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夜明けのNocturne  作者: F肉
〜第一章〜
8/10

8.


 ジンは今日一日任務でいない。珍しい。


 私はといえば、相変わらず任務もなくお留守番。


 家に居ても、ジンに貸しを作ってしまった事を思い出してモヤモヤしてくる。他にすることと言えば、ジンの部屋から本を引っ張り出して読むことぐらいしかない。

 家に居ても良いことがないので、私は、射撃場で銃の練習をすることにした。



 練習用の銃を持って、バイクで射撃場へ向かう。


 射撃場に近付くほど銃声の音が大きくなり、自然と身が締まった。

 バイクを停めて中に入ると、既に何人か射撃の練習をしていた。


 射撃場はなかなか広い空間ではあるのに、一つ一つの銃声が耳をつんざく。ずっとこの空間にいたら、聴力が悪くなりそうだ。


 しかし、そのための防音イヤーマフ。ヘッドホンみたいな形のやつだ。

 着けたからといって、極端に銃声が小さくなるわけではない。だけど、直接鼓膜に響くことはなくなるので、耳に優しい。

 というわけで、イヤーマフを装着した。


 私は空いているレーンに立って荷物を下ろし、弾をマガジンに詰めて銃を構えた。

 ジンが銃を使っている時の姿を想像し、その形を真似して、丸型の的に狙いを定める。


 狙うは中央にある、小さな赤い丸。


 バンッ、バンッ!!


 銃弾を撃ち込んだ数だけ、キンキン……と薬莢(やっきょう)が落ちる。


 十発中、二発が、的の赤い丸に命中した。


 それ以外は中央の上部に穴を開けてる。

 銃の反動によって、弾が上に行ってしまったのだろう。


 これがテストの場合、どれだけ中心に当たるかが成績に反映される。

 今回、私は二発なので、下級クラスに匹敵する。


 つまり、苦手なんだよね、銃が。


 私は、刃物が得意で、銃が不得意。

 一方で、ジンは銃が得意で、刃物が不得意。

 それぞれ攻撃型の、短距離と長距離の短所を補い合って良いコンビではある。


 私が銃を苦手とする理由とすれば、反動があるせい。

 私の腕力では、反動に耐えきれていないんだと思う。

 ナイフと銃では、使う筋肉が違うから……、なんてのはただの言い訳でしかないんだけど。


 この前、ジンに銃の練習を付き合ってもらった時がある。

 その時に、ジンが手本を見せてくれたんだけど、彼の銃弾は全部、的の中心に命中。それはどんな銃でも百発百中で、改めてジンの凄さが目の当たりに出来た。


 私もジンみたいになりたい、と思いながらも、苦手だから練習したくないなぁって思っちゃうのが人間だよね。



 リロードをしていると、男性二人が射撃場に入ってくる。

 私の姿を見るなり、ニヤリと口元を歪めた。


「お、レイラじゃねぇか! 実力不足になっちまったから任務外されてここに来てんのか?」


「遂にジンにも見捨てられたりして〜! ギャハハ」


 なんか言ってるけど、銃声とイヤーマフのお陰で私には何を言ってるか分からない。

 多分、何か馬鹿にしてるんだろうなとは分かった。


 最初に話しかけてきた男の名前は、プリン。その隣で笑う男はラスク。二人は私の先輩だ。

 中級クラスだけど、組織内では問題行動ばかりで有名だった。


 どうせろくな事言ってないだろうから、私は先輩に見向きもせず、マガジンを強く叩くように入れる。


 反応しない私に気を立てたのか、プリン先輩が私の肩を掴んで無理矢理振り向かされた。そして、イヤーマフを外されて投げ捨てられた。


「おいゴルァ。無視すんなや」


 一気に耳に入ってくる騒音。鼓膜が音に慣れずに耳が痛い。

 こんな騒音で聞こえると思ってるのが、頭の悪さをうかがえる。


 イヤーマフを拾おうとしたら、イヤーマフを蹴られてしまって遠くに滑っていった。


「ちょっとこっち来いや!」


 それだけははっきりと聞こえ、強引に腕を引っ張られて外に出された。

 騒音に慣れかけていた耳は、外の静けさに対応出来ず、今度は全ての音が小さく感じた。


「先輩の話を無視するたぁ、良い度胸じゃねぇか」


 指の関節を鳴らしながら私に近づいてくる。


「そりゃ聞こえないでしょ……。何言ってるか分かりませんもん」


 私の口答えが気に入らないらしい。

 プリン先輩が「あぁ!?」と怒鳴りながら胸ぐら掴んできた。

 私は簡単にその腕を捻り上げ、先輩のこめかみに向かって銃口を当てる。


「いいんですか? 私、銃を持ってますけど」


 練習用とは言え、弾は実弾である。

 これで撃たれたらどうなるかぐらいは、頭が悪くても分かるでしょ。


 私の後頭部に硬いものが当たる。見ると、ラスク先輩が私に銃口を当てていた。


 ……だるい。


 折角、苦手分野の銃を練習する気になってたのに、一気に萎えた。行くんじゃなかった。

 しかも、長い間任務が無くてストレス溜まってるのか、こんなことでイライラしてきた。我慢しなきゃ。


 私は銃を下ろして、プリン先輩を離す。

 それを降参したと勘違いした二人は調子に乗る。


「おいおい、やっぱり女だぜ。ちょっと脅されらぐらいでビビってやがる」


「それな。本当に上級クラスかよ」


 ゲラゲラ笑う二人。

 うざ。無理。


 殴ろうかと思ったその時、私のスマホの通知が鳴る。


 二人の話を無視してスマホを開くと、ジンから『どこにいる?』とメッセージが来ていた。任務が終わって家に帰ってきたみたいだ。思ったより早かったなぁ。

 射撃場にいる、と打っている途中でスマホを取り上げられる。


「なんで無視すんだよ。なぁ? ジンに連絡して、余裕そうじゃねぇか」


「返して」


 私はポケットにこっそりと手を入れ、護身用の折りたたみナイフを握りしめる。


 我慢、と思ったけど、無理みたい。


 私はスマホを取り上げているラスク先輩へ、一気に間合いを詰めてナイフの刃を首に当てる


「聞こえませんか。返せって言ってるんですが」


 ラスク先輩が小さく悲鳴をあげている中、それでもなかなか返そうとしないので首に刃を食い込ませていく。


 そこで、私のスマホにジンから着信が入る。私は怖気ついているラスク先輩に隙をついて、スマホを奪い返し、電話にでた。


「ジン、ごめんね。今立て込んでて。射撃場にい──」


 今度はプリン先輩にスマホを取られる。


「やめて! 返して!」


 私はわざとらしく、ジンに聞こえるように大声で叫んだ。

 こうすれば、ジンが早く迎えに来てくれるだろう。


「なんだよ、急に。ジンと話す時だけぶりっ子か?」


「そうやって女らしくすれば、少しは可愛げがあるのによぉ」


「俺らが女にしてやろうか?」


 うぇ、キモ。 

 殺していいかな。


 一応私にも、人情というものが存在している。


 ここは遠慮なく抵抗してフルボッコにしてもいいけど、流石に弱い者いじめは良くない。


 それに、ジンがすぐに来てくれるって信じてる。

 ここはジンに任せたいので、私はキモくても暫く抵抗しないでおくことにした。


 二人は私の腕を掴み、人の目に付かない場所に移動させてくる。

 この人ら、さっき私に捻り上げられたこと忘れてるんだよね。鳥頭ってこういう人の為にある言葉なんだと改めて思った。


 茂みに連れられ、先輩は私の腕を木に押しつけた。

 凹凸の激しい木の皮で、手の甲が擦れて痛い。

 顔をしかめる私の顎に触れて、「よく見たら可愛い」とか「ジンとどこまで進んでるのか」とか、気持ちの悪いことをいけしゃあしゃあと話してきた。


「キモすぎ」


「あぁ!?」


 黙っていた私が耐えきれず、つい本音がこぼれてしまった。

 気付いた頃にはもう遅く、怒りで興奮して鼻息を荒げる二人。


 今にも殴ってきそう。

 殴られたからといって、心臓の痛みよりかは痛くないだろうから、私は殴られるつもりで歯を食いしばった。


 その刹那、プリン先輩の背後で黒い影がフッと現れた。


 ──ゴッ!


 プリン先輩の頭から鈍い音がすると、私の腕を押さえつける手が緩み、白目を剥きながらヘロヘロと倒れていく。

 入れ替わるように立っていたのはジン。


 拳を握ったまま、倒れたプリン先輩を見下ろして首を傾げる。


 来てくれた……。


 いくら弱い相手でも、緊張はしていたので、ほっと一安心した。


「なんだコイツ。パフェだっけか?」


「違う違う。プリンだよ」


 名前の認識されてないの面白い。

 ジンの一撃で倒れるなんて、よく中級でいられたものだ。それか、クリティカルヒットしちゃったか。

 ジンは、怖気ついて離れて見ているだけのラスク先輩を指差す。


「あっちがパン?」


「あっちはラスク」


 食べ物のジャンルは合ってるのに、おしいんだよなぁ。

 ジンの視線が私に戻る。

 無表情だけど少し怒ってるように見えた。それは私へ向けられている気がして、つい目を逸らす。


 私もちょっと調子に乗っちゃったかも。


「お前はなぜ抵抗しなかったんだ」


「ジンが助けてくれると思って……」


 深いため息が聞こえる。まるで子供が悪さをしすぎて呆れているみたいに。


 彼の鋭い目線が二人に向けられる。

 ラスク先輩がプリン先輩を引きずりながら逃げていた。ジンはその背中が見えなくなるまで、目で追い続ける。


 やがて赤い瞳が私に向けられ、強く私の腕を引っ張った。


「帰るぞ」


 躓きそうになる私を見向きもしない。

 普段の彼なら私の歩調に合わせてくれるのに、今だけは長い脚を大きく開いて進んでいく。


 どう見ても不機嫌な彼に、後悔が押し寄せてきた。

 何かと私を優先してくれる彼が、あの状況を見たら怒るってことを、どうして思いつかなかったんだろう。


 多分、抵抗出来るのにしなかった事に怒っているんだ。


 車の助手席のドアを開けて車に乗せられ、乱暴にドアを閉めた。

 普段静かな彼の足音も、今じゃ大きい。


 運転席に座った彼が、エンジンをかけてすぐに車を発進させる。踏み込まれたアクセルにより、身体がシートに押し付けられた。


 一つ一つの動作が乱雑になっている。気まずさを取り除きたく、ジンに話しかけた。


「ジン、ごめんなさい……」


 しかし、返事も何もしてくれない。

 聞こえなかったのかと思って、今度は大きめの声でもう一度謝ってみる。だけど、結果は変わらない。


 最終的には、家に着くまで無言を貫かれてしまった。


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