第12話 幕間 4歳の私 ようやく居られる場所にめぐりあえたかもしれないその1 アンナ目線
テルさんの運転するスヴァルに乗って夕焼けから星空のドライブでたどり着いたのはなんかどんよりとした感じのアパートだった。
道中ラーメンを食べてお腹も満足していたテルさん、ハイテンションで
「行く先の子、アンナと同い年で結構イケメンだぞ。よかったなぁ」
って言われても、知らない場所に連れて行かれる不安のほうが大きすぎ勝って、テンションが上がるわけもない。まして他人の男の子。お店のロシア人の男の子を想像して、余計不安が大きくなる。
着くとテルさん矢継ぎ早に
「よぉっこの子アンナっていうんだ。かわいいだろ? あっ大丈夫っ。日本人だから、後はよろしく!」
と言って帰ってしまった。ドコドコエンジン音を鳴らして。
出迎えてくれた男の子は楓雅くん。少し色白で長い睫毛にくりっとパッチリしたお目々、しっかりしていそうだけど、誰にも癒えない傷跡を背中に隠している気もした。
きっと私と同じかも、と初対面で親近感が沸いたけど、まだ緊張と不安のほうが勝っていた。
お互いたどたどしい自己紹介のあと、寝る時間になったのでふとんを敷いてくれた楓雅くん。そこで私忘れ物を一つしたことに気づいた。
それはいつも寝るときに抱いていたクマのミーシャンのぬいぐるみ。
ミーシャンが居ないと眠れない。どうしようかとまた不安が頭をよぎる。もう一脚ふとんを敷こうとした楓雅くんに恐る恐る
「独りは怖いよ。楓雅くん一緒じゃだめ?」
と聞くと
「いいけど、アンナちゃんいいの?」
「いいよ」
「オッケー」
と快く承諾をしてくれたけど、申し訳なさでいっぱいだった。
大人用のふとんにお邪魔させてもらう私。楓雅くんと距離を開け、背中を向けて寝たのも。楓雅くんの安眠の邪魔をしないよう。
だけど、楓雅くんが もっと近くにおいでと声を掛けてくれたので、向き合って色々身の上話が出来た。
大したものは食べられない、けれど毎日同じ時間に食べようと言ってくれる、ママ友軍団に締め出されているけど居なくなった隙を見て、公園で遊ぶことを約束してくれた楓雅くん。
ようやくまともな時間に食べられる。たとえ粗末でもいい、それに公園にも行ける。
私は人並みにほんの少しだけ近づけられる、そんな気もして、不安もまた少し消えていった。
翌朝楓雅くん、朝食にパン耳と牛乳を支度しようとしているとき、泊めてもらっている手前
「アンナが用意するね。」
と言って座って待っててもらった。一般の家庭だと、お母さんが用意して、お父さんは新聞やテレビを見て待っているんだろうなぁ・・・
「こんなものしかなくて、ごめん」
って言うけれど、誰にも気兼ねせずに朝ごはんを明るい朝日に照らされて食べられるなんて初めて。また一つ人並みを感じた瞬間だった。
朝食でお互いの身の上話がさらに進み、また距離が近づいて私たち。一つ一つの出来事で人並みに近づいていとも感じ始めていた。
私の両親はロシア人だけど、私の国籍は日本。楓雅くんの父親はイランかトルコらしい、母親は日本人。そして両方の母親は水商売でだらしがない、捨てられたこと、共通項が多い二人。
このときなんとなくこの困難二人で乗り越えられる、そんな気もしていた。
その後は掃除をしてゴミを集め、絵本やテレビで過ごす私たち。
お昼はパン工場でカレーパンにチョコロネを買ってもらって、メロンパンとか牛乳もおまけしてもらった。もちろんパン耳もどっさり。
お昼を食べ終わって2時間ぐらい後楓雅くんは玄関を開けて向かいの公園の様子をちょくちょく見る。ママ友軍団の退散を確認すると
「アンナちゃん行こう。公園!」
そう言われて一気にテンションが上がる私。
ついに公園で遊べる。
次回第13話は12月25日 21時3分頃手動で投稿予定です。
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