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夜明けのNocturne  作者: F肉
〜第一章〜
7/10

7.

 私達はある人に連絡をして、組織の施設内に向かった。


 施設の奥に、ひっそりと佇む扉がある。

 そこをノックしてカードキーをかざすと、ドアに付けられた機械が小さく鳴り、鍵がガチャっと勝手に開いた。


 ドアを開けると、目の前には、沢山のモニターとパソコン。その中心でカタカタをキーボードを叩く人影が目に入った。


 私達に気付くと、パソコンの奥から元気で溢れた顔で覗かれ、元気に手を振られる。


「やぁっほぉ〜」


 陽気な声でニコッと笑う彼は、フウマ・ローレン。


 私達と同い年で愛嬌が良い。

 クリーム色の柔らかそうな癖毛が動きに合わせてふわふわと動く。


「僕の所に来るなんて珍しいねぇ。僕も人と会うのは久しぶりって感じ」


 彼はこう見えて情報屋。


 色んな情報を入手しては、組織内で共有したり任務の手助けをしてくれてる重要な立ち位置。

 彼がいなかったら、この組織は成り立ってないと言っても過言ではない。


 ちなみに、任務中の無線は彼に繋がれる。

 この間の犯罪者グループを捕獲する任務の時も、無線で話してた相手は彼だった。


 私達は部屋の中に入り、フウマの横に立つ。

 パソコンの画面には、任務報告書の書類をデータ化されたのが写っている。

 報告書の整理か何かをしていたんだろう。


「仕事中にごめんね。一個調べて欲しいことがあるんだけど、今大丈夫?」


「いいよ。なぁに?」


 手を止めて、ニコニコと私を見ながら言葉を待つ。

 おやつを待つ犬みたいで可愛い。よしよしと頭を撫でたくなる。


「私に心臓に突起物みたいなものがあるみたいで、それが何かを調べてほしいの」


「心臓の突起物? だったら医療班で調べてもらえばいいじゃない」


 私は、そうじゃない、と首を横に振って、今の現状を全て話した。

 すると彼は目を瞑り、額を指先で叩きながら考える。


「うーん……、ちょっと待ってね」


 彼は記憶力がいい。


 一度入手した情報は脳内にインプットされる。そして、消去されることもない。

 まるで、容量が無限のメモリーカードが搭載されてるかのような記憶力だ。


 本人曰く、脳内で記憶のジャンルごとに引き出しがいくつかあるらしい。

 その引き出しの中で、更にジャンル分けされてるんだとか。


 想像できそうで難しい。考えれば考えるほど疑問が増えるだけだから、知らない次元のことは考えないでおこう。


 暫くして、フウマが眉をハの字にしながら肩をすくめた。


「ごめん、記憶にはない。初耳かも」


 フウマがパソコンのキーボードを叩く。

 一応検索サイトで検索してるみたいだけど、フウマで分からないなら、パソコンなんてもっと載ってないんじゃなかろうか。


 検索結果は、該当なし。


「最近レイラちゃんが任務から外れてるのはこういう理由なの?」


 人懐っこそうな温かい目が私を見上げる。


「それはあるかも。フウマは何か知らないかなって思って来てみたんだ」


 フウマは「残念ながら」と言いながら、再度肩をすくめた。


「まぁでも、()()段階では何も分からないだけだよ」


 フウマは情報屋だから、情報を仕入れようと思えば序の口。

 得意気に胸を張って、拳で自分の胸を叩いた。


「世間で公にされてない情報なんて、ごまんとある。僕が探してきてあげるよ」


「いいの?」


「勿論。可愛い女の子の頼みなら何でもするさ。でも個人的な依頼になるから、ちゃんと報酬は貰うよ?」


 可愛い女の子の頼みならとは言うけど、仮にジンだとしても、友人の頼みならって言って、なんだかんだで絶対引き受けてくれる性格をしてる。


「いくらの報酬をお望みで?」


 問いかける私を、彼は上から下まで視線を送り、私を指差した。


「レイラちゃんの身体かな♡」


 ウィンクするフウマの頭を、ジンが叩く。

 それが結構強くて、痛そうな音が部屋に響いた。


「冗談言うな。早く希望額を言え」


 頭を擦りながら「痛いなぁ」と不服そうに言う。

 フウマが両手の手のひらを私に向けた。


「レイラちゃんは、十万でいいよ。ジンは、二十万ね」


 ジンは、なんで俺も、と言いたそうに目が泳ぐ。


「レイラちゃん、相棒なんでしょ? 女の子にはそれぐらい出さなきゃ」

「……それは分かるが、三十万もいるのか?」


 フウマが頭の後ろで手を組み、「分かってないなぁ」と言って背にもたれる。


「ハッキングにどれだけ時間がかかると思ってるの?」


 私とジンは顔を見合わせて、同時に首を傾げる。


「一つの暗号を解くだけで、丸一日かかることもあるんだよ。しかも、それが何個もあったりするんだから、超大変なの」


 三十万といったら、だいたい暗殺任務、一回分の報酬額。

 フウマには、一般人が知らないような専門知識がある。

 私の代わりに情報を探してくれるんだから、その値段は妥当か。むしろ、安いほうか。


「おさらいするけど、レイラちゃんが知りたいのは、心臓の突起物の正体と目的でいいの?」


 私が頷くと、フウマは胸の前で親指を立てた。


「了解。じゃあ探しておくから、何か分かったら連絡するね。君達はもう帰って。集中出来ないから」


 手で払うように追い出される私達。早速取り掛かってくれるみたい。


 フウマの作業部屋から出て、私とジンは並んで廊下を歩く。

 ジンは考え事をしているようで、指を折って何かを数えている。

 数えてる所を邪魔するわけではないけど、ジンに話しかけてみた。


「ジンを巻き添えにしちゃったけど、お金出さなくていいからね」


 ジンは頷くこともせず、もはや話を聞いているのか分からないけど、何かを数え続けている。

 やがて指が止まり、ようやく私を見てくれた。


「大丈夫だ」

「え、何が?」

「払える」

「いや、だから払ってもらわなくても大丈夫だって……」


 ジンは私の言葉を無視する。

 本当に払ってくれるつもりなの? いくら相棒とは言え、当事者でもないのにどうして出してくれるんだろう。

 一文字に口を結ばれた表情から、何も見えてこない。


 ジンの顔をジッと見つめていると、ピロンっと私のスマホの通知が鳴った。


 画面を開くと、フウマから「来週までにお金ちょうだい」とメッセージが入っている。

 恐らく、これをジンに伝えるとすぐにフウマへお金を渡すだろう。

 この事は黙っておこう。


 了解、と打って画面を閉じる。すると、真っ暗になった画面越しに、反射して写るジンと目が合った。


「明日持っていく」


「勝手に画面見ないでよ!!」


 背が高いから、覗き込むまでもなく普通に画面が見えるんだろう。

 私が怒っても全く動じず、むしろ楽しんでいるように目を細めた。


 私だって、三十万は余裕で出せるぐらいに貯金してる。


 ……貯金というよりも、必然と貯まってるだけ、と言ったほうが正しいかな。

 ただ単に、娯楽を制限されてるからお金の使い道がない。それだけだ。


 だから、ジンに出してもらわなくても大丈夫なのに、彼は頑なに譲らない。




 後日、早朝にフウマからメッセージが来た。


 その通知で目が覚めたんだけど、内容は「ちゃんと受け取ったよ」と、絵文字のピースと一緒に送られている。


 寝起きで頭が回らなくて、最初、何のことかと思った。

 吹き出しの中にある、フウマらしい絵文字を長らく見つめ、ようやく理解が出来た私は飛び起きる。


 飛び出すように寝室を出て、既に明かりが点いているリビングへ向かい、勢いよく扉を開けた。


「ジン!!」


「おはよう。珍しく、早起きだな」


 ジンは何食わぬ顔で、コーヒーを飲みながら本を読んでいた。相変わらず読めない表情にムカつく。


 私は地を踏み鳴らしながら彼の元へ行き、胸ぐらを掴んで、前後に揺さぶった。


「早起きだな、じゃないのよ……! 三十万、フウマに振り込んだの!?」


 強い体幹で、ジンの身体があまり揺さぶれない。余裕そうに私を見上げ、短く「あぁ」と返事をした。

 平然とした態度に、怒りゲージが上がっていくのが自分でも分かる。


「あれだけ出すなって言ったでしょ!! なんで出したのッ!!」


 彼の善意なのだろうが、私はそんなのは求めていない。

 お金の切れ目は縁の切れ目とよく言うように、ジンには金銭的な貸し借りをしたくない。


 そんな私とは対照に、ジンは落ち着いている。


 彼は、ゆっくりとした仕草で私の手を掴み、優しく胸ぐらから離した。手を握ったまま、長いまつ毛が伏せられる。

 彼は悲しそうな目をしていて、その目を見ると心がキュッと締め付けられた。

 彼の少ない表情のレパートリーで、この表情を出させてしまったのは心苦しい。


「ただ俺が出したかっただけだ。駄目だったか?」


 声音が低くなって、自信というものも消失したような、とにかく悲しそうだった。


 私の怒りゲージは罪悪感に切り替わる。


 でもこれは、ジンにしっかりとしてもらわなきゃいけない。


「当たり前でしょ! 三十万って大金でしょう! せめて十万だけでも渡させてよ! そもそもね、私とジンはあくまでも他人でしょ? それなのに──……」


 いくら私がガミガミ言っても、彼は頑なに折れてくれない。


 それでいて、怒られた犬みたいに垂れ下がる耳と尻尾が見えるものだから、必死に説得しているのに、こっちが折れてしまいそうになる。


 それを誤魔化すように、私は怒ったふりをした。


「もう知らない! ジンの分からず屋! 頑固!」


 私は自室に閉じ籠もって、ふわふわとしたカーペットの上で寝転がる。


 こうでもしないと、私の罪悪感がいたたまれない。


 基本的に、ジンは私にお金を出させてくれない。

 生活費も全部彼が負担しようとしていて、そこは、と頑張って説得して、ようやく生活費だけは出させてくれることになっていた。


 そのお金に関する件が、今回にも影響してくるなんて……。



 結局、ジンに言っても駄目なので、フウマを頼ることにした。

 十万を握りしめ、事情を説明してフウマに渡す。


「え? そうだったの? でも、本人もいいって言ってるんだし、僕もレイラちゃんからのお金は極力受け取りたくないよ。自分の好きな物に使いなぁ」


 と、フウマも話が通じないので、私は心の中でめそめそ泣きながら帰った。


 けじめをはっきりとさせたかっただけなのに……。


 他人だからお金の区別はしっかりしなきゃいけないって思う、私の方が間違ってたりする?

 私の方が正しい筈なんだけどな。


 結局、誰も受け取ってくれなかった十万は貯金箱に戻り、全てジンが出してくれたことになってしまった。


 ……腑に落ちない。



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