夢のような空間 ビル最上階の大きな住まいと温かい食事に風呂
夕闇が迫る線路伝いを歩く俺達4人俺はお父さんに手を引かれ、アンナとは恋人繋ぎ。ゆっくりとした歩でたどり着いたのは ステーキ&ハンバーグ&ピザ Billy&Akkyの看板があるビルの裏側。専用のエレベーターに乗って着いたのは8階最上階の広々とした住まい。玄関を開け俺達思わず
「ただいまぁ」
と言ってしまった。さっそくお母さんが
「あんたたち、新しい服買ってきたから着替えなさい」
とおそろいの部屋着を出してくれた。お母さんは安南に
「安南、晩御飯の支度を一緒にしましょ」
と言って安南はその上にエプロンを着けて、お手伝い開始。俺はお父さんと一緒に布団を運んだりした。
しばらくしてお母さんと安南から
「ご飯にしましょう」
と声がかかった。テーブルを見ると、イワシの刺し身にフライに筑前煮、野菜畑にお父さんにはほうれん草のおひたしと冷奴があるそして安南が
「お父さんお疲れ様、どうぞ」
とビールを渡して早速注ぐ
「花嫁修業いい感じだな」
と褒めて上機嫌
そして俺達二人揃って合掌して
「いただきま~す」
きちんとした大人と一緒に飯を食うのは、初めてかも。今までだと下着姿の女がタバコを吸いながら缶チューハイを飲んでいる前で、機嫌を損ねないよう食っていたけど、安南も同じだろう。
筑前煮に安南は超ご機嫌、だけど俺の茶碗を見ている、お母さんもしかり。お父さんはビールを飲みながら
「どうだ、うまいか?」
「うん美味しい。人参とくに柔らかくて最高」
「よかったなぁ、それとこの刺し身食ってみ」
と言われてイワシの刺し身を食うと、なんてうまさなんだ。この世にこんなうまい食い物があったとは・・・
「このイワシはね、もらったのよ、すぐ近くで釣りたてをね」
とお母さん。そして
「フライも美味しいわ。特にこのタルタルソースはお店でも大人気なの」
とイワシのフライ。こっちも骨がなくて食べやすいし、臭みがない。なにより揚げたてでサクサクしている食感は最高。
温かい味噌汁があれば充分よ なんてどこかの映画に出てくるけど、こんなにうまい食い物をこれから腹いっぱい毎日食べられるなんて、本当によかった。
そしてお父さん
「たくさん食って、大きくなれよ。そしていつまでも二人とも仲良くするんだぞ」
そう、たくさん食べすぎて俺は動けなくなった。マスターとママさんの一緒の食事なんて初めてなのに、気兼ねする必要もない、機嫌も悪くならない、大人との食事が落ち着いて旨く食えることを初めて実感した。
食後に果物を食べると、今度は風呂、しかし驚いた。俺達が泳げそうな大きな浴槽で広々した洗い場はまるで銭湯のよう。お父さんと一緒に入って背中を流したり流してもらう。
「楓雅はよく食うなぁ」
「食べちゃだめだったの?」
「いやどんどん食わなきゃだめだ。それに好き嫌いもしなさそうだし、してなかったんだろ?」
「うん。俺初めてだよ。大人と一緒に飯食ってこんなに美味かったの」
「そうかぁそれは良かった。でもお父さんこれから毎晩一緒に飯を食えるとは限らないぞ。店や会社、他の用事で夜出かけること多いから。大丈夫水商売の勤めじゃないぞw」
「大丈夫だよ。忙しいんだから。それと下着で缶チューハイ飲んで絡まなければいいよ」
「缶チューハイは飲まないよ。俺はまずはビールと日本酒。飯食い終わってから、ウイスキーかブランデーだな」
と言って苦笑いをしていたお父さん。そして安南も合流して背中を流して湯船に浸かるとお父さん
「はぁぁどっこいしょぉ」
俺達も
「はぁぁどっこいしょぉ」
とマネをするとお父さん
「お前らは言わなくても大丈夫だよ」
って。安南は
「お父さん、お風呂大きくていいね。泳げそうだし」
「まぁ広いからな。それと楓雅、明日俺と一緒に付いてきてくれないか?」
「まぁちょっと大事な用なんだ。安南はお母さんと一緒に掃除と洗濯だ」
って言われると安南ちょっぴり寂しそうに
「一緒じゃだめなの?」
「少しずつ大きくなっていくと、仲良しでも別々のことをするようになる。だから安南も、お母さんと一緒に頑張ってくれ。別々でも仲は悪くならないから大丈夫」
その一言で安南も安心したようだ。
すっかり温まって、きれいになり、髪を乾かし、おそろいのパジャマに着替えて手をつないでそろって
「おやすみなさ~い」
そう言って俺達は寝室に向かった。そこには大人用の新しい布団が一つ敷かれていた。そこの二人一緒にもぐって抱き合ってチュー。ふかふかの新品は本当に気持ちいい。地図を描きそうで心配だけど、これまで一度も俺達描いたことがない。
「ねぇふうくん。私たちようやく一緒の場所に来られたね。ご飯は美味しいし、たくさん食べても文句を言われないし、お風呂は大きくてきれい、それにこのお布団すっごい暖かくて気持ちいいよ」
「うん、俺もそう思うよ。部屋もきれいで、怒鳴り声も借金取りも来ないし、香水と酒臭さもない。それに今まで夢で一緒の場所に行けなかったけど、ようやくだよ。俺これから毎日楽しいことおきそうで、ワクワクしてる」
向かい合って手をつなぎながらそう語り合う俺達。だけどこれからまた別の不安が起きそうな気もほんの少ししたけど、今はこの充実感にしっかりと浸かっていた。
二人が寝静まったころ、リビングで悠太郎と安芸子たちは
「すっかり馴染んだわね。あの子達。それれによく食べるわよ、本当に。作りがいがあるわ」
「今時珍しいよな。好き嫌いもせずしかも和食までしっかり食って。それにあんなに食べ方もきれいで礼儀もきちんとしている子たち。俺達もしかして幸運に恵まれたのかもな」
「そうよね。特に安南は心配だったけど、全然平気みたい」
「それとあれだぁ。うちの店のマスコットキャラクターは男の子と女の子だろ?もしかして、現実に出てきたのかもな」
「そうよね。あのキャラクターの子たちも好き嫌いしないでしっかり食べる設定だし」
「あぁほんと良かった」
そう言って二人が寝ている部屋のドアをそっと開けて覗く悠太郎と安芸子
「あらっ抱き合って寝ているわ。しかも幸せそうに」
「ここが永遠に安寧の場所になってくれたらいいなぁぁ」




