シンゲルラニア
「どこだよここぉ…」
そのつぶやきが隣にいる彼女にも聞こえたらしい。
「どこ…言われましても…場所で言うとブラム国のA11区ですが…あ、あのもしかして…
覚えていらっしゃらないんですか…?」
刹那、俺の脳は即座に稼働を始めた…その結果。
(これは僥 ★ 倖、乗っかるしかねぇっ!)
「えっ?うっ、頭が…!何も思い出せない…っ!」
「でしたら、何かご自身の情報があるもの、とかは…」
「!!(もちろんここも演技である)………………………何もない…」
あ。
もしかして諦められる?そしたら本当に終わるんだが…
「で、でしたら…新しいものを発行しませんか?」
「…え、マジ、できんの!?」(天使!!!)
「は、はい!付いてきてください!」
そう言ってしゃきっと歩き出すエルフさん。
それを見てた俺↓
(あ、耳ピクって動いたぁ。かわええ…)
9割方思考停止していた。かわいさに。てかOLの姿...やば。
◆◇◆◇◆
「あ、自己紹介を忘れてましたね…私はエリナ。
エリナ・シュトゥラットです。気軽にエリナって呼んでくださいね。」
そう言って微笑む彼女を見ながら、俺は思う。
(リアルエロフじゃん…)
柔らかい感じがするが、絶対にブレない芯があると感じさせる表情。
切ったらそのまま黄金になりそうな輝きを放つ金髪と、硝子細工のような澄んだ青い瞳。
それとは対照的に絶大な破壊力を有している2つの…
「おいコラァ!」
「!?」急に自身に張り手をかます俺をエリナは驚いて見る。
「な…何やってるんですか!?ああ、赤くなってる…」
そう言ってエリナは俺の頬に手をかざして…
「《治癒》」
「!?えっ!?」(ま、魔法…?)
驚いている間にも痛みがみるみる引いていく。
(す、すげぇ…あれ、でもさっき…あの車…)
「あ、えっと…」
「どうしたんですか?えっと…」
「ヒロトです。ヒロトって呼んでください。」
あ、やべ。記憶失ってる設定が…
「ヒロトさん…どうしたんですか?」
あ、よかった。気づいてない。続けよう。
「この世界には、魔力…があるんですか?」
「?はい、ありますが…それが何か?」
「もしかして、この世界には…電力、というものも存在していますか?」
そう、俺が感じた違和感。それは、車(と言っていいかはわからない浮いてるアレ)が横を過ぎるときに、キィィィンとした音がしたのだ。その音がまさに元いた世界の電気自動車のそれだった。
「電力、もありますよ?よく分かりましたね…」
そう言ってエリナは、この世界について語り始めた。
概要はこうである。
この世界:シンゲルラニアは、元々魔力のみが存在しており、その後に進歩した技術によって電力が誕生した。昔はその力の違いが軋轢を生み、戦争も起こったらしいが…現在はこの2つはうまく調和して存在している…らしい。
◆◇◆◇◆
「着きましたよ!」
「おぉ…」
目の前には、ひときわ大きな建物。役所か?これ。
「ここで色々しましょう!」
「い、色々っ…て?」
「んーと、そうですねぇ…身分証の作成、税金の納付、あと…」
「魔法の鑑定…ですかね」
「ま…っ!?マジですかっ!?」
俺も魔法が使える!?…って、あれ?ちょっと待て。
税金…?
(俺、一文無しじゃん…)
「さあ、行きましょう!」
そんな俺の軽い絶望も露知らずなエリナに、半ば引っ張られるような形で目の前の建物に入った。