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【画集3弾発売中】幻想奇譚あやかし日記  作者: 惰眠ネロ
怪異アレルギーと保健室の怪談
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第九夜┊七「血染めの白衣」

 桜子《さくらこ》はどんなに体調が悪くても、総司《そうじ》が怪異と交戦する時は必ず付き従った。

 桜子《さくらこ》の治癒能力は自分には効かへんようで、高熱で朦朧《もうろう》としとる桜子《さくらこ》に、総司《そうじ》も最初は断固として同行を拒否した。けど、桜子《さくらこ》の頑固さは、総司《そうじ》さえも上回っとった。


「許可できない。君は体を休めるべきだ」

「私の他に、治癒士か結界術師を呼ぶあてがあるのなら大人しく休むわ。けれどそうでないのなら、私はついて行くべきよ」

「後方支援が無くとも、戦える布陣くらい考える。これは俺の領分だ」

「家族の傷病をその場でいち早く治すのが、私の領分。ここで言い合いをして消耗するより、私を連れて行って、手早く片付けて休ませてくれる方が建設的だと思わない?」

 

 そうやって強引に同行した桜子《さくらこ》やけど、現場で迷惑を掛けたことは一度もなかった。

 そんなフラフラな体でついてきてどないするん、と思っとった俺らの方が、桜子《さくらこ》に助けられる有り様やった。

 檻紙《おりがみ》の傍系だけあって、桜子《さくらこ》は空間把握能力も計算能力も高い。最後尾で支援する桜子《さくらこ》は、前衛で戦う俺らの《目》になった。


「鴉取《アトリ》、北北東7m先に一匹潜んでるわ」

「了解」

「そこから直進2m、60度の位置にもう一匹」

「任せて、うちがやる」


 好悪《こうお》はさておき、俺らは迷いなく桜子《さくらこ》に従った。

 桜子《さくらこ》の指示は明瞭やったし、確実に総司《そうじ》のサポートとして役に立っとった。

 駒《コマ》でしかない俺らは、軍隊《チーム》として正しい指示にはちゃんと従う。


 けど、相容《あいい》れないことも多かった。


「阿呆《あほう》が! 式神をかばう人間がどこにおんねや!」


 その頬を張り倒しそうになる手をなんとか振り下ろして、桜子《さくらこ》の肩を掴む。

 不意打ちに気付かんかった俺をかばって、あろうことか俺の前に出ようとした桜子《さくらこ》を、なんとか引き倒して助けた日のことやった。

 俺も桜子《さくらこ》も幸いにして怪我は無かったけど、そんなん結果論でしかない。死人が出てもおかしくない局面に、俺の怒りは収まらんかった。


「式神使いに嫁《とつ》いだことを自覚せえや! 駒《コマ》をかばっとったら命がいくつあっても足らんわ!」

「駒《コマ》だなんて言わないで。目の前で家族が危ない目に遭《あ》ってたら、誰だってこうするでしょう?」


 桜子《さくらこ》は計算のできる女やったけど、人間の倫理観を俺らにも当てはめようとする、危なっかしい側面もあった。

 桜子《さくらこ》はいつも、俺らのことを「家族」と言い張った。俺が自分らのことを「駒《コマ》」と呼ぶたび大喧嘩をした。


 ——治癒士は貴重で、死亡率も高い。

 そんな娘を、怪異と交戦の多い雛遊《うち》に嫁がせようと二束三文で売り込んできた時点で、桜子《さくらこ》の家族がどれほど桜子《さくらこ》を疎ましく思っとったかは想像がつく。

 御三家の直系ならともかく、血の薄い傍系では怪異自体が視《み》えへん奴らも多いやろう。よくわからん力を持って、人には見えへん怪異たちを視《み》る桜子《さくらこ》は、元の家族からしたら、それこそ化け物みたいなもんやった。


 桜子《さくらこ》はきっと、温かい家庭に憧れとる。だから俺らをその枠に当てはめようとする。おてて繋いでみぃんな平等、博愛主義の可哀想な女や。

 俺やって、桜子《さくらこ》の境遇を思えば、少しくらい夢見させてやってもええんやないかと考えたりもした。ママゴトみたいな家族ごっこに付き合《お》うたってもいい。それくらいには、桜子《さくらこ》のことを認めつつあった。

 ……でも、雛遊《ここ》では命に優先順位がある。


 日常生活の中でならいくらでも家族ごっこしたるけど、それを怪異討伐中にも持ち込まれたら桜子《さくらこ》自身の命が危ない。それだけは、どうしたって譲歩できんかった。


「あんな、仮に俺が人間やったとしても、アンタがかばったら駄目なんよ。治癒士は絶対に倒れたらあかん。周りの全員がアンタを守るために動いとる。好きも嫌いも関係ない、それが軍隊《チーム》の戦略や。治癒士さえ生きとれば立て直せる場面もある。でも、アンタが死んだら確実に戦線は崩壊する。治癒士として付いてくるなら、目の前で何人倒れても、絶対に自分だけは生き延びる覚悟を持たなあかん」


 俺の言葉に、桜子《さくらこ》はしばらく悩んどったようやった。


 他人を治すために自身を危険に晒す治癒士にとって、周囲の命を見捨てて自分だけでも生き延びろっちゅーのは、自分らの信念と相反《あいはん》するものやと思う。

 特に桜子《さくらこ》は思慮深く、他人への共感が強い。頭でわかってはいても受け入れるのは難しいやろうけど、それを理解してない治癒士を怪異の前に連れては行けん。


 俺の進言に、総司《そうじ》は理解を示した。



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