第9話 青空とひだまり さくらさんの思い そして翔太くんもやってくる
走り回ってちょっと疲れた俺達に、さくらさんが暖かいホットココアを買ってきてくれたので、ベンチで一息。散歩のおじさん、おばさんたちからもらったお菓子と一緒にお茶の時間。
「あたしさぁ、あんたたちくらいの頃、好きな男の子いたんだよね。だけどさぁ・・・」
突然ポツリと、さくらさんしんみりと・・・
「だけどね、まわりのママ友軍団が半分の子はあっちへ行け、町内のおじさんおばさん、おじいさんおばあさんたちも 半分はこっちに来るなって、言われてて」
えっさくらさんもしかして外人?俺達と違って日本人の顔なのに
「あたしの両親半島ルーツなんだよね。だけど、あたしも両親もあっちの言葉話せないし、」
「そんで、いつも仲間外れ。ある時助けてくれた男の子がいたんだよね。一人で立ち向かって」
「その子、あたしの手を引いてもう大丈夫だよって、家まで送っていってくれたんだよ」
「それから、たまに二人で一緒に遊んだりして楽しかったよ。いつからかその男の子のこと好きになって、だけど恋人同士にはなれなかった・・・・」
さくらさん、悲しみをこらえてさらに続けて言う。多分俺達にどうしても伝えたいんだろう。
「その子も両親が半島ルーツなんだけど、あっちの言葉が使えて、向こうの苗字のままだから・・・あたしはルーツが一緒でも日本国籍で日本語だけだから半分って言われて、一家揃って町内でハブられてた」
さくらさん、さらに思い切って続ける。
「それで向こうの両親が、怒鳴り込んできたんだよね。町内の顔役連れて。何言ってるかわからなかったけど、最後に一言。半分はこの街から出ていけって」
「それで終わり。大人が出てきたら子供のあたしたちには何も出来ない。だからあんたたちにはこの縁一生紡いでほしい、どんな事があっても。」
「そのあと引っ越した街は日本の人ばかりだけど、親切にしてくれたよ。けど面白がって◯◯人って言うやつもいてムカついて、やんちゃしたけど、両親には迷惑はかけなかった。」
「それからアルバイト先の社長が今の塾長。塾長は普段工事現場の親方なんだよね。親方の団体にとってあたしらのルーツは敵だけど、あたしにそんな意志ないと思って拾ってくれて本当に感謝。今はあたし正社員。今日来た人も一人そう」
ここでさくらさん、にっこりして
「あんたたちにもそういう人これから沢山来るといいね。外人だからって言って差別をでっち上げたりしたらだめ。そんなことしたら日本人の人だれも来なくなるよ」
このとき差別とかいまいち判らなかったけれど、よい子にしていたら、報われるのでは? そうも思ったけれど、本当にどうなるのか?半ば不安だった俺。
そうしていると、入口の向こう側から俺を呼ぶ声
「楓雅く~~ん」
声の主は翔太くんとお父さん。二人はベンチに駆け寄り
「楓雅くん、しばらくだね。俺の仕事の都合で翔太を付き合わせちゃたから」
とお父さんそして翔太くん
「楓雅くん隣の女の子は?」
と聞くのでアンナが
「翔太くんわたしアンナ。ふうくんのお嫁さん。よろしくね」
と言った瞬間。翔太くんは?マーク。大人の2人はにっこり微笑む。翔太くんのお父さんが
「楓雅くん可愛らしいお嫁さんもらったんだね」
って言うけど、俺は恥ずかしくて
「お嫁さんじゃないよ。友達!」
と言った。結婚できる歳じゃないから。
「翔太。楓雅くん夫婦と遊ぼう」
と言って皆で遊ぶ。アンナは余計嬉しそう。そして俺はまた少し恥ずかしくなった。
楽しい時間はすぐに過ぎ部屋に戻ることに。明日から翔太くんと3人で遊ぶ約束をして、車に戻った。
帰りの車中さくらさん
「洗濯物も乾いているだろうし、用件も済んでいるだろうね。今日は楽しかったよ」
「うん、楽しかったよ。だけど少し恥ずかしかった」
「ご飯美味しかったし、お参りしてなんかいい気分。それに願い事かなったみたい」
とアンナが爽快に話すとさくらさん
「なんで?」
「それはね。みんなにふうくんとのこと認めてもらえたから♡」
「あはは。そういうことか。」
さくらさんや大人たち、もしかして俺のことからかってるのか?そういう疑念も渦巻く4歳の俺。どういうわけかいつも完全に浮かれることが出来ない。
部屋に着くと隣の住人別の怖いお兄さんや真面目そうな人数人にも囲まれていた。
「あっあのう助けてください。ここれは弱者に対する差別です」
震えながらどもって言うけど、いつもの調子はどうした?壁やモニターがないと何も言えないのか?真面目な人たちは呆れた表情。
別の怖いお兄さん
「家賃払わないんだから当然だよ。親方のところで働いて返すか?」
そう言うと塾長苦笑いで
「壁に向かって吠えるだけの奴なんざ使いもんにならないからお断り。保険金でも掛けてこの世から叩き出すか?」
「やばいなぁ。塾長じゃ俺でも出来ない追い込み掛けられるだろうなぁ」
と言われ、しょぼい生活保護受給者は恐怖に怯えながら、荷物とズボンのシミとともに部屋から叩き出され、真面目な人達も遠目で眺めていた人たちも安堵の表情。
これで乱気流が発生する心配が一つ消えた。がまた別な悪天候に見舞われる気もしないわけではなかった俺。




