毎日が穏やかで、楽しく過ごせるけど、俺は毎日お父さんと一緒に挨拶まわりでちょっと疲れた。というのも歓迎してくれる人もいるけど、なんか怪訝そうな目で見る人、あからさまな視線を向ける人もいたから。
今日も暖かい朝飯の時間にお父さんが
「明日おせちの買い出しに市場に行くぞ。楓雅、安南一緒に行くか?でかい魚とかいっぱい有っておもしろいぞ」
と言う。そして俺達
「行くいく」
また二つ返事。だけど俺達
「おせちってなあに?」
と聞くとお父さんは
「あぁおせち初めてか?おせちは新しい年の門出とみんなの幸運を願って作って食べるものさ。結構旨いぞ」
お母さんは
「安南はおせち作るのも食べるの初めてなのね。来年はたくさん作るからお母さんと一緒に頑張りましょ」
と言ってくれる。さらにお父さん
「正月はなぁ、餅や雑煮も食べたり、初詣に行ったり、すごろくとか、かるた、福笑い、羽子板、コマ回し、凧あげなんて遊びもある。それともう一つお楽しみがあるんだ」
そう俺達、行事には無縁だったから。正月も誕生日もクリスマスもなにもないのが当たり前だった。この間のクリスマスもだけど、これからは楽しいことがやってくるだと思うと、なんかワクワクするけど、大丈夫だろうか?
明日の朝は6時起きだから、今夜は早めに寝ることに。布団に入って安南が
「私お正月初めて。またご馳走が食べられるの楽しみだよ」
「俺もご馳走も遊びも楽しみだよ。それともう一つのお楽しみってなんだろうなぁ?」
「なんだろうね?わからないよ私」
「俺もわからない。多分あれかも。安南はよその家に行くとか」
とちょっと冗談なのに
「やだよぉ私、ふうくんと離れるの」
ちょっと顔が悲しくなる
「それはないと思うけど、この間みたいに色んな人が来たりとかかもよ」
「だったらいいなぁ」
そう言い合って眠りに就いた俺達。
翌朝目が覚めてお父さんはすでに支度をして、俺達もすぐに支度。朝飯は抜きですぐに下に降り、会社の車で出発。お父さん
「おせちの他に店以外の食い物も出すから楽しみにな」
と言いながら市場に着く。
市場も俺達初めて。色々な店の人たちが忙しそうに買い出しをしたり、運んだりしている。魚屋に行くとお父さん
「おはよう。白身なにがいい?」
と店の人に聞く。すると
「今日はオナガがおすすめだね。あっこの子達だね」
おすすめの次は俺達を見てお父さんに言う
「そう、こっちが倅の楓雅で、こっちは娘の安南だよ。お前ら挨拶しろ」
「こんにちは」
と例によって声を揃えて言う。すると魚屋の人
「結構いい子たちだね。それに声を揃えて挨拶するなんて、双子みたいだね。服もおそろいだし」
「実は戸籍上は双子なんだ。偶然にも誕生日が一緒でよ。で一応倅のほうが兄貴で娘の方は妹だよ」
「へぇぇ。ところで君たち好きな魚あるかい?」
と聞かれて安南は
「マグロが好きな?」
と言うと魚屋の人
「うちはマグロはないんだ」
と言われると、水槽を指して
「あのお魚がいいかな」
と、するとお父さん
「あっちより、こっちに置いてあるほうが旨いんだよ。あの真っ赤な魚オナガダイっていうんだけど、あれの刺身を食うんだ。他は俺にまかせろよ」
と。そして俺
「タコとかあの長いヘビみたいなのかなぁ?」
魚屋さんは
「タコは正月の定番だよ。長いのはヘビじゃなくてアナゴだよ。煮たり天ぷらにすると旨いよ」
と。でお父さん
「ミズダコの生、ヒラマサ、カキ、コハダ、タラバのトッコン、イセエビ、アナゴ、紅白のかまぼこも」
と。
「オッケー。用意しとくわ」
魚屋さんに言われ、次の店に行くけど、俺達魚屋で色々な魚が丸ごと置かれた光景は初めてで、紺色、緑に近い青、真っ赤な魚や水槽に活かしている大きな魚もあったりでじっと見ていたかったけど、みんな早足だからそうもいかない。
次がマグロ屋でお父さんは安南に
「市場はマグロだけは別の店なんだ。ちゃんと買うからな。とびっきり旨いのを」
と言い。店の人に例によって俺達の紹介から挨拶。隣を見ると長い刀みたいな包丁で大きなマグロをバラし始めようとしている。すると店の人が
「見ていきな。だけど、危ないから離れてくれよ」
と言って見せてくれ、お父さんは店の人や他の人たちとおしゃべりをしている。普通は大人がおしゃべりをしていると、子供は飽きるけど、マグロの解体のお陰でそれもなく、俺達はずっと見入っている。
マグロの解体が終わった頃、眠そうなおじさんがやって来て、お父さんに
「この子らかい?」
「そうそう。よろしくな」
でまた例によって俺達二人揃ってあいさつしてお父さんに
「この人は?」
と俺が聞くと
「寿司屋さんだよ」
と。
「今度父ちゃんに連れてきてもらえよ」
と言ってくれたけど、寿司なんてスーパーのパックの寿司くらいしか食ったことないしなぁ・・・・・
マグロ屋の次は乾物屋で、鰹節、昆布、黒豆、田作りとかを買って、青果店から、調味料店に行くとこの間のケーキの人を見かけるとお父さん
「よぉ随分早起きしたんだな?二日酔いか?」
「マスター勘弁してよ。俺は真面目だって。年末で納品増えるからフル回転だよ。」
と軽口を叩いて俺達の方に向くと
「おはよう!楓雅くん、安南ちゃん。もういくつか寝るとお正月だな。いっぱいご馳走してもらって、お年玉もしっかり貰えよ。俺これから本社に戻って挨拶まわりの支度よ」
と言って時計を気にしながら急いだあのヤバそうな人。魚以外にも色とりどりで目移りがしてじっくり眺めたいけど、みんな買うものをさっさと頼んで店から店に行ったり、店の人は箱詰めや対応で忙しそう。
「よっしゃ、買うものも済んだから飯にしよう」
とお父さんが連れて行ってくれたのはフライの店でお父さんはアジフライ、俺は白身魚フライ、安南はチャーシューエッグのそれぞれ定食。奥から人が俺達に向かってくると
「まいどっ今日は娘ちゃんも一緒だね」
と言う人はこの間の競輪場の食堂のマスターでもあり、ここは支店。
「そうなんだよ。安南挨拶しなさい」
とお父さんに促されて、ここは安南一人であいさつ。し終わってしばらくしてもう品物が到着。
「揚げたてだから気をつけて食べろよ」
お父さんしばらく置いてから食べろって。早速食べてみるとやっぱ旨い。ボロアパートの時代に揚げたてなんてこの間のコロッケが初めてだったから。安南はチャーシュを一口食って
「なんかこれ、この間の浜系ラーメンのと同じ味がする」
って言うとお父さん
「あぁあそこかぁ。あそこのラーメン屋のマスターここでチャーシュー教わったんだよ。香ばしくて旨いだろ?」
「うん、美味しい。私これ大好き」
と安南が言うと目を細めるお父さん。俺も少し食って交換したけど、旨いよこれ。それともつ煮の小鉢もついてみんな大満足。
食べ終わって、車の積荷を確認して、会計を済ませて家に戻る俺達。車中で
「お年玉ってなあに?」
って聞くと
「まぁお楽しみにしておけよ」
とだけ言うお父さん。なんなんだろう?
正月これからどうなるのか?どういう楽しみなのか?それはおとぎ話のような時間なのかも?まぁ俺達にとって初めての行事。もしかすると世間一般では行われていることなのかも?
今日の市場も楽しかったけど、これからもっと楽しことが来そうで、ワクワクする俺達。いいことあったらいいなぁ。
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